34.
全部で大金貨一枚と中金貨四枚払った。
湯水の如く減っていくが、まだ大金貨は二十五枚ある。
まだ大丈夫だろう。
「いい買い物ができたな」
「これでさらに奥までいけるにゃ」
「ああ、感謝するぞ」
「私もこれでモンスターと!」
「それじゃあ帰る?」
「先に帰ってくれ、俺はもう一つ寄る所ができた」
「はーい、それじゃあ先に帰ってよう」
「分かったにゃ」
「おう」
「分かりました」
転移門に入っていくのを見送り、ギルド本部に向かう。
受付で交渉人のところまで案内してもらう。
「どういったものが必要ですか?」
「武器、防具の性能の高いやつを買いたいと思っているのだが、名前は分からないから調べられるか?」
「そういったものは月一の催す競りに行ったほうがいいですね。ここは用は簡易の競り場です。たまにそういった物も売られていますがアイテムの登録期間は七日間しかありません。いい値で買われませんからそういったレアな装備は月一の競りで売られることが多いです」
「そうか」
売られているものを見たいだけなんだけど、そういったものって客に見せてくれるのだろうか。
性能の高いものは月一の競りで見て買ってもいいだろう。
見たいのは通常品の店で売っていないものだ。
それに試しに売ってもいいな。
「売ることもできるか?」
「もちろん、ただ転生書と住んでるところの確認が要ります。連絡が取れないとこちらも商売できません」
「それなら問題はない。品物はだが」
鞄からヒールプラントの葉を取り出す。
「これだけど、分かるか?」
「ほう、これは珍しい、ヒールプラントの葉ですね」
やはり分かるか。
品物を扱うところだ。分からなければそれこそ商売もできないだろう。
「相場は分かるか?」
「少々お待ちください」
カウンターの奥に行く。
値段や相場の確認だろうな。
データ管理も手間がかかるだろう。大変そうだ。
「お待たせしました。現在一品出品されていますので、買われるかは微妙ではあります。相場は大金貨七枚です。いくらで出しておきましょう?」
「大金貨十枚で頼む」
「相場以上だと売れない可能性もありますがよろしいのでしょうか?」
「構わん」
「分かりました。手数料として中金貨一枚頂いてますがよろしいですか?」
一枚でいいのか、問題ないな
中金貨一枚を渡し、転生書と家の場所を伝え登録してもらう。
「はい、確かに。それでは入札が入り次第こちらから連絡させて頂きます」
「ああ、ありがとう」
「こちらこそありがとうございました」
売れない値段に設定したのは売らないため、中金貨一枚で実験できたのなら安い。
競売の使い方も分かったし、次来る時は月一の競りか。
ギルド本部から出て、家に帰るため裏路地に向かう。
「おっと」
「きゃあっ! ご、ご、ごめんなさい!」
曲がり角で女の子とぶつかり押し倒される形になった。
どこの漫画の世界だ。
それよりどこか見たことある顔だ。
「いや、問題ない。しかし君どこかで……」
「あ、あのときの冒険者様! あの、すみません、助けてください!」
あのときの……ああ、リリーだ。とても懐かしく感じる。
それになにやら慌てている様子だ。
多分急いで走ってぶつかったのだろう。
「なにがあった?」
「えっと、変な人に追われて、それで……私はただ宿に行こうとしただけなのですが、そのとき急に話しかけられて……」
なるほど、それで裏路地から逃げてきたわけか。
「お嬢ちゃんー、どこいったのかなー? 大丈夫だよ、出ておいで、何も怖くないからさあ」
「ひ、ひぃ……」
追ってきた男の声だろうか、遠くから聞こえてくる。
それに対してリリーはひどく怯えている。
どの世界にもこの手のやつっているんだな。
いや実際に見たことはないけどね。
うーむ、どうするか。
対人戦は出来る限りしたくない、武器を持ってきてないし。
このまま逃げるのがいいか。
下手に姿を出すとこっちに来るかもしれない。
「落ち着け、ここならまだ見つからない、大丈夫だ。それよりも転生書を出してくれ」
小声で会話し、説得する。
このまま安全に逃げるならこの手しかない。
「え? え? どうしてですか? それより早くここから離れないとあいつが――」
「逃げるためだ、いいから早く」
「わ、分かりました」
俺も転生書を出してリリーが転生書を出すのを待つ。
リリーの転生書が出てパーティに誘う。
俺の方を見るので頷くとリリーも頷きパーティに入った。
もちろん周りに人はいない。
確実に人が居ないところを選んでいるのだから当然だ。
ここでなら大丈夫だ。
リリーを抱き寄せつつ、家の自室にワープを念じる。
無事リリーを部屋に連れてこれた。
でもなんでリリーがあんなところにいたのだろうか。
「え、えっと……なにが起こったのでしょう?」
「ああ、さっきのは内緒にしててくれ、秘密な」
「は、はい! 助けていただきありがとうございます。えっと、それよりここは……?」
「俺の家だな、最近買ったから埃っぽい。あまり気にしないでくれ」
「は、はい!」
うん、やはりいい子だな。
それに実年齢より幼く見え、子供っぽく可愛らしい。
「それより、なんであんなところに居たんだ?」
「リリシーお姉ちゃんに伝言があって、村にちょうど行商人さんが来たので乗せてもらったのですが、商人ギルドまで行ったら明日まで戻らないって聞いたので宿に向かおうとしたら」
「そいつに会ってしまったんだな」
「は、はい……」
「さぞ怖かったろうに。それならここにいるといい。明日一緒にリリシーさんに会いに行こうか」
「はい! ありがとうございます」
俺も用事があるしな。
といっても各都の噂話を聞きに行くだけだ。
情報収集だな。
しかしベッドは一つしかないから同じところで寝てもらうことになるな。
アキラのところには行かせない。絶対にな。
「にゃにゃ、コウの気配がするにゃ!」
ミーシャは扉を開けて部屋に入ってくる。
「にゃ!? その子誰にゃ? まさかコウ……」
「リリシーさんの妹だ。変なやつに追われていたから保護した」
「なんだ、そうなのにゃ」
「なになにー。あ、可愛い子だ」
「どうした? ……主、そいつは誰だ?」
「あら、コウ様はそういった趣味もお持ちで?」
ぞろぞろと来て好き勝手いいやがって。
「え、えっと、危ないところを助けて頂いたんです!」
「そういうことだ」
「そうだったんだ」
「そうだったのか」
「そうだったのですね」
こいつらなあ。
でも夕食にまた街に行くのだが、大丈夫だろうか。
飯を食べないわけにはいかないし、そのときは装備を整えていけばいいか。
「夕食時は各自新しい装備をつけていけ、変なやつが現れたら撃退しろ。命までは取るなよ」
「はーい」
「分かったにゃ」
「任せろ」
「私もですか?」
お前もだ。
リリーよりも年が上だろ。
甘ったれるな、しっかりせい。
「あ、ありがとうございます!」
「やることはないだろうけどのんびりしててくれ。どこまで掃除終わった?」
「料理場と食堂は終わったよ。それと井戸も整備が終わったから水が汲めるようになったよ」
「そうか、ならこれから料理ができるな」
「任せるにゃ」
「簡単なものしか作れんぞ」
「私は無理ー」
「私も無理ですね」
まあ今日は酒場でいいだろう。
食材を買うなら俺かアキラがついてないといけないからな。
明日から作ればいい。
金貨は今日の買い物で結構使ったからな。
大金貨があるといってもいずれなくなる。
ここ数日は狩りにも出かけてないのだから減る一方だ。
ある程度は掃除も済んだか、ほかにするところはないだろうか。
こういった来客のことも考えて客室も用意しておけばいいか。
今日の様な場合で客室が用意できて空いていたとしても一人にはしないだろうな。
怖い目にあった女の子を一人にするのは可愛そうだから同じ部屋でちょうどいいはずだ。
俺以外女だけどな。
そういえばいつの間にかハーレムだな。
ガルカスもいないし。
アキラも見た目も女だしハーレムでいいのだろう。
男と知っているがこの場合どうなのか分からない。
傍から見たら羨ましい状況なのは確かだな。
「あ、あの、私にお手伝いできることがあればお手伝いします!」
「もうほとんど終わったよな?」
「だにゃ」
「住むスペースに廊下、食事するところ、完璧だね」
「空き部屋はいっぱいあるけどな」
「昔は書庫もあったのですが、やはり全部無くなってますね。あ、そういえば地下室があるのはご存知ですか?」
地下もあるのか。
それは初耳だな。
どれだけ広いんだこの家は。
「それは聞いてなかったな、一度見てもいい。案内してくれ」
「分かりました。こちらです」
セエレに連れられ地下の入り口まで行く。
正直この屋敷は広すぎてすべて見回っていない。
というか見回れない。
地下の入り口は案外近く、二階に上る階段の裏というどこかで見たことがある構造だ。
入り口は壁にカモフラージュされていて普通では気が付かない。
セエレが壁に隠された仕掛けを動かし地下に続く扉が開かれる。
以外にもワクワクした。
隠し扉に秘密の空間、ワクワクするものだよな。
ランタンに火をつけ、辺りを照らしながら奥に進む。
階段を降りて通路を歩いていく。
奥に進むと一つの小さな部屋になっていた。
「ここは昔と変わっていませんね。ばれてなかったのでしょう」
椅子と机、それに本棚もある。
本を全部読むには量が多いな。
しかしいい具合の部屋だ。
最高の隠れ家だな。
セエレにとって思い出の場所らしいのでそのままにしておくことにする。
掃除も済んでるし、やることなくなってしまったな。
リリーがいなければセエレの腕を見るために都外に出ようと思っていたけどまあいいだろう。
「客室を掃除するにしても家具もない。まだ掃除しなくてもいいだろう」
「それなら装備の手入れをしたい。主、一式出してくれるか?」
「必要なのか?」
「綺麗な物を使うと気持ちいいだろ?」
「確かに、それじゃあ任せよう」
自室でアクシスは装備の手入れを始める。
椅子に座りつつ、アクシスを眺めのんびりする。
ミーシャとセエレとリリーも仲睦まじく話しているようで心配いらないようだ。
こいつら残して出かけることもできない。
まあ眺めてて心が和むからいいか。
アキラは夕方までダンジョンに行くとのことで出かけ、俺たちしか居ない。
夕方までこのままだろうな。