再会と覚悟
鉄と魔力が交差する音が、施設の至る所で鳴り響いていた。
破られた結界、蒸気のように立ちこめる魔素、そして──
リィナの目の前に、浮かぶ一本の杖。
「来た……本当に……来てくれた」
彼女の声は震えていた。恐怖ではない。希望の震えだった。
杖がゆっくりとリィナの手元へと降りてくる。
「そっちが、お迎えに来るなら──俺も奪い返すだけだろ?」
どこか冗談めいた声。でも、その奥には確かな決意があった。
リィナの手が、レンを握った瞬間。
施設全体の魔力が跳ね上がる。
「魔力接続、再起動──」
「──システム、完全連携!」
光の奔流が、ふたりを包み込んだ。
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廊下を駆けるリィナの姿は、もはや数日前の彼女とは違っていた。
封印されていた魔力が戻り、杖との共鳴が再び形を取る。
「前より、反応速度が上がってる。お前、何したんだ?」
「……わたし、自分の魔力と……あなたの声を信じるようにしただけ」
レンは微かに笑う。
「成長したな、お嬢ちゃん」
「……うるさいです」
その口調に棘はない。ただ、少しだけ──照れくさそうな温度がこもっていた。
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突如現れたふたりに、魔導協会の護衛たちが次々に立ちふさがる。
「再拘束しろ! 特異対象は逃がすな!」
「構わん。ぶち抜くぞ!」
レンの指示で、魔力が拡張展開される。
床一面に浮かぶ連詠陣──その中に、リィナが詠唱を走らせる。
「《響け、蒼の意志──》」
「《重ねよ、光の輪──》」
「《魔術式・共鳴展開──風蓮陣》!」
全方位から迫る魔導士たちの術を、逆に飲み込み、解体、打ち砕く。
「なんだ、あの魔法……!?」
「喋る杖と共鳴詠唱!? そんなの理論上──!」
「理論を超えるのが、こっからだろ」
レンの声が響くたびに、リィナの魔法が鋭く、しなやかに、そして強く撃ち込まれる。
──二人でなら、できる。
それは奇跡ではない。訓練と信頼の果てに、生まれた意志の融合。
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ようやく施設の外に出たふたり。
朝焼けの空が、ゆっくりと広がっていく。
「はぁ……逃げ切った?」
「いや、まだだ。これからだ。協会も本気を出してくる。俺たちを危険存在と見なした」
リィナは小さく頷いた。
「でも……大丈夫。だって、私は──」
言いかけて、言葉を止める。
レンが先に言う。
「お前ひとりでも、魔法は使える。俺がいなくても、もう大丈夫なはずだ」
リィナは、ゆっくり首を振った。
「……違う。私は、魔法を使えるようになった。でも、あなたとだから、できたの」
「……リィナ」
「私には、もうあなたが必要なんです。…杖、じゃなくて、レン」
その瞬間、レンの核にまたひとつ光が灯った。
強く、深く、温かく。
「ったく……泣くぜ、こんなん」