#613 アリスが考案したのが、{自律しているレール}と{観測者}である
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アリスはこれまたにやにやしながら回答する。実のところ、スペースレール計画においてアリスが一番腐心したのは、宇宙空間に敷設するレールをいかに長期間実在させるか、である。
広い宇宙区間に敷設されるプラズマレールは列車通過時以外は、孤独に耐えなくてはならない。物質は観測するものがあって初めてその実態をなすことができることを意味する。これは観測者がいない場合、物質が存在できないことである。
ハルトの元世界ではこれらのことは量子力学として研究されてきたが、実際に物質が存在できなくなった実害はない。だが、スペースレール計画においては、{孤独なレール問題}として計画を聞いたアリスがまっさきに心配したことなのだ。
それを解決するために、アリスが考案したのが、{自律しているレール}と{観測者}である。
広く寂しい宇宙空間において、スペースレールが機能を保ったまま存在し続けるのはなかなか大変なことである。
そこで、スペースレールに自己維持機能を持たせて自律させ、さらに存在し続けることができるように観測者を置くことを思いついたのである。
これらの機能を実現するためにレールにはユナやチョコが命を吹き込むファームウエアを組み込むというのがスペースレール計画におけるプラズマスペースレールだ。
「さて、みなさん、納得していただけましたかね?」
いつの間にか、ハルトが現れている。
ハルトはスペースレール敷設用シミュレータ別名敷設トラの穴にアリスに強制的に放り込まれたはずだ。もう訓練は終わったのだろうか?
「ハルト隊長、もう訓練は終了したのですか?」
トラの穴に放り込んだ当の本人であるアリスも驚いてハルトに聞く。
「ああ、全部終わったよ」
「ずいぶんお早いですねえ」
「そうだな、俺はなんせ{てっちゃん}だからな、あの程度の訓練ならお茶の子さいさいだよ」
ハルトは自信たっぷりに報告する。
「あの、てっちゃんとはどのようなモノなのでしょうか?」
ここは夫の謎のキーワードてっちゃに興味津々のルミナが尋ねる。
「そうだな、てっちゃんとは、鉄道、ここではスペースレールになるけど、が大好きな大きなおともだちのことなんだよ」
前にも似たような説明をルミナは受けた気がするが、何度聞いてもよくわからない、というか実感できない、夫の趣味であるけれども。




