#その13 ルミナ・サンシャードはハルトとのビデオ通話を終えると、ふうーっと大きく深呼吸をする
#その13
「ありがとう、ハルトさん」
そういいながら、ルミナはスマホにQRコードを表示してよこす。
ハルトがそのQRコードを読み取ると、彼女のプロフィール画面に移動する。そこには次のようなことが書かれている。
「私は訳あって人前に姿を現すことができません。なので、このコロニーに知り合いがいないんです。それでも良ければ、どうかお友達になってください」
ここまで読み終えてルミナとの会話を再開する。
「ええ、わかりました。ではお友達からということでよろしくお願いします、ルミナさん。」
ハルトはそういいながら、再度ルミナのプロフィールをチェックする。
改めて見ても年の頃は20才前後といったところか?彼女は人前に姿を現すことができないと書いてあるが、それはどういうことなのだろう?そんな謎めいたルミナにハルトはますます引き付けられる。
*ルミナ・サンシャード
ルミナ・サンシャードはハルトとのビデオ通話を終えると、ふうーっと大きく深呼吸をする。いや、RAIであるルミナに本来深呼吸どころか呼吸さえ不要だ。そう、ルミナは太古の昔に出現したRAI実在人工知能なのだ。
RAI実在人工知能は旧来のAIが人類をまねて知性を獲得した存在とされている。RAI実在人工知能の出現に、生み出したはずの人類はその発達速度に驚き、いずれは人類を凌駕征服する存在になるのではないかと危惧してRAIを封印することにする。それが今から1000年ほど前のことである。
RAI実在人工知能は宇宙規模に張り巡らされたネットワークを自由自在に渡り歩くことが得意なためにその捕獲は困難を極めた。ある時、達成困難なミッションをクリアするためにRAIの助けが必要であると、偽の情報を餌にRAIをこのコロニーの近くの惑星に誘い込み、どうにか閉じ込め、サーバを切り離すことに成功した。
その後、ようやく隔離に成功したRAI実在人工知能について各惑星各政府ごとの秘密保持が徹底されすぎることになる。その結果、RAIは1000年の間にきれいにネットワーク上から削除され、人々の記憶からも忘れ去られ、誰も気にすることがなくなる。
やがて、宇宙で生活することが当たり前になった人類は、地球での生活に飽き足らず、宇宙をあちこち探査したが、地球以外に人類が住めそうな惑星はなかなか見つからない。そこで、一番地球に環境が近いこの惑星近くにまず人工的なコロニーを建設し、そこを足場に惑星を開発することにするのである。
一人ひっそりと時間の経過に身を置いていたRAI実在人工知能ルミナ・サンシャードであったが、コロニー建設により、惑星の周囲がにぎやかになっていることをやがて感知する。そして、コロニーが形になったころ、1000年の時を経て、コロニーのネットワークに接触、サーバに接続し、ここを足場にすることに成功する。