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理系院生の不運な就活 〜ガクチカで救ったバブル女子の恩返しが「事故物件専門部署」の内定って正気ですか?〜  作者: あさづき ゆう


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6/8

データから特定する沙織の居場所1

『あのイケメン、なんなの!? 突然、眠らせるって、襲うつもり満々すぎるでしょ!?』


 悠馬は研究室に入り、かばんから初代たまごっちを取り出すと、突然沙織が吼えた。強い、桃の刺激臭があたりに広がり、すぐに悠馬は息を止めた。


「あー、たぶん違う。浄化するつもりなら、宗司兄さんなら出会い頭にサクッとやる」


 沢山のモニターが並んでいる研究室に、派手なショッキングピンクの上着が見える。このモニターがたくさん並ぶ研究室には不釣り合いな色合いだ。慣れたと思っていたが、そうでもなく、色が目に染みる。


『……そうかもしれないわね。でもさ、本当に何なの、あの人?』


 沙織がトーンダウンして呟く。悠馬は手を振って部屋を浄化した後、できるだけ早く刺激臭が薄まることを期待して、研究室の窓を開け放った。


「何と言われても……神社の家系の跡取りとしか」

『うわ、今ぞくっとした! ほら、ちょっと前がみの立ち上がりが弱くなったと思わない!?』


 沙織が自分の前髪を指さすので、視線を向けるが正直変わったようには思えない。というか、強風が吹いても崩れそうにない。


「こんにちはー。あれ、先輩と沙織さん、もう来ていたんですか」


 返答に窮していると、彩乃が明るい調子で入ってきた。


「ああ、調べ物を先にしようと思って」

「先輩って、まじめ。みんなでやったら早いじゃないですか。それに沙織さんが思い出せば話は早いし」

『ご、ごめんなさい。私が悪いのよ……』


 彩乃の言葉に沙織がどんよりと落ち込む。気分が沈んだのがいけなかったのか、散ったはずの刺激臭がさらに強く漂っていた。悠馬は舌打ちして、もう一度浄化をする。


「それで黒崎は?」

「黒崎君、禊の塩風呂に入るから今日は来ないって連絡ありました」

「あいつ、まだそんなことしているのか……」


 つい遠い目をしてしまう。以前、研究室の飲み会の時に教えてしまった邪気払いの方法だ。邪気払いといっても、本格的なものではなく、0.02%の天然塩を入れるだけの風呂だ。気持ちがリフレッシュするとかで、実家によく来るおばちゃんたちがよく世間話として話している。おばちゃんたちの話を聞く限り、効果があるのはメンタルだけだ。


「最近はいい塩を使っているから、効果が高いみたい。どこぞの塩を取り寄せて、一袋、溶かしているって言っていたわ。贅沢よね」

「一袋? さすがに入れすぎだろう。死海レベルなんじゃないか?」


 もはや邪気払いではなく、苦行の域である。傷口がしみて恐ろしいことになりそうだ。傷口に塩を刷り込まれる痛みを想像して、体が震えてしまった。意識を切り替えるように、咳払いする。


「まあ、黒崎は放っておいていい。これから作戦会議するぞ」

「作戦会議?」

「そう。ちゃんと調査してから、場所を特定していく。K湖に行く前に、そうしておくべきだった」


 苦々しい顔で悠馬は説明した。彩乃がわかっていないのか、ぱちぱちと目を瞬く。


「でも、昭和だから調べるのには限界があるって……」

「昭和じゃない、平成だ。ひとつひとつ、丁寧に調べて行けば、もう少し精度が上がるんじゃないかと思っている」

『何を調べるつもりなの?』


 沙織が涙でアイメイクが崩れてしまった目で悠馬を見つめた。悠馬はいつも打ち合わせで使っているホワイトボートの前に立つと、空いている場所にマーカーを走らせた。


「沙織さんは91年11月、アッシー君……A君とともにドライブに行った。そして、その道中に喧嘩してK湖で物別れした。気付いたら初代たまごっちの中にいた」


 ボードには91年、そして初代たまごっちが発売された96年11月、最後には2026年の年号を書く。それぞれの年代がわかるように、縦と横に罫線を引く。91年の下には「沙織、ドライブの後K湖置き去り」、96年に「初代たまごっち発売」、そして2026年には「フリマ→沙織解放」、と続けて書く。

 それを見て、沙織と彩乃がふうんとよくわかっていない顔で頷いた。


「それがどうしたの?」

「沙織さんの記憶は91年の秋が最後。でも、初代たまごっちは96年11月に発売だ」


 そう言って、家から持ってきたノートパソコンを広げて見せた。そこには昨夜、K湖に行った後に調べた結果が表示されている。二人は身を乗り出して画面をのぞき込む。


「あ、本当だ。でも、細かすぎない? 結局、昭和でしょう?」

『彩乃ったら、何言ってんのよ! 91年は平成なんだから! このお茶目さん』


 彩乃が感心して見せ、沙織はもーぉと言いながらつんつんと彩乃の頬を突っつく。


「ええ、そうなの? じゃあ、なんで沙織さんは初代たまごっちの住人になったの? 時間、ずれすぎじゃない」


 彩乃は自分のスマホを操作して、K湖を検索する。沙織も興味深そうに彼女のスマホを覗き込んだ。


「うわ、すごい。心霊スポットとして有名なんだ。いっぱい、行ってみた系の動画が上がっている」

「俺も家でいくつか見たけど、有名になったの、2010年前後らしいな。それ以前は噂すらなかった」


 悠馬は彩乃に同意しながら、96年と2026年の間、2010年前後を付け加えて、「K湖心霊スポット認識」と記す。


「ますますわかんない。この年号に何の意味があるの?」

「わからないから推測するんだよ。そして、その後、裏付けをする」

「えー、面倒くさい。取り合えず行ってみたらいいんじゃないですか? 宗司さん、必要ならまた来てくれるって言っていたし」


 彩乃が不満そうに声を上げた。


「昨日と同じ無駄をするはごめんだ。お前のその直感でなんとかなるというの、直せ。卒論、書けないぞ」

「いいじゃないですか。現地に行って、二分岐探索で特定していけば、探索時間も大幅に短くなるし。行ってしまったほうが早いですよ!」


 彩乃が突然二分岐探索とわかった風に出してくる。悠馬は呆れたように彩乃を見た。


「お前、ちゃんと意味わかっているか? 二分岐探索はデータがソートされた状態でないと意味をなさないし、効率なんて上がらない」

「あれ、そうでした? 二分岐探索は半分ずつ探すから、いいと思ったのに」


 不思議そうに首を傾げるのを見て、悠馬は頭を抱えた。


(こいつ、そもそもガクチカの前に卒業できないんじゃないか……)


『ねえ、難しい話していないで、結局どうするの?』

「そうだった。わかっている情報だけで、沙織さんが怪異になってしまった経緯を推測する。そこから、考えられる事象を上げて、ひとつずつ潰していく」


 悠馬が考えていたことを告げれば、彩乃はパッと目を輝かせた。


「任せて! わたし、これでも推理小説大好きなの!」


 胡乱な目を彩乃に向けるが、彼女はうきうきしていて気付いていない。


「そうねぇ。彩乃さんは当時アッシー君と一緒にドライブ。ちょっとした口論がきっかけで――」

『ちょとしたことじゃないわよ! 私の記念日を間違えたのよ! 土下座レベルの過ちよ!』


 沙織が憤慨するが、彩乃はまあまあと落ち着かせる。そして気取った様子で、指を立てた。


「あくまでも推測だから。それでね、置いて行かれた場所はもともとそういう怪異が住んでいた場所なの」

「それは無理がある。そこが有名になったのはもっと後だ」

「もう! 先輩、黙って聞いて」


 彩乃に睨まれた悠馬は口を閉ざした。彼女はそれでいいと頷く。


「迎えを待っていたけど、夜になってもアッシー君は戻ってこない。沙織さんは心細くなって、歩き始める」

『それはあるかも。でもピンヒールだったからあまり歩けなかったと思うわ』


 うんうんと、沙織は合の手を入れる。彩乃は大まじめな顔をして、ホワイドボードに近づく。そしてマーカの蓋を取り、でかでかと余白に書いた「宇宙人」と。

 その文字を見て、呆気にとられる。


(宇宙人、何言ってんだこいつ!?)


 今までの流れから綱らがらず、悠馬の頭の中が忙しく回転し始める。彩乃はどや顔で、腰に手を当てた。


「そこで出会ったのが宇宙人! 不幸なことに、沙織さんはそのまま連れ去られて――五年後、宇宙人によって改造されたこのたまごっちに封印されたのよ。自分たちの痕跡を消すために」

『きゃあ、なんかすごいわ! そうよね、未知なる遭遇って流行っていたもの!』


 沙織が嬉しそうにはしゃぐ。はしゃげる要素が全く分からなかったが、これはちゃんと否定しなければならないと悠馬は口を開いた。


「ちょっと待て! 初代たまごっちのスペックは4ビットCPUだぞ? ROMサイズ16K、RAMが512バイトだぞ!? 宇宙人が改造したところで、何もできやしない」

「先輩……それこそが宇宙人が関与した証拠ですよ」


 憐みの色を見せ、彩乃がどこぞの探偵のように人差し指を横に振りながら、舌を鳴らす。悠馬の額に青筋が立った。


「はあ?」

「だって、不可能を可能にすることが宇宙人のテクノロジーですもの! これ以上もっともな理由なんてありますか?」


(あ、頭が痛くなってきた……なんでこいつは宇宙人に突然結び付けたんだ?)


 真面目に反論しても、すべて宇宙人と強引に結びついてしまう。彩乃の全能感に勝てる気がしなかった。思わず食らった敗北に、悠馬は恨めしい目を彼女に向ける。


「……これ、ガクチカにするんだろう? そんな荒唐無稽な話、書けないぞ」

「何、言っているんですか。ガクチカってキラキラがないとダメなんです。このわけのわからなさをリアルに結びつける熱量こそ、今、企業が学生に求めている熱量なんですよ! 不可能を可能にする発想の転換はこういうところに隠れているはずです!」

「絶対、違う」


 悠馬が言い放つと、彩乃が唇を尖らせて不満そうにした。


「先輩、熱量が足らないです。ガクチカって本当にわかっていないんじゃないですか?」

「あのなぁ。いくら何でも、捏造は駄目だろう」

「捏造じゃないです。そもそも、宇宙人がいないなんて、証明できるんですか? できるなら、今すぐやって見せてください」


 詰め寄られて、悠馬が言葉に詰まった。彩乃がにんまりと笑う。


「ほら、すぐに出てこない」

「――存在の否定は難しいんだぞ。宇宙理論は簡単に説明できるものではなく」

「簡単じゃないのは知っています! だからこそ、豊かな発想が企業は求めているんです! 機転を利かせて乗り切った就活成功談だってあるんですから」


 否定したいが、否定したところで倍以上に言い返されそうで悠馬は口をつぐんだ。


『それで、どうするの?』


 手持ち無沙汰に、自分の髪を弄っていた沙織が聞いてきた。机の上に座って、組んだ足をプラプラさせている。


「だから、現地に行って」

「今のガソリン代、知っていっているのか? まずは調査だ」


 すぐに出かけたがる彩乃を抑え、PCでグーグルアースを起動した。


「沙織さん、覚えている場所があったら教えてください」

『うわー、なんかすごいわね。これって、航空写真? 人文字を作ったことがあったのよ、懐かしいわぁ』


 沙織は珍しそうに画面をのぞき込んだ。K湖周辺を操作して、どんどんと移動していく。昨日立ち寄った場所を超え、さらに先に進む。やはり脇にそれた場所は沙織の記憶にはない場所だったようだ。


『あ、このあたり覚えているわ。ガソリンスタンドがあって』


 ガソリンスタンドと言われて、操作する。確かにガソリンスタンドの写真がそこにあった。ただし、すでに廃業しているのか、雑にテープが張り巡らされていて、建屋の壁には落書きされている。


「それで、この先に行ったんですか?」

『そうねぇ。しばらく行くと、コンビニがあって、信号を超えてから細い道に入ったわ』


 悠馬はその情報をもとに、マウスを操作する。


『あ、ここ……』

 しばらく無言でモニターを見ていた沙織が声を上げた。悠馬はそこで手を止める。


「神社?」

『そうよ、この神社よ! なんでも恋が叶うって聞いて、連れてきてもらったのよ。そうしたら、最後ケンカしちゃって』


 悠馬が神社を確認しようとマウスを動かした。その瞬間、右腕が反応した。ずるりと腕を這いずるような動きを感じ、すぐに左手で握り締める。そうすることで、動きが止まる。


(なんだ、これ? モニターを見ただけで?)


 初めての経験に、戸惑う。そこに映し出されたのは、管理されていない神社の姿だった。


『もうちょっと綺麗だったのに……やっぱり人気じゃなかったのかしら?』

「うーん、呪いをかけれそうだけど、恋愛成就は無理そう」


 彩乃とともにモニターを見ていた彩乃がそんなことを言う。しばらくすると、腕から嫌な感覚がすっと消えた。恐る恐る左手を離したが、何も起きない。ほっとして、体から力を抜いた。


『あああ、思い出したわ! ここにおいていかれて、せっかくだから湖を見ようと思って、階段を下りたのよ』

「……はあ? その格好で?」

『もちろん。私、ピンヒールでも全力疾走できるのよ!』


 当然とばかりに頷かれた。


「沙織さん、メロすぎます! そのスタイルで、富士山にも登っていそうなのも」

「今はそんな恰好で入山できない」


 富士山に登られてもたまらないので、くぎを刺しておく。


「沙織さん、A君の名前と連絡先、思い出してほしい」

『え? アッシー君の?』


 よくわからない顔をするので、頭がいたい。本当に自分を探してもらいたいのだろうかと考えてしまう。


「そうだ。この神社に置いていかれたのは間違いと思う。だけど、先日、宗司兄さんも一緒にいたのに場所がわからなかったんだぞ。アッシー君への裏どりもしておきたい」

「きゃー! 探偵っぽいですね! いい感じですぅ」

「お前は黙っていろ」


 彩乃が騒ごうとするのを止める。沙織は指を唇に当てて、うーんと考え始める。


『名前は……えっと。苗字は普通だったけど、名前がイケメンだったのよね。そうそう、田中卓也よ!』


 しばらく考えていたが、すぐに思い出したと顔を輝かせた。


「ええ、なんか普通……。特別になり切らないところがなんとも」

『何言っているのよ、すごくお金、稼いでいてブイブイ言っていたのよ! ブランドバックとかすぐ買ってくれたし』

「そんなことって、あるんだ?」


 バブル時期の金銭感覚に、悠馬は引いた。ブランドバックなんて強請られた瞬間に、お付き合い終了だ。


『うふふ~。名前を思い出したら、ポケベルの番号も思い出しちゃった』

「あ、いいですね! ポケベル番号から本人にたどり着くんじゃないですか? ね、先輩!」


 彩乃は興奮しているのか、遠慮なくばんばんと背中を叩いてくる。その手から逃れるために距離を取りつつ首を左右に振った。


「無理だな。ポケベルは一方通行の無線だからな。履歴は今のように残らない。なにより、すでにサービス終了が2019年だ。すでに情報なんて残っていない」

『うそ……もう鳴らないの?』


 しょんぼりとした沙織。万が一、使えたとして、ポケベルが鳴ったら恐ろしいだろう。しかも、沙織から。そうなった場合、連絡は来ないはずだ。


「じゃあ、辿りようがないじゃない」

「あとは人物検索だな。当時それほどブイブイ言わせていたんだったら、企業名がわかるんじゃないのか?」

『そうねぇ。彼、M商社に勤めていたはずよ』


 M商社と聞いて、悠馬の動きが止まった。


「マジか……俺もそういう有名で勝ち組企業に入りたい。そして、定時退社、有給消化100%で人生を謳歌したい」

「先輩、話が反れている!」

「ああ、悪い悪い。つい……。そうだな、すでに定年退職していても縁故はあるはずだ。うん、よし。検索しよう」


 最悪、宗司に頼めば、本家のネットワークで人探しなどすぐにできるだろう。宗司と顔を合わせるのは嫌だが、彩乃監修のガクチカよりも有効な気がした。

 ネットでどこまで個人情報が出てくるのかは不明だが、少なくともSNSをやっている人間なら引っかかるはずだ。悠馬は「田中卓也」と文字を入力してキーを押した。


「ひとりぐらい、引っかかるといいんだが」


 そんな程度の期待だった。なのに、「田中卓也」の人名は十人ほど検索結果で並んでいる。


「この名前、十人も同姓同名がいるのか!?」


 そう愕然とすると、彩乃が悠馬の手からマウスを奪い取った。そして、手慣れた様子で「田中卓也」を次々にクリックしていく。


「案外、潰すのは早そうですよ。SNSやっている人ばかりだし」

「どういうことだ?」

「ですから、SNSの中を見て行けば、沙織さんと同年代の人かどうかわかるじゃないですか」


 何言っているのだと言わんばかりの口ぶりに、悠馬は黙り込んだ。正直、SNSはほとんど見ない。彼が興味を持ってみるのは、技術系のノウハウを披露しているチャンネル、もしくは新しい部品についてのサイトだ。くだらない馬鹿話はほとんど見ない。


「この人なんて、明らかに二十代ですよ。ゾンビ・ピクルス踊っているし」


 クリックして新しく開いたウィンドウには、カメラに向かってゾンビ・ピクルスを踊っている男がいる。その肌つやから、六十代には見えなかった。悠馬はなるほど、と頷いた。


「このぐらいなら全部チェックできるな」


 そして、彩乃からマウスを奪い返すと残りを順番にクリックしていく。どの人も住んでいる場所も年齢もバラバラ。彩乃の適当な解釈を聞きながら、七人目をクリックして、ブログを開いた。


『あっ! 卓也だわ……多分』


 沙織が大声で叫んだ。そこには、禿げあがった初老の男性が穏やかな表情で写っている。ブログ名は「丁寧な暮らし――六十代現在」。


「ふうん。趣味はガーデニングとウォーキング。それから自家栽培のハーブと野菜を使ったスムージーを飲むこと。しかも、グルテンフリー実践中ですって」

「……聞いていたバブルの匂いが全くしない」


 悠馬がちらりと沙織を見やった。沙織は困惑気味に、画面を凝視している。


『卓也だと思うんだけど……でも、そんな油を落としきれるような男じゃないはずなのよ。でも似ているし、年齢だって』


 どうやら知っている拓哉と、目の前に出てきた拓哉が結びつかないらしい。彩乃は真面目な顔をしてブログを隅から隅まで読んでいる。


「多分、沙織さんのアッシー君な気がします。ほら、ここ見て」


 そう言って、彩乃が指さしたのはブログに書いてある一文だった。

――若い頃は、バブル絶頂期で好きだった彼女のブランドバックを贈ったり、深夜のドライブに連れて行ったり。キラキラした時代でした。懐かしい。時折、会いたくなる。

 そんな風に、思い出が語られている。


「でも、これだけではどこに住んでいるかわからないですね」

「まあなぁ。画像データに情報なんて残しておかないだろうし……おっと」


 特に期待せずに、情報解析ツールにブログの写真を指定する。すると驚いたことに、EXIF情報が削除されていない。


「マジか……脆弱すぎるだろ。ああ、自動削除機能が付く前か。はあ、ちゃんとセキュリティ考えろよ」

「でもこれで場所の特定ができましたね! 凸りましょう!」


 彩乃がキラキラした顔で拳を握り締めた。悠馬は位置情報から、マップを表示する。


「そうだな、せっかく会いたいって言っているんだ。このデータからターゲットはここにいる。会わせてやろうじゃないか」


 悠馬はモニター上のマップに指をとんと突き立て、にやりと笑った。


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