#その331 航海長、エンジン出力80,外宇宙へ出るよ
#その331
トーダは表情には表さないが、航法ユニットがもう一つ手に入るかもしれない喜びの笑いをこらえる。航法ユニットを新たに入手後、残りのもう一台を売リ払うことができれば、もっと大きなクルーザに買い替えることができるかもしれないからだ。
そうこうしているうちに、船内ではさほど多くない乗客の手荷物の確認が完了した旨をAIがトーダに報告する。
クルーザーイルカ号はいよいよ惑星エリシアに向けて発進する。
船長トーダと航海長セイルは操船室のそれぞれのシートに着座して、正面モニタの示されるステータスを一つ一つ丁寧に確認する。
今どきの宇宙船はクルーザといえども1000を超えるであろう計器と点検項目がある。これらを全て人間が確認していてはいつまでたっても出港することなどできなくなる。
そこで、運航AIがまとめて点検し、重要10項目を人間とAIがクロス確認するのが最近の主流だ。
「船長、全システム異常なし、いつでも行けますよ」
「了解だ、それではクルーザイルカ号これより出航します」
「航海長、航路クリア、プラズマエンジン出力10,離岸開始」
「船長、離岸します、宇宙港内指定進路512、エンジン出力20」
トーダの指示により船内に旅立ちにふさわしい曲が流れ、惑星エリシアに向けてクルーザーイルカ号が離岸する。
離岸後しばらくは微速前進したイルカ号は、インターワープステーション3ベータの管理区域であることを示すステーションブイの通過を確認する。
「船長、ブイの通過を確認」
「航海長、エンジン出力80,外宇宙へ出るよ」
目的地まではインターワープのおかげで3日程度の短い旅の予定だ。だが、途中でトラブルがあればその分到着時間も遅れるため船長として慎重な運転を要求される航行であり緊張の時間でもある。
「セイル航海長、この航海もよろしくな、到着までの3日間がんばろう」
船長トーダは航海長セイルを励ます。
「トーダ船長、じきにインターワープ3エリアに入ります」
航海長セイルが報告する。
「了解した、それではもう一度航法ユニットに異常がないか確認してくれ」
「セイル了解、航法ユニット異常を認められません、船長」




