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私と猫丸




 私と猫丸。


 キミと毎年かかさず見に来た桜並木は、今でも変わらずここにある。


 この橋からキミと落っこちたあの時も、こんな風に沢山の桜が舞っていた。


 キミはとっても気難しい子だったから、私の言うことなんて一つも聞いてくれやしなくって。


 それでも君は猫のくせして、私と一緒にお散歩するときだけはそんなにイヤそうにしてなかったよね。


 言葉は交わせずとも、私には君のことが手に取る様にわかったんだ。


 そんな不思議な距離感がまるで親友みたいで、私はすごく嬉しかった。




 あーあ。


 私はもう、すっかり大人になってしまったから。


 なんて、本当は全然関係ないのかもしれないけど。


 そんな言い訳をしたくなるくらいには、きっともう【親友】なんてそう簡単にはできやしないんだろうね。


 懐かしいな。


 キミと初めて出会ったのは、13年前の春。


 小学五年生の春、反抗期が始まったばかりの私に、お父さんもお母さんもすっごく手を焼いていた。


 そんなとき、私の我儘でお父さんとお母さんが連れてきてくれたのがキミだったんだ。


 白くてふわふわな、気持ちのいい毛並みが癖になる女の子。


 キミはまるでお高くとまったお嬢様みたいな出で立ちで、いきなり私に猫パンチを食らわせてきた。


 ちょっと調子に乗ってベタベタ触りすぎたみたい。


 そのときの私はやっぱりまだまだ子供だったよね。


 私はささやかな仕返しとして、キミに猫丸なんていうありきたりな名前を付けたんだ。


 その日から私は反抗期なんか忘れて、ただ君ともっと仲良くなるためにはどうすればいいのか、インターネットで沢山調べた。


 お母さんとお父さんは、いつもその様子を微笑まし気に見守ってくれたんだ。


 あれからずっと、私は両親二人とすっごく仲良し。


 全部キミのおかげなんだよ。




 私が男の子に大好きなんて言う暇もないくらい、多分私はキミに沢山告白してた。


 それをいつもなんだこいつ?みたいな顔をしてスルーしていくキミは、ちょっとだけ罪な猫だったよ。


 きっとこれが人間の男の子だったら、すっごく喜んでみんなに自慢してた。


 だって私がキミに好きっていう時は、キスをするか思いっきり抱きしめてたっぷりの愛情を注いでいたから。


 自分で言うのも難だけど、こんなに可愛くて人気者の女の子にそんなことしてもらえるなんて、役得以外の何物でもないだろうに。


 それでもキミはいっつも私にそっけなくって、すぐにそっぽを向いてしまう。


 それが本当に、心地よかったんだ。




 【人】はいつだって、面倒くさくて嫌いだった。


 愛想よく笑って、空気をよんで、それなりに上手くやっていれば、いやでも人は自分のことを好きになってくれる。


 そんな人間関係に舌打ちを打つような私の心を見透かしてくれる、そんなキミの目が、私は大好きだったんだ。


 キミにだけはちゃんと、私が本当はイヤな女だって伝わってたみたいだったから。


 それでも一緒にいてくれたキミは、やっぱりどんな人間の友達よりも信頼できる、かけがえのない親友だったよ。




 キミは今でも、私の居場所の一つ。


 人が猫と対等に隣り合うなんて、おかしいって思う人もいるかもしれないけど。

それでもきっと親友になるのに、猫も人も関係ないと私は思う。


人と人との関係に変化と終わりがある様に、猫と人との関係にもまた変化と終わりがあるのだから。




 私と猫丸。


 キミと毎年かかさず見に来た桜並木は、今でも変わらずここにある。


 変わったのはきっと私だけ。


 手持無沙汰な今年の春は、まだほんの少し肌寒かった。


 どうしてだろうね?


 今年の桜吹雪は、私の笑顔を隠し続ける。


 キミと落っこちたこの橋の上から、私は初めて心から笑えるようになったのに。


 キミがいなくなった途端笑えなくなるなんて、思い出って難しい。




 ねえ猫丸。


 寂しいよ。


 ずっと、心から笑える大切な思い出が欲しくて、寂しかったのに。


 今ではそんな思い出たちの所為で、こんなにも寂しい思いになってしまう。


 人ってほんとに面倒くさい。


 そんな人間らしい一面が自分にもあったのだとひどく痛感してしまう。


 あーあ。


 私は……私は、あの頃よりもずっと、大人になってしまったんだね。


 私はもう、人を嫌いだなんて言わない。


 キミとの思い出が無駄だったなんて思いたくないから。


 キミと出会うまでの私と何一つ変わってないなんて、そんなの自分が一番許せない。



 私は変わったよ、猫丸。キミのおかげで。


 今の私なら、もうキミにもそっぽを向かれずに済むのだろうか。




 いつまでも大好きな、私の親友。


 キミが別れを惜しまれたように。


 私もいつか家族以外の誰かに心から別れを惜しまれるような存在になってみたいと、少しだけそう思えた。

 



 私と猫丸。


 いつかはそれぞれ並びが変わる。


 キミにぬぐえなかった私の涙を、今度は誰かが拭ってくれるようになるかもしれない。


 だけどそれでも、キミに流した涙の数は変わらないから。


 今日だけはどれだけキミを大切に思っていたのか、私の思い出に残させて。


 変わってしまう寂しさを拭った後は、いつしか変わっていける喜びとなって私を大人にしてくれると、キミが最期に教えてくれたから。


 大丈夫、私がこれからも思い出を抱き続ける限り。



 猫丸。



 たとえ私が大人になっても、キミに笑いかけていたあの日々だけは、これからも絶対に変わることはないのだから。












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