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閉店間際
夕方の『和心茶房ありす』。今日は早めに店じまいをしようと、シロが片付けを始めた頃。その人物は扉の鈴を鳴らしてやってきた。
「ごめんください」
「いらっしゃいませ」
ベージュのステンカラーコートに、暗いグレーのスーツの男だ。白髪混じりの髪のせいでやや老けて見えるが、張りのある顔は、四十代ほどと思われる。品性を感じさせる、落ち着いた男だった。
他に客はいない。彼はカウンター席の椅子を引いて、シロの正面に座った。
「この店の噂を聞いて、ずっと行ってみたいと思ってたんです」
「恐縮です」
シロが微笑む。客の男も莞爾として笑うと、その笑顔を携えたまま、唐突に切り出した。
「マスター。あなたは、人ならざる者と、それを追う者が、この世に実在すると聞いたら信じますか?」




