#その70 左舷から{幸運の}すれ違う宇宙船が接近します、回避行動をとっちゃう?
#その70
その瞬間、宇宙船ルミナはインターワープ1内部でブラックホールの特性を利用した超高速航行に入る。
「クオン・・・。」
宇宙船ルミナは量子プラズマエンジンにさらなる高速動作を可能にするハイパードライブの軽い作動音を発すると、IW1内を超高速航行を開始する。
IW1内部は川の流れと同じで、時間軸に沿って宇宙船は流されて航行する。この時、ハイパードライブが作動していないと時の流れに負けてしまう。
そうなるとIW1をはみ出して別宇宙(=たぶんパラレルワールドと呼ばれる場所、生還した船がいないので本当のところはわからない)を当てもなくさまよい、もう戻ることはできないと言われている。
ハイパードライブは動力と言うよりも流されないための舵の役割を果たす。IW1内の航行データはIWSで受け取っている。
航法ユニットであるノバがいればIWごとに違う航法データを参考にして、IW内を迷子にならずに出口までたどり着くことができる。
出口にたどり着くと航法データは消去されるため、航法データの解析はこれまでに何度も試みられているが、成功したことはない。IW通過中に航法データをいじる勇気を持つ宇宙船はこれまでにいなかったということであろう。
インターワープ内航行は高速エレベータによる移動に似ている。初速をぐんと出して加速し巡行スピードになるべく早く達する。
巡行スピードで可能な限り進み、終点が近づくと減速して目的地でぴたりと停止する。加速中はあの不快なふわふわとした感じになり、巡行中は比較的ましになる。
IW航行も同じ感覚になる。空間を超越して航行しているので、景色は見えない。まっくらな状態が続くが、どうかすると反対側から航行した宇宙船とすれ違うことがある。
{幸運のすれ違い}と囁かれているらしいが、IW1内はすれ違いが発生するときには、近づく時、遠ざかる時にIWドップラー効果で相手の宇宙船が歪んで見える、らしい。双方の宇宙船とも航法データにより通過しているので、ぶつかることはない、らしい。
「ノバより船長へ。左舷から{幸運の}すれ違う宇宙船が接近します、回避行動をとっちゃう?」
「そのままで・・・いや、念のため回避行動の準備だけしておいてね」
「ノバ、了解だよ、準備だけならいつもやってるから・・」
ルミナはノバと連携してIW1内を超高速航行しながらハルトと会話を続ける。