対・協会の精鋭部隊
空は晴れ渡っていた。だが、街の一角には重苦しい気配が立ち込めていた。
ギルドの裏手にある訓練場──そこに、ふたりの影が立つ。
「ここで迎え撃つって、正気か?」
「……逃げてばかりじゃ、終わらないから」
リィナの声に迷いはない。
レンは小さくため息をついたあと、いつもの調子で笑う。
「なら、派手にやろうぜ。お前が選んだ場所だ」
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魔導協会、精鋭部隊──通称『審律師団』
通常の魔導士とは異なり、魔導具との「適合融合」によって身体能力すら強化された者たち。
その中心に立つのは、白衣を翻す男と、その手に握られた喋る指輪。
「情報通り。喋る杖と、共鳴特異者。確認」
「また喋るのかよ、魔導具ってのは……流行ってんのか?」
レンがぼやくと、指輪が応える。
《無礼な棒きれめ。貴様ごときが知識と魔力を持つなど、神への冒涜──》
「うわ、クセ強すぎ」
リィナが小さく吹き出す。
その瞬間、精鋭部隊が動いた。
四方から繰り出される多重術式。
雷撃、冷気、加速空間──全てが同時に、リィナとレンを呑み込まんと迫る。
「っ……!」
「リィナ、跳ねろ! 左後方、反重結界!」
瞬時に反応したリィナが、魔力を一点集中して跳躍。
その隙に、レンが術式を展開。
「《迎撃展開:風蓮・多重詠唱モード》!」
空中に複数の魔法陣が出現し、反射と吸収、そして再放出。
敵の魔法を逆に撃ち返すという芸当だ。
「返してんじゃねぇぞ!?」
「そっちの方が威力増してんだが!?」
「精鋭、って肩書が泣くぞ」
レンの声が響くたびに、敵の結界が壊れていく。
「いきます、レン──」
「──共鳴、開始!」
ふたりの詠唱が重なる。
「《解き放て、響け、蒼の律動》」
「《繋げ、重ねろ、共鳴の輪》」
「《連詠・共鳴魔法陣──蒼環煌陣》!」
巨大な青の陣が訓練場全体に広がる。
その中心に立つリィナは、すでにただの少女ではなかった。
魔力を完全に制御し、思考と感情と意志を魔法に変換する。
そして、レンがそれを支え、加速させ、導く。
一撃──否、協奏の一撃が、敵部隊を一瞬で飲み込んだ。
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瓦礫の中、倒れる精鋭たち。
リィナは静かに息をつき、レンを見つめた。
「やっぱり……わたし、一人じゃ無理だった」
「いや。お前はもう十分、一人でもやれる」
「でも……やりたくないんです。あなたがいないと」
「…………お前なぁ……」
杖が静かに光を灯す。
その光は、希望。
ふたりで歩む未来の道標。
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その光景を、遠くの屋根の上から見下ろすひとつの影がいた。
「やはり、核は覚醒し始めたか……」
ゼノ・グレイヴ。
仮面の下で、わずかに口角が歪む。
「ならば……そろそろ、核の真実を教えてやるとしよう」