最後の才能
空という天蓋を破るほどの熱線が、辺りを蹂躙した。
男が纏っていた塊は蒸気を発し、今は路傍の石ころくらいになって男の周りに転がっている。
男の後方の木々は全て焼け落ち、赤い陽がよく見えた。逆光で男の顔は見えないが、落ち着いているようだ。
はじめに光、その次に熱を感じた。何が起きたのか、当人の僕ですらわからない。開いた右手から出たのは、「光線」と形容するしかない、ほのかな橙色の光束だった。
「熱っ……!な……なんだ今の……?」右腕にはまだ熱が残っている。
ふと男を見ると立ち尽くしたまま僕を、主に僕の右腕付近を、舐るように眺めていた。
「……今のが、君の能力か……実に恐ろしい」
男の体は至る所が焼けただれ、自らの呼気すら灼けるほどに熱いようだった。
「お、おい……大丈夫……か?」
僕はなんだか急に不安になった。僕の手で、人を、ひどく傷つけてしまった。正当防衛だが、実際に男の苦しそうな様子を見ると、なんだかとても不安になるのだ。
「まだ……苦しいだろうけど、なんとか……」
「……怖いかね。私を殺したという事実が」
「なっ……!大丈夫だ!まだ助かる……!絶対助かるさ!」
まるで男が大切な間柄であるかのように僕は必死だった。
「……君とここで会えてよかった……君のその力は……ニムラに届きうる……円熟していない今、摘むべきだった」
男の周りの金属片が蠢き始める。
「なっ……!よせ!」僕は咄嗟に右手を構えた。
「私を殺せるのか?」男は両手を広げ、僕を見下しながら近づいてくる。
冷や汗をいやに意識してしまう。
「はっ……っ……はっ……っく、来るなっ!」
僕は踵を返して走り出した。方向なんて考えてる場合じゃなかった。そんな調子で走っていたものだから、僕は何でもない小石に蹴つまずき、転倒した。
男は金属片を右腕に纏わせ、大きな刃を形作らせた。
「恐れることはない……こんなことはすぐに忘れるんだ……君は、二週間前の夕食を覚えていないだろう……同じことさ。目が覚めたら、すべて忘れていることを祈るんだ。いや、そうあるべきだ……」
男は左手で顔を抑える。その手はすぐに涙で濡れ、零れだした。
「辛いことだ……別れというものは……過程が楽しいばかりに……より……」
指の隙間から僕を覗きながら男は刃を振り上げる。
「君も泣きたまえヘェ……」
終わりだな……非現実が続き、妙に弛んだ僕は目を瞑った。
――僕を救ったのは、乾いた発砲音だった。
男は僕のすぐそばに倒れる。右腕に纏わりついていた刃は分離し、元の欠片に戻った。
少し遠くに、ボロボロのまま銃を構える少年が見えた。
「ク……ハハハハッ!馬鹿だねぇ……装甲を解いちゃうなんて……死んで当然……だ……」
少年はそれだけ言うと、糸が切れたように横たわった。
叫び、撃ち、崩れ、散々な音ばかりを響かせていた林は一転して静かになった。僕は一人になった気分だった。
「……何だったんだ……何だったんだ……」ほどけない頭のまま、僕は呟く。
「……そうだ、マメさん!」僕はマメの元へ駆けた。
幸いにして、彼女は息があるようだった。安堵感から深く息を吐くと、僕もその場に倒れこんだ。
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