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序章:人界の守護者

 カナダ人の先生に最近よく見るwebサイトを尋ねられ、ここを紹介し「君もいつか投稿者になるかもね」「いやいやまさか」なんてお決まりのやり取りを交わしてから多分2年。心変わり早いな~()

 拙作でありますが、読んでいただけるのならば、これに勝る歓びは(そんなに)ございません。どうか少々お時間くださいませ。

「止めておいた方がいい。危険だ」


目の前の男は——徒に世界を冒すこの仇敵は——涼しげに、俺を気遣っているかのように話す。胡坐をかいて瞳を閉じたその姿からは、俺のことなど歯牙にもかけていないことがひしひしと伝わってくる。


「舐めるなよ」


 額の紋様だけ怪しく光るその姿に、背中にうすら寒いものを感じながら、それでも自らの正義の為、突進する。


「——ッ」





 この世に生を受けた時からずっと、俺は神を感じていた。聞いたところによると、母も、祖父も、曾祖父もずっと神の視線を感じていたらしい。感じていた、というのは、別に皆が故人というわけではない。全員、第一子を得た時にその視線を感じなくなったというのだ。俺も子を設ければ今感じている視線は消えるだろう。


 また、俺の一族は代々、教会から勇者を拝命しており、俺達を勇者たらしめている万能の権能も全く同様に継承されている。その為、この権能は神から貸与されたものだと一族内では考えられていた。

 勇者などと大仰な肩書を名乗ってしまったが、正式に拝命しているのは聖騎士団長、というものらしい。曾祖父が子供に勇者様と呼ばれたのが大層気に入ったとかで、それを周りにも強いているうちに定着したらしい。ちなみに、俺も気にいっている。そもそも、聖騎士“団長”と呼べるような仕事なぞしたことがない。


 その俺の仕事というのは基本単騎で行われ、内容は主に内紛の解決だ。我が国では、というよりこの世界では、現在異常な数の紛争が起きており、人と亜人とのもの、都市内部のもの、町同士のもの、等兎に角様々な場所、ヒトで紛争が起きている。この世界、と言い直した理由は至極単純、現在この世界にはわが王国しか存在しない。

内乱で滅びたわけでも、王国に統合されたわけでもない、物理的に——物理的といっていいのかは解らないが——土地ごと消滅してしまったのだ。

何代か前の爺様の時代には王国は少なくとも三つの隣国と密接な国交を結んでおり、勇者を勘定に入れない国力は寧ろ低い方であったらしい。それがいまや、王国のみどころか、王国すら王都の他に都市と呼べるものは残っていない。


この世界の消滅現象に関して、解っていることは何一つない。そもそも完全に跡形もなく消滅している為、調査などできるわけもなく、いつから起きている現象なのかも正確なところは判っていない。高祖父の時代には遠く離れた他国の与太話だったのが、あっという間に隣国に、そして王国にまで到達し、祖父の時代には仕事が、パニックに陥った民衆の鎮静化に完全に切り替わってしまった。きっと俺の次の代、というものは存在しないだろう。


そんな、未曽有の危機の中、神から権能を与えられ、教会から人界の守護を任された俺はと言えば——神捜索に勤しんでいた。





「おお、お帰りエクス。今日もありがとう。随分遠いところを任せてしまって済まなかったね」


 今日も今日とて内紛の解決を終え、教会へ帰ってきた俺へ教皇の爺様が声をかけてくれる。俺を名前で呼ぶ数少ない人間で、俺の後見人でもある。


「ただいま、爺様。遠くといっても最早、この世界の端から端ですら俺にとっては大した距離じゃあないさ」


 これは事実だ、権能を持つ俺にとって、国一つにすら満たないこの世界は庭のようなものだ。


「そうか。……そうだろうなぁ、それほどまでにこの世界は小さなものになってしまった。いや、弱音を吐いていても仕方がない。兎に角お疲れ様、怪我はないかな?」


 俺の軽口で凹んでしまったようで、少し心が痛む。爺様は少々優しすぎる。最強たる俺の心配なんぞで心労を増やさないで欲しいのだが、この場で無駄に問答して更に疲れさせるわけにもいかない。


「あぁ、何も問題ないさ。内紛といっても世捨て人と山賊の小競り合いだ、ちょっと小突いたらすぐ落ち着いたよ」


「そうかそうか。お前に怪我が無いならなによりだ。今日はもう休むといい」


「そうするよ。そうだ、爺様の方はどうだ?何か変わりはないか?」


「……あぁ、特に変わりはないよ」


「そっか。じゃあ俺は引っ込むよ、何かあれば呼んでくれ」



 俺は爺様の挨拶を背に、足早に部屋を出る。爺様のことは大好きだが、ここは些か居心地が悪い。誰も一言も口を挟まなかったが、俺の形式上の部下である聖騎士団や、頭の固いジジババが居て、あまりリラックスはできない。会話の邪魔をしないのは殊勝なことだが、居ないかのように振舞う割にやたらと存在感があって、どう扱えば良いか困ってしまう。司祭のじじいに至っては俺がちょっと口を滑らせると露骨にムッとしているし、くわばらくわばら。


 部屋に戻ると今度は日課の時間だ。教会の見取り図を広げ、今日は何処を調べるか目星を付ける。別に見取り図なぞなくとも教会の構造など粗方把握しているのだが、こうしないと今迄何処を調べていて、何処を調べていないのか判らなくなってしまう。


「よし、今日はこの部屋だな」


 ルールがある。一つ、一日一部屋。一つ、虱潰しにするのではなく、毎回何処を調べるかを決める。etc... 先の見えない日課を少しでも楽しむ遊び心だ。


「——まぁいい、行こう」


 くだらない感傷だ。俺は教会の一室へ向い調査を開始する。


 何を調べているのかといえば、当然神に届きうる何かだ。理由は勿論、世界の消滅現象について何らかの情報を得るためだ。

 別に神へ到達し、何をしたいわけでもない。俺の一族に権能を与えてくれた神に感謝こそすれ恨むことなどないし、世界の消滅も実は仕事が日々増える、という事以外に俺に大きな不利益はなかったりする。

 それでも、俺は聞いてみたかった。万能の権能を——その気になれば天候を操り、僅かなら地形すら変えられる無敵の権能を、それが無ければ只人である我が一族に与えられるような存在が何故この事態を看過しているのか。何故爺様にすらただの一言も声を聞かせてくれないのに、俺のことはいまだに見つめているのか。気になることはいくらでもあるが兎に角、何も解らないまま終末を迎えるのは厭だ、結局はそれに尽きる。


「うーん、ここも空振りかぁ?」


 俺はあまりもの探しが上手くない。万能ではあっても全能ではないのだ。特に、こういう明確な目標が判らないことは苦手だ。


「よし、あと少し調べたら切り上げよう」


 正直落胆は少ない。ここは比較的新しい部屋だし、あまり期待していなかった。古くて仰々しい部屋はまだまだ沢山残っている、もう少しゆっくりやるさ。何も明日世界が終わるわけもなし。


 俺は最後に軽く一回りし、部屋を後にする。





そう、世界が明日終わることはない。たとえ終末が避けられない運命なのだとしても、まだ幾ばくかの猶予はある。


俺は子供だった。周りが善人ばかりだったからか、それとも人の身に余る強さ故か、精神がお粗末だった。この終わりかけの世界であっても、人は皆、隣人を愛し、悪逆を憎み、正しく穏やかに過ごしていけると考えていた。不安から小競り合いを起こすことはあってもその根底は善性だと、信じていた。


俺は愚かだった。刻々と近づく世界の端ばかり見ていて、近くをまるで見ていなかった。人界の終焉は劇的で、荘厳で、恐怖に染められながらもつい首を垂れてしまう、そんな恐ろしくも美しい神の領域の出来事だと、そう想っていた。



 或いはそんな俺だったからこそか、俺は間も無く思い知った。世界の終わりなど呆気ないもので、人は穏やかでもなければ、正しくもないのだと。

 拙作をここ迄読んでいただき、誠にありがとうございます。読書が趣味など声高に語っておりながら、いざ書く側になると勝手が分からず、内容以前に読み辛ぇよ!苦労して読んでもシンプルに内容が…など色々あるでしょうが、ひとまず全霊で御礼申し上げます。

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