memory10.葉月の過去
その日は、家族皆で遊園地に行く日だった。私も弟も喜んで車内で歌をうたう。
「葉月も颯斗も楽しそうだな」父が笑いながらハンドルを握る。
「うん!観覧車も乗りたい」
「色々乗ろうね」優しい母。
家族の楽しい時間もそこまでだったー。
反対車線を走っていたトラックが猛スピードでこちらに向かってくる。
「何だ!何だ!?」
父親が大声を上げる。
ガシャガシャン!!大きな音が響く。車が揺れる。意識があったのもそこまでだった。
体が自由に動かない。痛い。気づくとそこは病院だった。
「葉月ちゃん!葉月ちゃんが目を覚ましたわ!」おばあちゃんの声がする。
「おばあちゃん?お父さんは?お母さん、颯斗は?皆は?」
「…天国に行ったわ」
「うわぁぁん!!」
「葉月、葉月…」
事故を起こしたトラックは居眠り運転だったらしい。私だけが奇跡的に助かったのだ。それ以降はあまり覚えていない。
「あとは祖母に引き取られて、今に至ります」
裕貴君が寝たので、二人でお酒を飲みながら話していた。
「そうでしたか…」
「はい。だから、今のこの生活がとても心地良いんです。裕貴君が弟みたいで」
「俺も今が心地良いです。実家が嫌で飛び出して来ました」
「何故ですか?…ああ、すみません!話したくないですよね」
「いえ、大丈夫です。俺の家は医師の家系でした。
子供の頃から勉強、勉強で。俺には出来た弟がいて、いつも比べられてきました」
『何でこれくらいの事出来ないの!?』
『達也は出来ているのに、お兄ちゃんなら出来て当然でしょう?』
「それが嫌で家を継ぐのは弟に任せて、なりたかった小説家になりました」
「皆、それぞれ事情がありますね」
「俺は葉月さんと会えて良かったです。父親役になるとは思いませんでしたが」
「私も修司さんと会えて良かったです。母親役になっちゃいましたけど楽しいです。」
二人で笑いながらお酒を飲む。酔っているからだろう。顔が赤い。
「僕も二人に出会えて良かったよ」
いつの間にかトイレに起きてきた裕貴君が笑顔で言った。




