bitter&sweet
チッチッと秒針の刻むリズムだけが部屋に響く。
篠山美咲はひとりで使うには大きすぎるダイニングテーブルに突っ伏して顔の隣にある小さな箱を睨みつけた。
きれいにラッピングされたそれは、美咲の恋人である前田昭広が好きな銘柄のチョコレート。
(せっかく買ってきたのに…。)
時計を見上げると午後11時30分。
あと30分でこのチョコレートを渡す理由が消えてしまう。
『悪い、仕事が長引いていつ帰れるか分からなくなった。』
そう電話がきたのが午後8時を過ぎた頃。
学生と社会人では活動時間がずれることは当たり前でこういう電話も過去何度もあった。けれど、今回ばかりはタイミングが悪すぎた。
今日は、2月14日―バレンタインデーなのだ。
食事をとるために外に出た時、ふと思い出して買ったチョコレート。
知らず知らず雰囲気に流されていたのかラッピングまで頼んでしまった。
夕食を共にする約束だったのでその時にさり気なく渡そうと思ったのに。
「アキのバカ…。」
「誰がバカだって?」
「えっ!?」
突然聞こえた声に慌てて振り返ると、長身の恋人の姿があった。
「アキ…なんで……?」
時刻は11時45分。
今日中には帰れないかもしれないと言っていたのに。
「電話した後、思ったよりスムーズに仕事が進んでな。…それに美咲が寂しそうにしてたみたいだから急いで帰ってきたんだ。」
後半は意地悪く笑み混じりに言って、美咲をふわりと抱きしめた。
「………おせーよ、バカアキ。」
「ごめん。」
昭広の温かさに身を委ねながらむくれてみせると大きな手のひらが優しく頭を撫でる。
「ん?それ…。」
「あぁ、たまたま見つけたんだ。好きだって言ってたから買ってみた。」
「美咲が買ってきたのか?」
「なんか文句あんの?」
「まさか。嬉しいよ。」
思いがけない美咲からのプレゼントに浮かれているのか、昭広はにやにやと笑っている。
その様子に今更ながら恥ずかしさがこみ上げて顔が火照る。
昭広は「ありがとう。」と囁くとチュッと一つキスを落とし、チョコレートの包装を剥がしにかかる。
嬉しそうにパクつく恋人を横目に見ながら、たまにはこういうのも悪くないなと思う美咲であった。
久しぶりに可愛い話が書けました。
美咲は高校生くらいのつもりでしたがこの時期に休みってあり得ませんね(笑)
まぁフィクションなんで大目に見てください(^_^;)
昭広さんは美咲のお兄さんの家庭教師をしていたことがあり、美咲と出会ったのもその時です。
機会があればその辺も書けたらなぁと思いますが今回はこういう感じで。
お読みいただきありがとうございました(^-^)