表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニムラ九億人殺し  作者: 七海オワリ
1.異世界よこんにちは
8/10

羊たちの凋落

 窓から差し込む日の光で目が覚めた。森で気を失って……今は寝台の上のようだ。僕が身動ぎしただけでひどくきしむ。


「……ぁえ!」体の向きを変えると、マメが隣で寝ていた。これは夢かと僕は思った。


 髪が垂れ、マメの顔を半分くらい覆っている。僕は急に頭が悪くなり、顔をもっと見たいと考えた。右手を伸ばし、髪を持ち上げようとした時、指先から微弱な痛みが走った。


 どこかで擦ったのだろうか。人差し指の先が赤くなっていた。


「夢じゃない……か」わかっていたことだが。あの地獄のような出来事は現実だし、『ファイル』に来てしまったという抜本的な問題も間違いなかった。せっかくの眺めだが、僕は気分が落ち込んだ。


 ここはどこかの部屋だ。天井を見上げながら僕は思い直す。あの光線で林の一部分は丸ごと吹き飛んでしまった。その異変を確かめに来た「下の連中」……つまり麓にあるらしい村の人たちが、僕たちを運んでくれた、そんなところだろう。


「あら、お目覚め?」部屋の戸を開け、気さくそうな女性が入ってきた。


 年齢は20代後半といったところだろうか。一つ結びで髪をまとめており、落ち着きのある雰囲気だ。エプロンのようなものを着ているが、革に近い材質であり、あまり見ない風だった。


「ここは……あの山のふもとの村……ですか?」

「ええ、そうよ。その様子だと、大体の察しはついてるようね」

「あの……」

「待って。お話ならみんなでしましょう。私たちも聞きたいことがあるわ」女性は僕の質問を遮った。


 みんな、というのは村の面々のことだろう。確かにあんな出来事の後だ。マメが重傷の今、僕が事のあらましを話すしかない。


「マメちゃんにも聞いては見たんだけど、どうもあなたしかわからない部分が多いみたいでね」

「えっ、マメさん僕より先に目覚めたんですか」

「さっきまで私と話してたわ」


 マメは相当にひどくやられていたはずだ。もう話せるまでに回復したのか。


「おはようございま~す」横から力のない声が聞こえてくる。もちろんマメだった。


「マメさん!もういいんですか……その、身体の方は」

「え?身体……は大丈夫ですよ。健康です。至って!」

「ええ?僕が見たときはあばら?の辺りなんか結構やられ……」


 僕がマメのあばらの辺りを人差し指で指すと、エプロンの女性がその指を掴む。


「どこかで擦りむいたのね……さっきは気づかなかったわ、ごめんなさいね」


 女性が指を離すと、擦過傷はなくなっていた。


「まさか、これがあなたの……?」


 女性はうなづく。その様子を見ていたマメは微笑んだ。


「本当にいつも助かってます、オガワさんには!」マメは察しよく礼を告げた。


「そんなことないわ。みんながいてこそだもの……そう、名前。挨拶がまだだったわね。私はオガワ。尾っぽの尾に、河川の川。よろしくね」


 『オガワ』だと……目の前の朗らかな笑顔の女性に、乾いた眼をした中年教師が重なる。


「そうか、はは、貴方がオガワさん……」僕はゆがんだ笑顔で返す。


「あっ確かビンさん、オガワさんって方とお知り合いなんでしたっけ!人違い……みたいですね」マメが申し訳なさそうに僕とオガワの顔を見比べる。


「いえ、構いませんよ……別に会いたかったわけじゃないし……よく考えたらあまり興味ないな」僕は呟く。


「ビン君って言うのね。ふふ、面白い名前」オガワは笑顔でそう言う。


「……ありがとうございます」


 名前の由来は話さなかった。


 しばらくすると、オガワは来客の対応に部屋を出た。僕はマメに連れられ、戸に耳を当てて話の様子を伺った。


「なんでこんなこそこそしないといけないんですか……?」僕はマメに尋ねる。


「実はオガワさん……あの少年まで自分の能力で助けちゃったんです。彼は今、厳重に拘束されていて目も覚ましていないとのことですが……」

「なっ……」


 額は銃口の冷たさを覚えていた。


 あの少年を拘束する術はあるのか?僕は頭を抱えた。マメも僕に同調し、口に手をやった。


 戸の外では、とりあえず僕とマメの話を聞こうと、村全体での話し合いの場が設けられることとなったらしい。断片的にしか聞こえなかったが、かなり強い語調の口論になっていた。


「……あれ?それで、どうして僕たちが息を潜めなければならないのですか?」

「村の一部の人は、ビンさんに対してもあまり好意的ではないのです。あの少年の仲間かもしれない……とお考えなのかもしれません」

「な、なんだそ……」

「あっ!静かに!」


 マメは勢いよく僕の口を手で覆い、僕は壁に後頭部を打った。


「ごめんなさい……みんないい人たちなんですけど、あの少年の話となるとどうしても……」


「……」口を塞がれながら、僕は村の人間があの少年の手にかかったという話を思い返した。


 話を終え、オガワが急に戸を開けたので、僕とマメはひっくり返った。


「いやだ、ごめんなさい。どこかケガしてないかしら」オガワは何事もなかったかのようにのんびりとした雰囲気だ。


「ああ、いえいえ、大丈夫です……」マメがそう返す。


 僕はうつ伏せになったまま、不安な未来を憂いていた。


毎日18:00投稿。


下の星マークで評価をしてくださるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ