プロローグ
「もう、誰も信じられない――」
そう呟いて、俺は幾度も自分の心を閉ざしてきた。
過去の恋愛で深く傷つき、女性という存在にさえ距離を置いてしまった。
数年ぶりの“現場”。
オタク仲間の誘いで足を運んだ地下アイドルグループ「LUMINA」のライブ会場は、薄暗くも活気に満ちていた。
ステージのスポットライトに照らされた彼女の姿。
白咲香織――歌声は透き通り、ダンスはしなやかで、その目は何かを訴えていた。
一瞬で俺の心を鷲掴みにした。
こんなにも誰かに惹かれるのは久しぶりだった。
そして、終演後の特典会で彼女が見せた優しい笑顔が、
俺の壊れかけた心に少しずつ灯をともしていく。
「こんにちは、今日はありがとう。…あの、初めましてですね、僕は奏です」
香織は明るく応えた。
「こんにちは! わあ、初めまして! 来てくれてありがとう、奏くん」
僕は少し照れくさそうに言葉を続けた。
「香織さんの歌、すごく良かったです。今日、友達に誘われてきたけど、一目惚れしました」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「嬉しいなあ、そんなふうに言ってもらえると頑張れるよ!」
俺は心の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。
「これからも応援します。無理しすぎないでね」
「ありがとう、奏くん。あなたの応援が、何よりの力になるよ。次のライブも待ってるね。」
その優しい対応に、
俺の壊れかけていた心が少しずつ救われていった。