表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/13

(番外編)リィナ、笑う日

ギルドの朝は、騒がしい。


「おーい! リィナちゃん、こっち来て一緒に朝飯食べよーぜ!」


「また誘ってんのか、リース。無口な子は苦手なんじゃなかったのか?」


「ち、ちげーよ! 無口でも可愛い子は例外だ!」


「お前……」


そんな中、受付嬢ミーナは微笑ましくその様子を見守っていた。


「……ふふ、今日もモテモテね、リィナ」


無表情な少女は、少しだけ目を伏せ、テーブルの隅でパンをかじっている。

いつもと変わらないようで、しかし、何かが違っていた。


そう──


彼女は「笑える」ようになっていた。


ほんの少し、だが確かに。


====


その日、リィナはひとりで依頼に出ていた。


討伐対象は下級の魔物。彼女にとっては危険の少ない内容だ。

森を抜けた先、静かな河辺で一休みすると──


ふと、風が吹いた。


木の杖が、わずかに揺れる。


リィナは、その音に耳を澄ませた。


「……蓮?」


返事はない。

けれど、彼女の表情は緩んだ。


「うん、ちゃんとできた。魔法も、倒し方も。……あんまり暴走しなかったし」


また、風がふわりと吹く。


リィナは、静かに目を閉じて呟く。


「……ねぇ、蓮。今、どこにいますか」


沈黙が流れる。


だが、風の音が、どこか心地よく返ってきた。


──《ここにいるよ。お前の隣に》


そんな気がした。


====


その夜。


ギルドの食堂にて。

珍しく、リィナが仲間の輪の中にいた。


「おおっ!? 今笑った!? 笑ったよね!?」


「ホントだ……! いつも死んだ目してんのに……!」


「死んだ目って言うな」


ミーナが、くすりと笑って言った。


「リィナも変わったのよ。──きっと、大事な何かを、手に入れたから」


リィナは何も言わなかった。

ただ静かに、温かいパンを口に運び──そして微笑んだ。


小さな笑み。

けれど、それは間違いなく本物だった。


傍らには、一本の木の杖。

今はただの道具──けれど、風が吹くたび、どこか懐かしい音がする。


──喋る杖はもういない。

でも、彼の声は今でもリィナの中に生きている。


──彼女が、笑えるようになった日から。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ