#その329 では、これよりこの航法ユニットをインストールしてきます
#その329
#黒ずくめの客
「こちらがクルーザーイルカ号ですか」
ポートビークルから降りた客は黒ずくめのスーツ姿に顔には半分隠れるマスクを全員が着用している。船長トーダは内心ぎょぎょっとするが、そのような気持ちはおくびにださず、笑顔で応対する。
「はい、そうです。お待ちしておりました」
「うん、時間通りだ、これが乗船契約書です、確認してください」
黒ずくめの男5人のうち、リーダーと思われる人物が差し出したタブレットに示される契約書をイルカ号に転送する。
すぐにチェックが終わり、確認終了の合図が管理局より送られてくる。5人は匿名希望になっていて、アルファさん、ベータさんと仮名が記されている。これは宇宙船乗船の際にはよくあることなので、心配はない。
宇宙船に乗船するには、管理局に身元を登録する必要がある。このため犯罪者など身元が怪しい人間は乗船することはできない仕組みとなっており、客の素性については安心できる。
「みなさん、身元確認終わりました、ようこそ、クルーザーイルカ号へ」
「はい、惑星エリシアまでお世話になります」
「船長のトーダです、短い間ですが、よろしくお願いします」
黒ずくめ5人組は見かけによらず礼儀正しく、船長トーダの最初に感じた違和感{危ない人々}はすぐに払しょくされる。
「この船は最大乗員20名と伺っていますが、我々5名だけのでは申し訳ないですね」
「ああ、その分の費用は頂戴しておりますので、ご心配なされませんようにお願いします」
黒ずくめ集団の1人が話しかけてくるので船長トーダはあらかじめ説明を受けていた答えを返す。
「キャプテントーダ、さっそくですが契約書にある通り、提供する航法ユニットを装着願えませんか?」
リーダーらしい男がトーダに取っ手付きのケースを手渡す。
「開けても?」
「もちろん」
船長トーダが開けると中には航法ユニットらしきボックス上の機器が入っている。カバードコネクタ仕様で外観に見えるものはなく、つるんとした印象を受ける。
「では、これよりこの航法ユニットをインストールしてきます。しばらくお待ちください」
「見学させていただいても構いませんか?」




