魔導核の真実
夜の静寂を裂いて、一人の男が歩く。
ゼノ・グレイヴ──
仮面の奥の眼差しが、確かな確信を宿していた。
彼が向かう先、それはかつて封印された古代遺跡。
風蓮杖──レンの本来の眠りの地。
そしてその中央には、既に鍵が座していた。
リィナ・フェイルノート。
彼女の魔力が、扉を開けようとしていた。
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「お前、ここがどこだかわかってるか?」
ゼノの声に、リィナは答えない。
代わりに、レンが語った。
「ここは……俺が目覚めるずっと前、最後の術式が放たれた場所」
「そう。魔法文明の終焉をもたらした、風蓮の核──お前そのものが、災厄だったんだよ」
ゼノが投げつけた言葉は、刃のようだった。
「喋る杖? 笑わせるな。お前は人の姿だった時よりも、遥かに危険だ」
「……知ってたのか」
「当然だ。この遺跡は我々協会が管理していた。魔導核兵器としてな」
リィナの目が見開かれる。
「レンが……兵器……?」
「そうだ。元は一人の少年だった。理論だけで古代魔法を組み上げ、核として封印された。その魔力の奔流は、都市一つを吹き飛ばす威力がある」
ゼノは淡々と語る。
「だが不完全だった。鍵が足りなかったのだ」
「鍵……」
「お前だ、リィナ。お前の制御不能な魔力こそ、風蓮核の起動条件だった」
空気が凍る。
リィナは小さく、そして確かに震えた。
「じゃあ、私が……レンを起こしたのは……」
「そう。偶然などではない。お前たちは、最悪の出会いだったのだよ」
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レンは、静かに言葉を発した。
「……そうだな。オレは、多分……世界を壊せる」
「じゃあ……どうするの? 私……あなたを手放さないと、いけないの……?」
リィナの目に、涙がにじんだ。
レンは、そっと語る。
「俺はもうただの杖じゃねぇ。お前の相棒だ」
「……でも」
「リィナ。お前がいなきゃ、俺は目覚めなかった。でも、お前がいたから──俺は、誰かのために使いたいと思えたんだ」
ゼノが術式を構えた。
「ならば、終わらせろ。封印しろ。その杖を!」
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リィナの手に力がこもる。
「……壊さない。私は、もう壊したくない。
私は創る。あなたと一緒に未来を!」
レンの魔力が暴走を始める。
だが、リィナがそれを包み込むように詠唱を重ねた。
「《全制御・共鳴陣──展開開始》!」
ゼノの攻撃が襲いかかる──が、その前に、巨大な魔法陣が二人を包み込んだ。
リィナとレンの魔力がひとつになり、光の奔流を放つ。
「そんな……魔導核が、共鳴で……!? 完全制御だと!?」
「俺たちが最悪だった? ──違うな」
「お前らが勝手にそう決めただけだ」
光が全てを包み込み、ゼノの攻撃をかき消した。
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遺跡の中心部。
ふたりは静かに寄り添っていた。
「リィナ……もし、俺が暴走したら」
「止めます。絶対に」
「そうか……なら、安心だ」
ふたりの間に、かすかに笑いが生まれる。