5-1二つの果実が腐るまで
二つの果実が腐るまで
七年前のあの日は午前中に児童館で遊び午後は電話する。
ということを果鈴が決め昼食と取りに解散した。
その頃にはもう桃子は子役としての仕事が忙しく集まって遊ぶと言うことが少なくはなっていたが夏休みと言うことで仕事がなければ朝から夕焼け小焼けの音楽が流れるまでテレビの中とは違う彼女と遊ぶことができた。
ゆすらの塾の時間は夕方、それまでは遊んでいられる。
蜜柑も習い事にピアノやバレエ、英会話に塾とたくさん通っていた。
あの日も発表会が近いからと午後から練習が入っていたはずだった。
それに比べ特に塾や習い事をしていないりんごや吾、リュウは遊ぶ約束には必ず顔を出していた。
一時半を過ぎた頃、果鈴は蜜柑の目を盗む電話をかけていた。
「吾か? 二時に公園な。――良いじゃん。大事な話があるんだ。蜜柑には内緒な。」
「リュウ、頼みがあるんだけどさ、おじさんに三日後遊園地で遊ぶって伝えといて、――そうそう、俺と蜜柑の誕生日。だから蜜柑を驚かそうと思うんだ。遊園地で遊ぶのは伝えておいた方がいいんだろ? それじゃあ二時に公園な。」
「りんごいます? ――あ、あのさ、二時にみんなで集まって三日後の蜜柑の誕生会の相談するんだけどその前に話があるから少し早く来てくれ。じゃあな。」
吾と話した内容は同じようにゆすらや桃子に話待ち合わせの約束をする。
だが、その様子を蜜柑はこっそり見ていた。
自分が一緒に行かなくてもみんなが集まって遊んでいるというのが腹立たしかったのか果鈴が電話から離れると今度は蜜柑が受話器を取り電話を掛ける。
「もしもし? 果鈴どうかした、二時でいいんでしょ?」
りんごの声が蜜柑に届く
「蜜柑だよ。蜜柑も一緒に行くことにしたから」
そう言って一方的に蜜柑は電話を切る。
りんごは受話器の向こうで蜜柑に内緒の約束をばらしてしまったことに気付く。
蜜柑は部屋に戻りピアノの荷物を置いて行く。
「あら? 蜜柑どこ行くの? 今日はピアノがあるでしょ?」
「その前に少し遊んでから行く。」
母親に聞かれそう返すとサンダルを履いて蜜柑は家を出た。
それを窓際でご飯を食べていた果鈴は見送った。
「まま、蜜柑もう練習に行くの? 早くない?」
「少し遊んでから行くんだってよ。果鈴も早く食べちゃいなさい。待ち合わせしてるんでしょ。」
果鈴は蜜柑が気になりつつ箸を進めた。
蜜柑が公園についたのは待ち合わせ二十分も前の事、だがそこにはリュウの姿があった。
「あ、リュウ! もう来てたんだ。」
と蜜柑が言うと
「あれ? 果鈴君は二時って言ってなかったっけ?」
とリュウは公園の時計を見ながら言った。
「ちょっとね。リュウはなんでこんなに早いの?」
蜜柑はリュウの隣りに座りながら聞く。
「父さん探してたんだけどいないんだ。果鈴君からの伝言早く伝えないと忘れちゃうから」
「伝言?」
蜜柑はみんなで自分に隠し事をしようとしているのだとわかり
「伝言ってあれの事?」
「うん、蜜柑ちゃんの誕生日に遊園地で遊ぶって伝えたいんだけど…」
そこにりんごが現れる。
「蜜柑……」
やはり蜜柑が来ていた。
そう思いりんごは黙ってしまった。
そしてそのすぐ後に
「りんごおまたせ……蜜柑。なんでいるんだよ。」
果鈴が来た。
「何でって、遊ぶ約束してたみたいだから来ちゃった。」
と笑顔でいう。
「そう…りんごこっち」
りんごは果鈴に手を引かれ公園の中央にあるドーム型の遊具の中に入る。
「蜜柑が居たんじゃ離せないよ。」
「ごめんなさい。果鈴のあとに電話が来たから何か言い忘れたのかと思って蜜柑って気付かないでしぇべっちゃった」
「そっか、なら仕方ないね。あ、吾達だ。」
桃子と吾が公園に入ってくる。
「何で蜜柑が居るんだよ!」
「そんな言いしなくてもいいじゃない!」
蜜柑には内緒。
そう言って集められたのになぜ蜜柑が居るんだ。
しかも午前中に遊んだときにはこの後ピアノがあると言っていたのに
「何騒いでんだ。」
そこにゆすらが来る。
「お前がばらしたのか⁉」
吾はゆすらに言い寄る。
「ちょっと、やめてよ。」
蜜柑が言うも今日は違う。
「蜜柑は黙ってろ。ゆすら、お前がばらしたのか聞いてんだよ!」
「は? 意味わかんない。なんでそうなるんだよ。もしかしてお前が自分の罪を他人になすりつけようとしてんじゃねえのかよ!」
ゆすらまで反論し始め遊具の中に声が響く。
「やめなよ!」
「そうだよ!」
二人が取っ組み合いを始めりんごと桃子がそれを離そうとするも
「お前らは黙ってろ!」
いつもお互いへの不満を抑えてきていた二人は止められず
「きゃあ!」
桃子の声に一瞬以後気が止まる。
「あ、ごめん。痛かった?」
りんごが桃子に駆け寄る。
「触らないで!」
桃子の顔を爪でひっかいてしまったのだ。
それを見ていた蜜柑が
「うう…みんな喧嘩しないで……」
と泣き出す。
それにはもうさすがに喧嘩を止め
「ごめん蜜柑」
「泣くなよ…」
ゆすらと吾がなだめるも
「喧嘩するならみんな嫌い!」
そう言って果鈴の手を取るといつの間にか降り出した雨の中蜜柑は走り出してしまった。
「待ってよ蜜柑!」
ゆすらがその後を追いかけて走り出す。
「お前ずるいぞ!」
そう言って吾も走り出す。
だが、公園の前にある横断歩道は運悪く赤になってしまった。
「俺は蜜柑の家直接行く!」
と吾が歩道を走る。
「待ち伏せかよ!」
ゆすらは青に変わった信号を急いで渡り二人を追いかける。
「ちょっと待ってよ!」
桃子も雨の中、吾を追って行く。
「リュウはどうするの?」
りんごが聞くと
「果鈴君の伝言父さんに言わないと」
「なら雨降ってきたからもう帰りな。蜜柑はなんとかするから」
そういうとりんごは雨が強くなる中公園を出て家の方向に走り出す。
りんごの家は双子の隣である。
家に向かって行けば途中で会うかもしれない。
合わなくても一度傘や雨具を取りに行かなくては風邪を引いてしまうかもしれない。
そう思い家までの最短の道のりを行く。
その後ろにリュウがついて来ていることに気が付かずに
家まであと半分。
次第に強くなる雨が髪を濡らし、服を濡らし、重たくする。
「やめて!」
蜜柑の声がした。
そう思い次の角を曲がる。
りんごの目の前にはぐったりとした様子の果鈴を抱える黒い合羽を着た男が蜜柑の口を塞いでいた。
「――!」
声を出そうとした瞬間りんごの後頭部に痛みが走りそのまま地面に倒れてしまった。
りんごは消える意識の中背後に立っていた大人を見た気がした。
リュウはその様子を見ていた。
「父ちゃん……」
「リュウ…」
目の前には見知らぬ人、そして倒れたりんご。
自分の父の手の中には意識の無い果鈴と口を塞がれている蜜柑。
その蜜柑も次第に抵抗しなくなり終いには手足をダラーンとさせた。
「何してるの?」
「こうするしかないんだ。リュウ、父ちゃんと逃げてくれ」
車に双子を積んだリュウの父親はリュウに手を伸ばす。
「ずっと父ちゃんと居るよ。母ちゃんと約束したもん」
そういうと車の助手席に乗った。
走り出す車はそこからそう離れていない雑木林の前で止まる。
「リュウはここで待っててくれ。すぐ戻る。」
「待って…」
リュウの言葉を聞かず父親は後部座席に居た双子を連れて木々のすきまから水滴が落ちる雑木林に入って行った。
リュウは瞬く車の中で待っていた。
だが水滴の叩きつけるフロントガラスの向こうに吾の姿が見えたのに逃げなきゃ、そんな意識が働き父親の居る雑木林に入る。
「父ちゃん…」
時々雨が降り込む雑木林の奥、木の根元で双子に跨る父親を見つける。
リュウは父親が蜜柑の首を絞めているところを見てしまった。
「父ちゃん…」
「ごめん、ごめんな…こうしなきゃリュウと一緒にいられないんだ……」
泣きながら、何度も何度も手に力をこめ二人が死んでいくのを見届けた。
その頃ゆすらは双子の家の玄関にいた。
「あら、今度はゆすら君。蜜柑も果鈴もまだ帰ってないわよ。それよりびしょびしょじゃない。タオルと着替え持ってくるから上がりなさい。」
「大丈夫、二人が帰ってきたら教えて!」
そう言って玄関を出ていった。
「教えるってどうやって?」
双子の母親は何があったのかさっぱりわからなかった。
そこに再び玄関が開く。
「あら、いらっしゃい。貴方までびしょ濡れなの?」
「急に降り出したからね。」
双子の母親はその人物にタオルを渡す。
ゆすらが双子に家を出るとそこには桃子が居た。
「吾は?」
「知らない。もう来たみたいだけど」
ゆすらはそっけなく返す。
「それよりりんごはどうしたんだよ?」
「それこそ知らない。公園に居るんじゃない?」
遠くで救急車の音がする。
「なんだろう?」
「まさか蜜柑達じゃ!」
桃子がそういいだしたため二人は走って救急車の方向を目指す。
それは公園へ向かう道。
その途中で人だかりができていた。
「女の子が倒れてたんですって」
「雨のせいで血が広がっているけど出血は少ないみたいよ。」
「転んだのかしら? 殴られたとかじゃないといいんだけど」
「あの子って森野さんのところのお子さんじゃなかった?」
「じゃあ知らせて上げないと」
ヤシ馬となっている近所の人がそんな話をしていた。
「りんごが倒れてたの?」
「病院に行こう!」
ゆすらは桃子の手を引いて再び走り出す。
石田親子は双子の死を確認してから車に戻った。
「これからどうするの?」
リュウが聞くと
「心配するな。」
そう言って頭を撫でてから車は動きだし町を出ていった。
吾は依然双子を捜していた。
そこに
「吾!」
ゆすらと桃子が走ってくる。
「なんだよ!」
「りんごが倒れてたんだって」
「病院行くぞ」
「は? 蜜柑が先だろ!」
「バカか! 二人は夕方になれば家に帰る。それからでも遅くないけどもしりんごが事故で運ばれたんなら一大事なんだぞ!」
さすが医者の息子。
ゆすらに言われ吾は
「わかったよ。りんごが無事だったらすぐ探しに戻るからな!」
と言って三人で走り出す。
病院では急患を受け入れたことでばたばたしていた。
ここは梅宮総合病院である。
「あの、僕梅宮ゆすらって言います。女の子運ばれてきませんでしたか?」
近くを通った看護師に聞くと
「え? 院長の……ちょっと待っててね!」
そういうと看護婦はある診察室に入っていく。
そこには今日の担当医として梅宮副院長と書いてあった。
「ゆすら? どうしたんだそんな恰好で」
「りんごが運ばれてこなかった?」
それを聞きゆすらの父親は
「さっきの急患は女の子だったな。」
「はい。後頭部を少し切っているようでしたが出血は少なく縫合する必要はないという判断で今は脳波などの検査をしているところだと思います。」
看護師がゆすらの父親に伝える。
「担当は院長だったな。悪いがこの子達を患者のところまで連れて行ってやってくれ。女の子の親には?」
「まだ身元が解らず連絡してません。」
「ゆすら、りんごちゃんだったら母さんに電話して伝えるよう言ってくれ」
「わかった」
ゆすらは看護師について歩き指す。
検査室の並ぶ地下にエレベーターで降りると丁度そこにはタンカーに乗ったりんごが居た。
「りんご!」
タンカーに駆け寄ると
「なんだこの子達?」
と若い医者と思しき男が言った。
「院長のお孫さんで副院長のお子さんです。それでその子のお友達らしく…」
「ああ、そう。検査は終わったから今から病室に運ぶよ。院長は先に一般診療に戻ってる。君達、邪魔にならないようについて来てね。」
と男が言うと
「言われなくても解ってる。病室はどこ?」
ゆすらは少し生意気な口調で聞くため男は苛立つも、大人の対応として
「警察にも連絡するから五階の個室で休んでもらうよ。」
という。
「五〇一二当たりだね。わかった。母さんに電話してりんごの家に伝えてもらってくるから二人はついてって」
そういって近くの階段を駆け上がって行った。
ゆすらは一階にある公衆電話にポケットから十円を出して入れる。
いつもなら塾が終ったと連絡するために持っているお金だ。
「あ、母さん。――違う塾には行かない。りんごがうちの病院に運ばれたんだ。――うん、父さんは知ってる。おばさんに伝えてきてもらって五階の個室だって」
受話器を置きエレベーターの前に立つ。
上に行くのがドアを開けると
「あれ、今から上がるの?」
「なかなか来なかったんだよ。」
地下に居た吾や桃子がりんごを載せたタンカーと共に上がってきたのでそれにのりこむ。
「おばさんは?」
「今連絡したからすぐくるよ。それよりりんご目覚ました?」
タンカーに手をかけ覗き込む。
「全然。警察に連絡するって言ってたけど杏兄ちゃん来るのかな?」
「わかんない。でもおばさんが杏兄ちゃんにも連絡すると思う。」
エレベーターは五階に着く。
そのまままっすぐ五〇一二号室に運ばれる。
「あの、いつ目覚ましますか?」
桃子が聞く。
「早ければ今日中に目を覚ますよ。」
と言いながら医師は点滴を付け
「いじっちゃだめだよ。」
そういいてから部屋を出ていった。
「俺たちガキかよ。」
「大人からしたらガキだろうな。」
ゆすらは近くに椅子を持ってきて座る。
それを見て桃子も隣に椅子を持ってきて座った。
吾は
「りんごは無事なんだし俺、蜜柑探してくる!」
病室を出ていった。
それからしばらくゆすらと桃子は何も話さずにりんごを見ていた。
突然病室のドアが開くため二人はドアの方向に振り返る。
「あ、驚かせちゃった。」
そう言って入ってきたのはりんごの母親であった。
「先生から話を先に聞いてきたわ。二人ともついていてくれてありがとう。飲み物買って来たから飲んで」
そう言って紙パックのフルーツ・オレを渡される。
「杏兄ちゃんも来るの?」
「ええ、今向かってるわ。吾君も一緒じゃなかったの?」
「蜜柑と果鈴が見つからないから探しに行った。」
窓の外を見ながら言うとまたドアが開いた。
「ゆすら、桃子ちゃんも居るわね。貴方達ずぶ濡れで来たんですって」
そう言ってタオルを頭から掛けてきたのはゆすらの母親であった。
「あたし夫に電話してくるわ。りんご心配なさそうだって」
「転勤先だもんね。」
りんごの母親が病室を出ていった。
ゆすらの母親はここの医師であるが午後からは休みになっていた。
「帰らずに残ってればよかったわ。」
りんごの頬を触りながらゆすらの母親は言った。
彼女は小児科医である。
「仕方ないよ。誰もこうなるなんて予想しないもん。」
ゆすらがそういうと笑いかけてくる。
「塾には連絡しておいたから目を覚ますまで居ていいわよ。その代り明日は塾がなくてもしっかり自習するのよ。一般診療が終ったら父さんも来るから」
電話をしていたりんごの母親が入ってくるもその後ろには見知らぬ女性が居た。
「この子、杏の彼女で心配だからって来てくれたの。」
「こんにちは」
ゆすらはそういうと
「こんにちは。杏からみんなの事よく聞いてるよ。」
と言ってからりんごの母親と話し出した。
「じゃあ、パジャマとか取ってくるから」
「はい。何かあったら連絡します。」
りんごの母親は入院の荷物を取りにいったん家に帰った。
あまりりんごの顔を見ることなく。
それから数時間。
雨はとっくに止んだ。
だが吾が双子を連れて病室に来ることはない。
何度か杏の彼女が病室の前で杏と話しているのは見た。
そこには交番のお巡りさんも居た。
事故か事件か、調べているようだった。
夕方になりゆすらの父親が病室に来た。
「まだ目を覚まさないか?」
「そうなの。麻酔を使ったりはしてないんでしょ?」
「縫ってないからな。それよりお前、夜勤で昼間まで居たんだろ。仮眠室で少し休んだらどうだ?」
「平気よこのぐらい。あの子ったら荷物取りに行ったっきり戻ってこないから、あの子が戻ったら仮眠室行くわ。」
と大人たちの会話を聞きながらじっとりんごを見ていると
「蜜柑がさらわれた!」
病室のドアを勢いよく開け吾が入ってくるなりそう言った。
「いきなりなんだよ……」
ゆすらは蜜柑よりも目の前のりんごが心配でならなかった。
「いないんだよどこにも! もう夕方なのにどこに家にも帰ってないしどこにもいないし!」
と大っきな声で言うと
「吾君ここは病院だから静かにね。」
ゆすらの母親に言われ少し小さくなる。
「だが蜜柑ちゃんも果鈴君もどこ行ったんだ?」
確かに外はもう夕日が沈んでいる。
夏のこの時間はもう夕飯も食べ終わっていてもおかしくない時間だ。
「杏に伝えてきますね。」
杏の彼女が携帯を持って病室を出ていく。
「吾君も桃子ちゃんもお家の人には言ってあるの?」
と聞かれ首を横に振る。
「二人ともまだ服湿っているしここはクーラーもついてるから体冷えちゃったでしょ。だから今日はもう帰りましょう。おばさんお家まで送って怒られないように説明するから」
桃子は大人しく椅子から降りる。
「でも!」
だが吾は反論した。
「りんごは僕が見てるから、明日も来ればいいだろ。」
とゆすらに言われしぶしぶゆすらの母親に連れられ病室を出た。
「吾君着いたわよ。」
ゆすらの母親の車で数分。
先に吾の家に着いた。
「桃子ちゃん少し待っててもらえる。」
「はい。」
桃子を置いて車を降りる。
吾はお店の処から
「ただいま」
と中に声をかけると
「吾! こんな時間までどこほっつき歩いてたの!」
と吾の母親で吾を見るなりいうもその隣にゆすらの母親を見て
「あ、どうも…」
と恥ずかしそうにいう。
「ゆすら君の家に居たの?」
「あ、いえ、実はりんごちゃんが病院に運ばれて、蜜柑ちゃんと果鈴君が探しても見つからないとかでこんな時間まで連れ出してしまってすみませんでした。」
「そんな、こちらこそ送っていただいて、それでりんごちゃん何かあったんですか?」
「道路に倒れてたみたいで、少し頭を切ってはいるんですが今は入院して休んでますんで心配はないと思います。それで蜜柑ちゃん達知りません?」
「さあ、見てませんね。今日はありがとうございました。」
「いえ、ではまた」
そんな会話をしてゆすらの母親は車に戻った。
「おまたせ、すぐお家だから」
「家には一緒に来なくて平気だよ。お母さん今日も帰り遅いと思うから」
桃子は後部座席から伝える。
「そう、お仕事大変ね。」
「……うん。仕事大変みたい。」
桃子はそれ以降黙って窓の外を見ていた。
「それじゃあね。」
「ありがとうございました。」
そう言って桃子は団地の中に入って行った。
ゆすらの母親は一旦自分の家に戻りゆすらの着替えを持ってから病院に向かった。