#636 そうだな、列車と女性とトンネルは恋愛小説の定番だ
#636
「コスモ1号が亜光速に加速する時って、トンネル突入となんだか似てるな」
指令室でハルトがぽつんとつぶやく。
「トンネルってなんですか?」
「ああ、トンネルはほら、旗艦ルミナスがフェニックスベースに入る時に岩盤をくりぬいた地中を通るだろ、あれがトンネルだ」
「へえ、そうなんですね、でもわざわざ地中を通らなくてもいいと思うですけど」
宇宙空間を主な生活場所にしていると、地表を走る乗り物が山を貫くトンネルを走行する様子は想像が難しいかもしれない。
「列車は地表をなるべくまっすぐ走らせたいんだ、その方がスピードが出せるからね」
「そうなんですね」
ハルトの説明にルミナがわかったようなわからないような相槌を打つ。
「それで山があるとじゃまだから、山に穴を開けて列車を通すんだよ」
「わざわざ掘るんですか?」
「そうだ、その穴をトンネルと呼ぶんだよ」
鉄道の話になるとハルトの説明は熱を帯びてくる。これはハルトが{てっちゃん}だからだろう。
「なんだかトンネルっていいですね、ロマンチックな話ができそうです」
ハルトの熱弁を聞いていたルミナがハルトからちょっとだけ視線を外して話を合わせる。
「そうだな、列車と女性とトンネルは恋愛小説の定番だ」
ハルトは腕を組みながら一人勝手にうんうん頷く。そのロマンは確かに鉄道好きにはあるだろう。
「ふふふっ、私と一緒ですね」
「そうだ、俺と君は同じ穴のなんとかだな!」
なんだかよく分からない会話がハルトとルミナの間で交わされる。
そんな二人を見て、ミーナミとノバの間にもしばしの間なごみの時間が訪れる。
「指令室、第3閉塞進行、許可願います」
「こちら指令室、進行許可します」
コスモ1号は第2閉塞を進行後に、亜光速をノッチオフ、通常運航に戻る。そして今回最後の第3閉塞進入後に3度目の亜光速運行に入る。
「コスモ1号より、第3閉塞進入、亜光速にノッチ進段」
「指令室より、亜光速進段了解」




