#その207 えー、これは{お月様}じゃないか
#その207
やがて、真っ黒けのGの塊は形を少しずつ変えていく。内部の修復を終えたマイクロマシン達は外側の仕上げに入ったようだ。
「ねえねえアリス、衛星軌道ステーションってこんな形してたっけ?」
ノバが素朴な疑問をアリスに投げかける。
「えっ、マイクロマシンにはちゃんと元の姿に戻すようにプログラムを施したから、ぜーったい、大丈夫なはずよ」
アリスは自信満々にいうものだから、とりあえず最後まで見守ることにする。
やがてすべての作業を終えたマイクロマシン達は衛星軌道ステーションを次々と離れて、ウンカの如く宇宙戦艦ルミナスのアリス工房へと帰艦する。
そして、修復を終えた衛星軌道ステーションがその全貌を表す。それはまん丸の星に生まれ変わっていた。ハルトはその星の名前を知っている。
その星は地球では{お月様}と親しみを込めて呼ばれている唯一無二の衛星である月とそっくりだ。
「えー、これは{お月様}じゃないか」
ハルトは思わず声に出して言う。
「ねえアリス姉、最初に見た衛星軌道ステーションとずいぶん形が違うようが気がするけど」
ノバがからかうようにアリスにいう。
「えー、そんなはずないよ、マイクロマシンにはちゃんと{元の形}ってきっちり指示したんだからね」
「ふーん、でもいつの時代の{元の形}かってちゃんと指示したの?」
ルミナがアリスに尋ねる。
「あっ・・・」
アリスはそう小さく叫ぶと、急に言葉を失う。
そしてハルトの方へ視線をやる。どうやら視線を送ったのはハルトのみのようだ。ハルトが{俺にふるなよ}という顔をしていると、今度はリリアの方に視線を向ける。
リリアは気がつかないふりして明後日の方向を向いている。次にティアナの方に目を向けるアリスだったが、ティアナは首を激しく左右に振り全力で拒否する。
最後にエリオット国王の方へ視線を向けるが、すぐにうつむいてしまう。
「ねえ、アリス姉、まさかだけど・・・衛星軌道ステーションが元は星だったって知らなかったの?」
アリスは観念して顔を真っ赤にしながら、
「えーっとー、・・・知らなかった・・・よ」
と答える。