31.
ジルドに連れられ、店の奥にある待合室に通される。
以外にも綺麗、店のカウンターの散らかり具合が嘘のようだ。
「おう、お疲れ」
「お疲れ様です」
ジルドが老婆に挨拶を交える。
世話係、やっぱりいたんだな。
「セエレを連れて来てくれ、あと適当な女を三人ぐらいな」
「はいはい。少し待ってくださいね」
世話係は四人を連れてくる。
態度が一人だけ違うのがいる。
四人部屋に入ると三人は会釈をするのだが、一人だけ棒立ちである。
多分あれがセエレか。
サーチで確認する。
セエレ 年齢19
職業:村人LV1 奴隷
所有者:
布の服
村人LV1って、これまでなにもしてこなかったのかな。
最初に出会ったリリーですらLV2だったはず。
外見も見るが、周りの女も悪くない。
しかしセエレは見れば見劣りする程度だ。
それぐらい美人である。
手入れされた箱入り娘ってところだろう。
しかしなぜ売られたのか。
「こいつがおめえのところの別荘を買ったそうだ」
「あの別荘を買ったのですか、それで私も買ってくれるのですか?」
教育された奴隷とは違うようだな。
偉そうではある。
「うーむ。見た目がいいのだがな、確かに態度が偉そうだ」
「だろ? だから売れ残んだよ」
「失礼な――」
なにやらジルドとセエレのコントが始まった。
いつもこうなのだろうか。
「駄々こねてっと、いつまでもここにいることになんぞ」
「それはいやですね。ここ辛気臭いですし」
「そんならさっさと売れるように気持ちを改めな。その喋りも直さねえと下衆どもに売っちまうぞ?」
「あら、それではこの者たちは下衆ではないのですね。でも着ているものが随分と貧相に見えます」
「にゃにゃ!」
「てめえ」
「おい落ち着けって……」
ミーシャが反応するのは分かるが、アクシスも反応するとはな。
それにお前のが貧相だろうが、布の服じゃねえか。
しっかしこの態度か。面倒そうだし買う候補すらならない。
「ジルドありがとう。そいつを買うのはやめよう。役に立ちそうにもなさそうだ。それに下衆にでも買わせたほうがそいつの教育になるんじゃないのか?」
「お前もそう思うか? 人の話も聞かないから仕方がねえよな」
「な、私だって役に立つことはあります」
「へえ、モンスターすら狩ったことがなさそうに見えるが?」
村人LV1だしな。なにが役に立つっていうんだ。
「な、なぜそれを?」
「ほう、よく分かったな。言ってなかったがこいつは元貴族だ。権力闘争に負けて借金を背負った哀れな一族の末路だ」
「まったくです。なんで私が売られる羽目に……」
多分一族からしたらお前が一番厄介だったからだろうな。
わがまま姫って感じか。教育大変そうだな。
「ふーん。ねえねえ、その子いくらなの?」
アキラが尋ねる。
お前、買うのか?
「ん? 大金貨二十五枚だぞ」
「じゃあこれで足りる?」
アキラは鞄から大金貨を出す。
ダンジョンを討伐したからある程度は持っていると思ったが、そんなに持っていたのか。
「……二十五枚あるが、本当にいいのか?」
「構わないよ。コウの奴隷にしといて」
「了解、確かに受け取ったぜ。まいどあり!」
「おい、面倒ごとを押し付けるな」
「面倒ごとなんて失礼ですね!」
失礼なのはお前だっての。
つうか、なに勝手に決めてるんだよ。
「金貨渡したけどさ、こいつ返品できねえ?」
「買ったのは嬢ちゃんだ。嬢ちゃん次第だろうぜ?」
「なあアキラの嬢ちゃん、考え直そうぜ?」
「いいじゃん、その子エルフだし役立つと思うよ?」
いやまあ確かに回復役になると思うけどさ。
なんで俺の奴隷になるのかな。
「お前の奴隷じゃ駄目なのか?」
「私はこれから酒場で暇つぶすわけだし、一緒に酒場に連れてたら私が目立たないよね? 邪魔よね? それに私に教育とか無理だしー」
お前……。
じゃあなぜ買ったのだ。
なぜ押し付けたのだ。
分からん、分からんぞ。
「はあ……お前掃除できるのか?」
「掃除? 侍女がやるものでしょ?」
ダメだこいつ。
どうしよう。
「なあミーシャ……任せてもいいか?」
「大丈夫にゃ、教育なら任せるにゃ」
「ああ、たっぷり可愛がってやろう」
なぜかやる気になっている。
元盗賊の親玉たちが元貴族を教育か。
すごく安心ができるのだが不安要素もあるんだよな。
あれ?
ちょっとまて、俺たちは別荘を掃除するさせて、身の周りの世話ができるやつを買いに来たんだろ。
役立たずを買ってどうする。
でも代金払っちまったし、アキラも返品する気もなさそうだしな。
俺の奴隷にさせるのを断ると金貨を無駄にしそうだし、諦めるしかないのだろうな。
「買うのはそいつだけでいいのか? ほかにまだいるぜ」
そう言って連れられて来た女三人は二度目の会釈をする。
誰かと違い、しっかり教育はされているようだ。
家の掃除をやらせるぐらいなら、あいつ買わなくてもよかっただろうに。
アキラの言い方だと、ダンジョンにいくならエルフは便利だ、みたいな感じだったからな。
家の掃除だけじゃなくて、戦闘もさせるつもりで買ったのだろう。
そしてすべて俺に押し付けたと。
連れて来られた女たちは、ミーシャ、アクシス、セエレと比べると、やはり今持っている金額で買える奴隷だ。
見劣りはする。
贅沢を言っているのだろうが、実際に贅沢してるから仕方がない。
元盗賊ではあるが、俺にとってはどちらも上玉である。
それに世話係なら男でも構わないと思ったが、適役な男の奴隷がいるとは思えん。
それなら多少でも目の保養になる女が一番いいだろう。
もう買ってしまった教育不足のやつを、教育させる必要が有りそうだし。
「こいつの教育で手間取りそうだからやめておくよ。君たちもごめんな」
「それじゃあ転生書だしな」
転生書を出して契約をする。
契約完了。
俺の職業が遠征者になっていた。討伐者の次になったのだろう。
「よろしくお願いしますね」
「ああ、よろしく」
上機嫌のジルドに挨拶をして店を出る。
厄介払いできた感じか。
「それじゃあ私は酒場で登録してくるからあとはよろしく! 夕方には戻るよ」
「はいよ」
「いってらっしゃいにゃー」
アキラはギルド本部に向かい、四人残る。
セエレに転生書を出させパーティを組む。
「あら、意外と熟練者の集まりでしたのね。同じ年なのに遠征者とは、心強いですね」
「当然にゃ」
「当然だな」
セエレは素直というか言いたいことを好き放題に言うタイプだろう。
本心が聞けるからそっちのがありがたい。
「それじゃあ一旦別荘に戻るけど、寄りたい所はあるか?」
「私はないにゃ」
「俺も問題ない」
「服を買ってもらえませんか? こんな服よりも可愛い格好をしたいです」
服か。
ボロボロの服着せるよりは、綺麗な格好してもらったほうがいいのは確かだ。
それにアクシスの服もなかったことだし、買っておいていいだろう。
「それじゃあ服屋に行くか。いつまでもミーシャの服着てるわけにはいかないし、アクシスの服も買わないとな」
「そうだったにゃ」
「いいのか?」
「問題ない、いつか買おうと思っていたからちょうどいい機会だ」
「そうか」
「ほら、早く行きますよ」
なんでお前が先導してるんだ。
いやまあいいけどさ、自由にしても。
服屋について、好きなものを選んでもらうことにした。
ミーシャはアクシスの服を一緒に選んでいるようだ。
セエレは……なにやら店主に問いかけている。
あまり迷惑を掛けるんじゃないぞ。
アクシスは普段着は鎧のが慣れてしまったらしく、寝巻きのネグリジェを二着購入。
予備でミーシャのをもう一着。
服のデザインはミーシャとお揃いの色違いだ。
一方セエレは……。
「中金貨五枚です!」
こちらに来て金額のみを言う。
「は?」
「だから、代金が中金貨五枚ですって!」
いや、五枚って何買うんだよ。
まあ着たい服が見つかったのなら払うけどさ。
「はいよ」
セエレに中金貨五枚を手渡す。
「ありがとうございます」
お礼は言えるのか。
まあいい子なのかな。
セエレは店の奥に行き、買ったワンピースを着て出てくる。
「それを買ったのか」
「あまりいいものはありませんでしたが、仕方がないですね」
「贅沢言うな、それにあの布の服よりもましだろ?」
「そうですね。あ、それと二日後に服を取りに行きますので、そのときはここまでお願いしますね」
こいつ勝手に仕立ての依頼をしたのか。
うん、まあ二日ぐらいなら別荘の掃除に時間がかかりそうだからいいか。
服屋を後にして都の噴水広場まで足を運ぶ。
日は真上にあるので昼頃だろう。
時計を買いにいくのはこいつらを別荘に送ってからだ。
一緒に連れていると、いつまで立っても掃除が終わらないだろう。
「とりあえず昼食にするか」
食べ終わる頃に家具と掃除道具は別荘についているだろうし。
「どこで食べるにゃ」
「酒場に行くか?」
「ようやくまともな食事が食べられるのですね」
どういう食事を取ってきたんだ。
作れば安く済むだろうけど、今は場所がないから食べに行くしかない。
アクシスの提案で酒場まで向かい、食事を取ることにする。
「はーい、それじゃあ私とダンジョンいく人ー」
「俺だ俺!」
「いーや、お前じゃ役不足だ。俺が行く!」
「あ? 俺に決まってんだろ!」
どこかで見た光景が広がっていた。
この短期間でなにがあったのだ。
そしてアキラはなにしてんだよ。
「あ、コウだ。やっほう」
「ここでもかよ……」
「これからダンジョン行って来るね」
「はいはい」
部屋の掃除さぼってるとひどい目合うぞ。
俺は知らん、手伝わん。