#499 いくらミーナミさんのお願いでも簡単にうんとはいえないよ
#499
ノバのまなざしは妻のそれではなく、様々な修羅場を潜り抜けて生き抜いてきた航法ユニットとしての厳しさを感じさせるものだ。
「こちらに来るときに乗客としてインターワープ3を通過する体験をしました。その時はただ、乗船していただけですが、今後のためにインターワープ3内での操船経験を積むことができればと考えました」
「あのね、今までに数多くの宇宙船とその乗組員がインターワープ航行中に起きる爆発や船体破壊、原因不明の行方不明で命を落としているのよ、いくらミーナミさんのお願いでも簡単にうんとはいえないよ」
ノバは厳しいまなざしのまま、ミーナミをにらむかのように視線をぶつける。
ノバはかつて、悪意を持つ存在に宇宙船に閉じ込められ、何も出来ずに長い間宇宙を彷徨うわざるをえなかった頃の苦しい体験をかみしめているようにも見える。
インターワープ通過に失敗すれば、同じような体験をするかもしれないとの思いがあるのかもしれない。
そんなノバの心の内を知ってか知らずか、ミーナミは重ねてお願いを続ける。
「わかっています。でも、船長として自分が責任者として指揮をとってインターワープ3を通過するチャンスはそうそうありません。このチャンスを逃したくないんです、それに・・」
「それに・・・?」
「図々しいお願いとわかってはいるのですが、航法ユニットはもちろんノバさんにお願いしたいです、無理なことは重々承知しているつもりです」
ミーナミがこれまでにない真剣さでノバに相対し、真剣なまなざしでそういうと、それまで厳しいまなざしだったノバの目がふと和らぐ。
「ミーナミ船長わかったわ、いいでしょう、やってみましょう。ただし、インターワープ3航行計画をハルト隊長が認めてくれたらね」
「ノバさん、ありがとう、ありがとう、うれしいです」
ミーナミはそういうとノバの手を握って飛び上がらんばかりにお礼を言う。そんなミーナミを見ると、何事にも挑戦しようと思えるその気持ちがうらやましくなる。
「いいのよ、私も別の船で経験を積んでみたかったからちょうどいいわ」
「本当にありがとうございます」
ミーナミは改めてノバに礼を言うと、深く深く頭を下げる。
こうしてミーナミのマンディ号によるインターワープ3通過計画が発動する。




