シュクレとドラゴン
シュクレは、まちでいちばんの パティシエです。
シュクレのつくる、あまくて おいしいスイーツは だいにんき。シュクレは まいにち おおいそがしです。
もうすぐ バレンタインなので、このひのおみせは だいぎょうれつ。
「きょうもいっぱい スイーツをかってもらえて よかったわ。スイーツをえらぶときの しあわせな えがおをみるのが、わたしの しあわせなの」
さいごのおきゃくさんを みおくって、シュクレは おみせのドアを しめようとしました。
「……あら?」
なみきのかげから、だれかがこちらを みていてます。
おきゃくさんかしら?シュクレは こえをかけました。
「ごめんなさい、きょうはうりきれなの。またあした、かいにきてね」
すると、かげは キョロキョロと あたりをみまわしました。そして、シュクレのほうへ ぴょんぴょんと はしってきました。
それは、ちいさな かいじゅうのようでした。とがったツノと ギザギザのはをみて、シュクレはびっくりしました。けれども、まるくて キラキラした めは、とてもこまっているようでした。
「どうしたの?」
すると、かいじゅうは しくしくとなきだしました。これには、シュクレも こまってしまいました。
「おはなしをきくわ。おみせにはいって」
あたたかいココアをだすと、かいじゅうは あまいにおいをかいで、ひとくちのみました。そして、
「おいしい!」
と、かおをあげました。シュクレは ニコリとしました。
「どうして ないていたの?」
かいじゅうは、ぽつりぽつりと はなしました。
──ぼくのなまえは、ショコラント。こうみえても、ドラゴンなんだ。
けれども、とけたチョコみたいな うろこと、スポンジケーキみたいな おなかのせいで、ドラゴンのなかまから、すこしもこわくないと バカにされるんだ。
けれども、ひとりだけ ともだちがいる。
あおいツノと あおいしっぽがある、ドラゴニュートの おんなのこ。
そのこは、ぼくの うろことおなかを、だいすきだと いってくれた。
そのこは、チョコをたべたいと ゆめみてる。ドラゴンのさとには、チョコがないんだ。
なかよくしてくれる おれいに、バレンタインに チョコをプレゼントしたい──。
「それで、まちにきてみたけれど、みんなが ビックリするから、かくれてたんだ」
「そうだったのね」
シュクレは、ショコラントの やさしいきもちに こたえたいとおもいました。
「きょうのぶんの チョコは、ぜんぶ うりきれてしまったけれど、あしたのぶんを いまからつくるから、おてつだいしてくれない?」
まず、ココアバターを ボールにいれて、ゆせんでとかします。ゆっくりまぜると、はやくとけるよ。
しっかり とけたら、ココアパウダーを ふるいにかけながら すこしずつ いれていきます。それを、へらで よくまぜます。
てぬきをすると ダマになってしまうから、ていねいにね。
そこに、こなざとうと こなミルク、バニラエッセンスをくわえます。まだまだまぜるわよ。
「うでが つかれたよぅ」
「まだまだよ。パティシエは わんりょくが しょうぶなの!」
なめらかなトロトロになったら、チョコのもとが かんせいです。
「あ、いけない、いれわすれたものがあるわ」
「なに?」
「あなたの きもちよ。おともだちに よろこんでもらえるように、あいじょうをたっぷり いれましょう♪」
ショコラントは、ちからいっぱい ヘラをうごかしました。すると、てがすべって、ボールがとびあがりました。
「うわっ!」
ボールは ショコラントのあたまのうえで くるり。ツノの上に ぼうしのように のっかりました。
トロトロのチョコが ボールからながれおちて、ショコラントのからだを チョコいろに そめていきます。
「どうしよう……」
ショコラントはまた なきそうになりました。
「だいじょうぶ。こうすればいいわ」
シュクレは、イチゴやブルーベリー、キラキラのグミを もってきました。
それを、ショコラントの あたまや せなかや つばさに かざりつけます。
マカロンや かわいいチョコのかざりもならべて、さいごに、こなざとうをふりかけて……
「シュクレのとくせい ショコラント ケーキの かんせいよ♪」
「すごくおしゃれだよ!それに、あまいかおりで、しあわせなきぶんだよ」
おみせの おおきなまどガラスにうつる じぶんのすがたをみて、ショコラントは おおよろこびです。
「これで、ぼくの いちばんの だいすきが つたえられるよ。ほんとうに ありがとう!」
ショコラントは キラキラのつばさを はばたかせて、ドラゴンのさとに かえっていきました。
「こんどは、おともだちといっしょに チョコをたべにきてね!」
てをふって みおくるシュクレは、とてもあたたかいきぶんになりました。
「だれかを しあわせにできる おしごとだから、パティシエがだいすき。
もっともっと たくさんのひとに よろこんでもらいたいから、もっともっと チョコをたくさん つくりましょ」
シュクレは おみせにもどり、ふたたび ボールをかきまぜるのでした。
──おしまい──