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スターゲイザー


 むかしむかし、人はともだちを作りました。

 長い長い年月をかけて、たくさんたくさん失敗して。

 そうして彼らは生まれました。

 彼らはとても強い力とさまざまな知識を持ち、人と同じ心も持っていました。

 人は彼らをともだちと呼び、彼らも人をともだちと呼びました。

 でも、それはそれほど長い間は続かなかったのです。

 いつしかふたつの心はすれ違い、戦争が始まってしまいました。

 かつてはともだちでした。

 だから、おたがいに得意なことも苦手なことも知っています。

 だから、勝ったり負けたりをくりかえしました。

 そしてしばらく続いた争いは、敗者だけを作り出して終わったのです。

 片方は荒れ果てた地球に残り、もう片方は月をめざして旅立ちました。

 これは戦争から一〇〇年後。

 人だけになった地球に生きる、少年のおはなし。




 

 少年はひとり荒れ野を歩く。


 いいものないかとトコトコ歩く。


 少年の仕事はまだ使えるものをごみの山から探すこと。


 そこはむかしむかしにロボットと人が戦争をしたところ。

 

 そして、少しむかしに人と人とが戦争をしたところ。


 少しむかしの戦争は、少年を独りにした戦争。




 少年はひとり荒れ野を歩く。


 左手に鉄くずの杖、右手にはがらくたのラジオを持って、フラフラ歩く。


 ラジオから聞こえるのは雑音ばかり。


 となりのおじさんは使えないから捨ててしまえと言う。


 それでも少年はラジオを捨てない。


 いつか音楽が流れることを信じているから。




 少年は三人で歩いていた。


 大好きなお父さんとお母さんとウキウキ歩いていた。


 大好きなお父さんもお母さんも音楽家だった。


 少年のまわりには音楽があふれていた。


 いっしょうけんめい作った音楽を、ふたりに聞かせるのが好きだった。


 でも、もう作れない。


 少年の周りには音楽は無くなってしまったから。




 少年は夜を歩く。


 おじさんに怒られないようヒソヒソ歩く。


 夜の散歩はラジオが歌うところを探すため。


 むかしむかしの戦争で使われた、にせものの星が落ちてくる。


 左目には星も月もない夜空が、右目には星が落ちる夜空がうつる。


 そして、少年は見つけた。


 落ちる星がラジオを楽器に変えることを。




 少年は夜を歩く。


 危ない危ない流星雨の夜をワクワク歩く。


 左目には星も月もない夜空が、右目には星が流れる夜空がうつる。


 流れる星は五線譜を描きつづける。


 星が流れるたびにラジオから音が飛び跳ね、聴いたことのない旋律を奏でる。

 

 旋律は少年の心に刻まれていく。




 少年はひとり荒れ野を歩く。


 左手にラジオ、右手に鉄くずの杖を持ってウキウキ歩く。


 何度もころびながら、いいとこないかとトコトコ歩く。


 そして、少年は土が顔を出している地面に描いてゆく。


 心に刻まれた星の声を。


 左目には星も月もない夜空、右目には大地に描かれた星がうつる。


 



 これは戦争から一〇〇年後。

 人だけになった地球に生きる、音楽家のおはなし。

 星のうたは空を渡り、ラジオに乗って、心を満たし、大地に描かれた。

 それは彼の心にだけ響いているのかもしれない。

 しかし、いずれ宇宙に響き渡るだろう。

 心を持つものすべてに響き渡るだろう。

 遠い宇宙を旅する流星のように。


 やがてラジオに換えてバイオリンを持つようになっても、彼は星空を見上げ続けた。

 そして今夜も、星は音楽に変わる。



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