4-1見つけたところで終わっていた
見つけたところで終わっていた
りんごの誘拐事件から数週間、九月に入り二学期の初登校で馬鈴と大角豆でそれぞれ目を引く生徒が登校していた。
「桃子って同性同名同年齢の桜井桃子だと思ってたけど本人だったなんて、なんで今までかくしてたのよ。」
桃子は黒髪のかつらを脱いでいる。
そしてメイクは覚えたての女子高生と違い軽く薄いメイクがされていた。
それには桃子より先に登校していた吾も驚く。
「急にどうしたんだよ?」
席の近い吾が聞くも
「イメチェンよ。ただの」
とそっけなく返す。
そこに登校してきた蜜柑が桃子の周りの人だかりを見て一瞬また不機嫌な顔をする。
それを吾は見ていた。
蜜柑は桃子の席に近づき
「なになに? 朝からどうしたの?」
と人ごみをかき分ける。
「あ! 桃子昔に戻したんだ。やっぱりその方が可愛い。」
蜜柑がそういうと
「蜜柑は昔から桃子と知り合いだったんでしょ? なんで教えてくれなかったの?」
「え? だって桃子は隠してるみたいだったから、それにせっかく仕事忙しくて休む時間なんて学校に居る時ぐらいだからそっとしておこうかなって思ったの。」
「蜜柑は優しいね。」
という話を間近で聞きながら桃子は今日の放課後のことを考えていた。
誘拐事件はまだ解決していない。
リュウの居所もリュウの父親の居所もつかめていないからだ。
唯一の目撃者である吾の父親もまだ見つかっておらず事件は解決には進めずに足踏み状態であった。
一方、りんごも登校するや否や男子生徒の視線を集めつついつもと違い女子生徒に囲まれていた。
「髪切っちゃったの勿体無い。長いの似合ってたのに」
「でも短いのも似合ってるよ。何かあったの?」
「もしかして失恋したとか? 誰に告ったの?」
そんなことを聞かれているのを離れた席からゆすらが見ていると
「森野ってあんなに可愛く笑うんだな。美人だから綺麗なのかと思ったけど」
「どっか子供っぽいよな。今まで無表情だった分さらに際立つ」
「それで、森野は失恋したみたいだけど誰に告白したとか聞いてないのか?」
ゆすらも質問責めに会うも
「俺が知った事かよ。昨日までは普通だったのに」
と返し今日ある学力テストの勉強に入る。
「でも本当にいきなりバッサリ行ったよね。何があったの?」
りんごに隣の席から苺が聞いてくる。
「これと言って特に何かあったわけじゃないよ。ただ、これからちょっと調べものをするのに動き回るから邪魔かなって思って」
「調べものに邪魔なの?」
苺は何を調べるのか興味があった。
「何調べるの? あたしも手伝おうか?」
と聞かれるも
「危ないからいいよ。」
そういうと丁度チャイムが鳴り教室に果鈴が入ってくる。
「おはよう。元気してたか? ホームルームは短くするぞ。一時間目から全校集会になった。そのまま始業式をして、教室に戻って学力テストをして、今日は解散になる。」
ゆすらとりんごはなんとなく集会の話の内容が解っていた。
下校しようとした生徒が校門を出てすぐにさらわれたのだ。
しかも校門でさらわれたにも関わらず荷物は昇降口に置かれていたことから校内に侵入したことが解る。
入院先の病院で今度は友人と二度目の誘拐にあっている。
それについての話がされるのだろう。
りんごにも桃子にも警察から小型の発信機と無線機を持ち歩くように言われ、尚且つ数人の警官が交代で二人を監視している。
りんごは下校時間が早くなったことを桃子にメールする。
桃子がよく使うカフェにはゆすらが来る可能性がある。
りんごの家にも吾やゆすらが訪ねてくるかもしれない。
りんごは馬鈴駅で桃子と待ち合わせて桃子の家に行くことにした。
「おまたせ」
桃子がりんごより遅く駅に来た。
「何かあったの? 桃子の家に直接でもよかったんだけど」
「なんでもない。教室どころか学校から出るのもひと苦労で、りんごはどうだったの? 今この場でも随分目を引いてるみたいだし学校大変じゃなかった?」
待ち合わせと言うことで学校が終わり次第急いできたためしばらく桃子を待つことになってしまった。
その間、通行人を始め駅前のお店の店員や駅の清掃員、係員などがちらちらとりんごを気にしていた。
「そうでもない。こっちは勉強優先だから、さあ、行きましょう。桃子の方が目立つから」
二人は歩き出す。それを遠目で二人の人物が見ていた。
「あの二人の仲がいいなんて」
「俺達も同じようなこと言われそうだけどな…」
ゆすらと吾がファーストフード店の窓越しの席から見ていたのだ。
「なんか最近余所余所しいんだよな。」
「りんごなんて元からそんな感じだっただろ? 桃子が自棄にイライラしていいだよな。」
「それもいつもの事だろ」
二人は溜息を吐きながらストローに口をつける。
「そういえば桃子に連絡取ろうと思ったらつながらないんだが」
「ああ、妹の連絡網で自宅の方に電話したら携帯無くしたから新しいの買いに行ったみたい。連絡ないか…」
桃子は二人に新しい連絡先を教えていないのだ。
桃子の家はりんごが記憶している団地ではなく場所も違う一軒家だった。
「引っ越してたのね。」
「そう、三年ぐらい前にね。兄妹も増えたからあたしの稼ぎで買ったみたい。お母さん今五人目がお腹に居るの」
「大家族ね…。」
桃子の母親はホステスであった。
二十歳になる前に客との間に桃子が出来てしまい一度は仕事を辞めて昼間の仕事を始めるも小さな町でホステスをしていた女というのは目立つようですぐにその仕事を辞め隣り町で働くも噂は広がっていた。
それでも小さな工場の事務仕事をして桃子を育てた。
だが、丁度子役ブームというものの波があり桃子をオーディションに出してみると以外にも仕事が舞い込むようになったのだ。事務仕事以外で娘の収入もあり余裕が生まれたところ母親は男遊びをするようになった。
桃子の七つ下に弟の柊が生まれ、十歳下に椿、十三歳下に楓が居るのだそうだ。
だが全員母親は同じでも父親は異なっている。
「今の人と結婚してくれればこっちは楽なんだけどね。事実婚のままだから」
桃子の母親は一度も結婚していない。
「桃子も大変ね。吾から聞いたけど中学の時いじめられてたんですって」
中学は違えど小学校が同じだった生徒通しメールや電話でのやり取りの中話題が出たのだろう。
「ああ、らしいわね。あたしもともと学校ほとんど言ってなかったから気が付かなかったのよね。」
ある意味りんご達七人は町では目立つ家の子供であった。
りんごの家はまだしもゆすらの家は大きな総合病院の医院長の婿養子でゆすらにその跡を継がせるために教育に必死でいた。
小学校が終れば水曜日以外は塾や習い事が土曜日まで入っていた。
日曜日は両親家を空けることが多くりんごの家や祖父母の家で過ごすことが多かった。
吾の家は父親の自営業の店舗があまりうまく経営できておらず、度々借金取りが家に押しかけてきていた。
父親の疾走後は母親が必死で働きお金を返し、その後再婚していた。
リュウの家は幼いころに母親を病気で亡くしその時入院していた病院をひどく中傷したことから警察に捕まっていた。
病院側はよくあることだと言って起訴しなかったため罪にはならず働き口である建築会社まで紹介していた。
その後病院には謝罪をし、リュウを育てながら細々を暮していた。
家はプレハブで雨風をしのぐのがやっと、夏は暑く、冬は寒い環境であった。
それに比べ双子の祖父母は地主で父親は警察官僚。
恵まれた家であった。
桃子の家に上がるとたくさんのベビー用品と片付けられていない洗濯物や空のコンビニ弁当の容器が目に付いた。
「散らかってるけど気にしないで、お母さん出産前に体調崩してからずっと入院してて、あたしも昨日まで仕事してたから」
「弟や妹は?」
「一番下は一緒に病院で寝泊まりしてて、後二人は今日まで友達の家に泊まっててもうすぐ帰ってると思う。お父さん片付け嫌いですぐ散らかしちゃうの」
そういいながら落ちている洗濯物を部屋の端に置いてあったカゴに入れていく。
「悪いんだけど机の上の食器流しに置いといて」
とカゴいっぱいになった洗濯物を脱衣所に運びながら桃子が言った。
りんごは言われた通りに流しに食器を運ぶとそにはコップぐらいしか置かれていなかった。
「コンビニ弁当のゴミばっかり」
世の中の男性の生活とはこういう物だろう。
そう思いつつゴミ箱を机の近くまで運びプラスチックの容器を捨てていく。
数十分ほどゴミや洗濯物を片付ける作業が続き机を拭き、掃除機をかければ桃子が納得のいくぐらいの綺麗さにはなった。
そこに
「ただいま、桃ちゃん居るの?」
「お腹すいた」
という声が玄関からした。
「お帰り、帰って来たなら手洗いなさい。お昼もうちょっと待ってて今から作るから」
まるで桃子が母親のようだ。
「忙しいわね。」
「これがいつも、りんごも食べるでしょ?」
「いただくわ。また何か手伝う?」
「野菜切って、一先ずあたしは食器洗うから」
そういいながら冷蔵庫の野菜室を開け、玉ねぎにピーマン、人参と冷凍庫から冷凍のコーン、そして上の段の扉を開けてベーコンを出す。
「何作るの?」
「楽だからオムライス」
最後に卵をパックごと出す。
「ご飯炊いてないんじゃない?」
「そういう時は非常食。」
実際非常食として買い置きしているわけではないようだが流し台の下から電子レンジで温めるだけでできるご飯を取り出す。
「じゃあ、みじん切りが良いわね。」
「人参だけはすりおろして、柊が食べれないから」
二人で並んでキッチンに居ると
「お昼ご飯何?」
と椿が現れる。
「オムライスだよ。椿は卵割れる?」
「できるよ!」
「じゃあ、これ全部ボウルに割って」
桃子はそういいながら食卓テーブルにボウルと卵のパックを置く。
「桃ちゃん洗濯終わってるよ。」
と今度は柊が来る。
「干しといて」
そういわれるとええ…と言いながら脱衣所に戻って行った柊。
「みんないい子ね。」
「いつもは生意気よ。お母さんがいない間は協力しようって言ってるから仕方なくって感じね。」
「卵の殻入っちゃった!」
椿の声に桃子は手を止める。
「大丈夫だよ。……ほら取れた。これでぐるぐるして」
白身のついた椿の手を拭きながら泡だて器を渡す。
「始めは黄色いのをトントンするんだよ。」
言われた通りに数回泡だて器で黄身を叩いてからゆっくりと混ぜだした。
「私も妹欲しかったな。」
「あたしはお兄ちゃん欲しかった。」
お互いない物ねだりである。
擦った人参の水分が飛ぶまで炒めてから他の野菜とベーコン、コーンを入れ炒める。
「椿、ありがとう。もうお姉ちゃんにそれ貸して」
そういわれた椿は桃子の元までボウルを運ぶ。
「干し終った。暑い…」
そういいながら柊が冷凍庫を開けると
「アイスはないわよ。」
と桃子が言う。
「もうすぐできるからテレビ見て待ってなさい。」
そういわれると二人は大人しくソファーに座ってテレビを付けた。
ご飯も入れ、ほぐしてからケチャップを入れてさらに炒める。
その隣でフライパンをもう一つ取り出し桃子が卵を焼き出す。
「薄焼き卵と半熟卵どっちがいい?」
りんごは少し考え
「薄焼きの気分かしら」
と答えると
「俺半熟!」
「あたしも!」
とテレビを見ていた二人が言い出す。
「解ってる。」
お皿に盛りつけ卵を載せる。
それをテーブルに並べると柊も椿もすぐに椅子に座る。
「はい、いただきます。」
「いただきます。」
桃子が言うと二人がそろって言った。
食事が終ると二人は遊びに行ってくると言って出ていった。
家に残されたりんごと桃子はやっと本題に入る。
「兄さんから誘拐事件のコピーももらって来たわ。双子の事件の資料はゆすらから受け取った?」
「一様ね。で、気になるって言ってたのはどれ?」
りんごは資料をめくる。
「ここよ。私のメガネがリュウの乗っていた運送会社のトラックの荷台に乗っていたの。」
項目の一つを指さしながらいう。
「別におかしくないじゃない。トラックで運ばれたみたいだし」
「いいえ、私は病院で目が覚めてメガネがないのに気付いて探したけどカバンにも病室にもなかった。桃子を連れて病室を出たときにはメガネはかけてなかったのよ。」
桃子は記憶をたどる。
最近かけているところしか見ていなかったためあの時もてっきりかけていたと思ったがなかったかもしれない。
「じゃあなんでそれがトラックにあるのよ?」
「私が一回目に誘拐された時にもあのトラックが使われたってことじゃないかしら、でないとメガネがどこからか湧いてきたことになるわ。」
「湧いてきたって……」
言い方はあれだが確かにそうだ。
「でもなんでリュウは蜜柑達に協力するの? もしかしたらリュウのお父さんが誘拐犯かもしれないのよ。」
「その辺はよくわからないけどリュウと双子の間でなにかあるんじゃないかしら、今まで隠れるように町から離れて警察の目を欺いてきたのに今更戻ってくる理由がないわ。そもそも小包を届けに来たのは協力関係にあるからでしょ?」
桃子は資料をぺらぺらめくりながら
「そこなんだけど、犯人って単独なのか、協力者がいるのか、それがリュウで、主犯が蜜柑なのか解ってるの?」
りんごはまた資料をめくる。
「少ながらず警察は今回の誘拐に限っては立花家に話を聞くつもりみたいよ。なんて言ったって蜜柑の母親の実家の隠し部屋に監禁されていたんだから」
「でも七年前の事件で双子を誘拐されておばさんにもおじさんにも何のメリットもないじゃない。」
二人は頭を抱える。
「そこなのよね。もし何かあの家にあったとしても今回のことにつながる可能性は低い。」
桃子は七年前のことを思い出しながら記憶を巡っていると
「でもりんごの家に怒鳴り込んできたのはおばさんだけなんでしょ?」
子供を無くして悲しいのは両親同じことのはずなのになぜだろう。
「警察官の中でも上にいるような人がそんなことできないでしょ。」
「そういえばおじさんなんで左遷にあったの?」
双子の父親は突然町から居なくなった。
「さあ、よくわからないけど浮気がどうとか言ってたかしら」
「浮気?」
「そう、浮気。」
考え込んだところで進むことができずにいた。
「ねえ」
桃子が沈黙の中口を開く。
「なんか、あたし達の親って何かしら警察に関係あるわよね。」
りんごの兄、杏は警部。
吾の義父も警察官。
そして双子の父親は警察官僚。
「実はお父さんも警察関係者みたいなんだよね。」
桃子の母親の事実婚の相手も警察関係者。
「こんな小さな町にこんなに警察官がいるなんて変な話ね。」
「世間が気付いてないだけで周りにいるんじゃない。ゆすらのお母さんって確か前に警察病院に勤めれたっけ?」
「そこもか」
本当に警察関係者が多い。
しかも事件にかかわったメンバーに
「吾のお父さんはこの辺りを担当する所轄。確かもとは兄さんの先輩で警視庁に勤めていたエリートみたいよ。結婚してこの町に来るから移動したみたいだけど」
「変わり者ね。」
テレビの向こうから笑い声だけがリビングに届く。
「そういえば冷蔵庫に何もなかったけど買い物に行った方がいいんじゃない?」
「マイペースね…。まあ、確かに買い物いかないといけないのか。暑いからもう出たくなかったんだけどな。」
桃子は財布と携帯をエコバックに入れる。
「本当に主婦ね。」
二人は考え込んでもきりがないと思い。買い物へ出た。
ゆすらと吾は未だに吾の父親を捜していた。
これと言った目撃情報も無くただ町中を捜して走っていた。
そこに
「吾君?」
という声に足を止める。
「あ、お義父さん……」
吾の義父と偶然出くわした。
「汗だくじゃないか。何してたんだ?」
父親を捜していたなんて言えない。
「先日誘拐事件と七年前の誘拐殺人事件について調べていまして、今はその目撃者を捜しているんです。」
とゆすらが言うと吾の義父は険しい顔をする。
「子供が大人の真似事をするもんじゃない。まして解決の糸口すら見つかっていない事件に首を突っ込むんじゃないよ。」
「でも両方とも大事な友達が被害者なんです。」
ゆすらは真剣なまなざしで吾の義父に言うと
「立花さんの事件は解決しちゃダメなんだよ……」
と小さな声で言った。
「どういうことですか?」
それに吾が食いついた。
「……八年前から事件後しばらくは立花さんが上司で私が部下という関係があった。だがあの人は事件の少し前に言ったんだ。
『妻に裏切られた。あの子たちは自分の子供ではなかった。』
って、上層部の人間もその話を聞いていたらしく事件が行き詰まったところで適当に理由を作って左遷したんだ。その話を聞いていた私も処罰の対象になったが何とか免れてね。まあ、仕事をもらえない環境だったから独自で捜査するときもあった。その過程で母さんの相談に乗る機会があったんだよ。」
吾は自分の両親の出会うきっかけまでも双子の事件だったと言うことに違和感を持ちつつもそれを飲み込んだ。
「おじさんも双子の事件については知ってるんですね。」
ゆすらが聞く。
「ああ、事件自体にはかかわっていないがね。」
吾は息を吐いてから
「なら母さんの前の結婚相手が事件にかかわっていたのも知ってるんだ。」
「ああ、相談に乗っていた時にも何度も聞いているよ。」
それを聞いて息を飲む。
「もしかしたらその人が事件について有力なことを隠しているかもしれないんだ。だから俺達、今その人を探してて……」
「調査書類に書かれていない部分を調べているみたいだね。今から時間があるなら署までついて来てくれないか」
おそらく義父はまだゆすらも吾も、りんごや桃子も知らないことを知っている。
そう考えるとついて行かない理由がない。
車でほんの数分馬鈴警察署に着く。
車を降りると数人の警察官が
「署長! どこ行ってたんですか?」
「探したじゃないですか!」
と言ってきた。
「悪かったね。家に忘れ物を取りに行ってきたんだ。」
そういうと後部座席からゆすら達が出る。
「あれ? 君達この前の誘拐事件の時にいた…」
それはりんごの病室を警護していた警察官であった。
「あ、どうも…」
と返事をしてから吾の義父の後について歩き出す。
「これ、息子ね。こっちがその友達。誘拐された二人も友達なんだって」
というと部下であろう人たちが驚いた顔をして固まっていた。
そんなことはお構いなしに署内の所長室に二人は通される。
「それで、調査書類に書かれていない部分ってなんなんですか?」
部屋に入るなりゆすらは切り出す。
「一先ず座ったらどうだ」
ゆすらは吾に背を押されソファーに座る。
それを見て義父は机の引き出しからくたびれた封筒を取り出す。
「これにその調査書類に入っていない立花さんが直接、二人っきりで吾君のお父さんを取り調べたときのデータが入っている。」
そういいながら封筒はソファーの前のローテーブルに置かれた。
「開けても……」
「ああ、構わないよ。」
吾が封筒を受け取り、中身をとりだすとゆすらに渡す。
ゆすらはそれを一枚一枚真剣に目を通す。