2-2喧嘩と犯人捜し
それから数日。
蜜柑や果鈴の前でりんごと桃子はお互いともその近くにいるゆすらや吾ともできるだけ接触しないようにするという話をしたため終業式の帰り以降りんごと桃子の二人はもちろん、桃子と吾、りんごと吾が合うこともなかった。
だがこの日は
「本返しに来た。」
とりんごの家まで吾が来たのだ。
「いつでも良かったのに、早かったわね。」
「また借りていい?」
「どうぞ」
そういって家に上がらせる。
本を借りたらすぐ帰る吾だが
「そういえばなんで制服?」
りんごの恰好は制服であることに気が付く。
「午後から夏期講習なの。」
そういって吾と共にマンションを出ることになった。
マンションの一階につきエントランスに出ると
「吾?」
ゆすらが吾に気付く。
「本返しに来たんだ。取りに来てもらうのは悪いから」
と言って持っている本を見せる。
ゆすらはふと、見覚えのあるタイトルに目が付いた。
それはりんごが以前読んでいた
『犯罪心理学と犯罪者』
という本であった。
「お前、まだ二人は犯人を捜してほしいって思ってんのか?」
「お前等がどう思おうと俺はあいつ等のためになるなら犯人を捜して見せる。何年かかろうと」
とういうと吾は駅の方向に歩いて行った。
「ごめんなさい。」
りんごがゆすらに行った。
「どうせりんごは何を借りて行ったのか知らなかったんだろ? お前が謝ることじゃない。それより遅れるぞ。」
二人ならんで歩き出す。
学校では果鈴と会うことなく夏期講習を送っていた。
終わればまっすぐ帰りりんごは家で、ゆすらは塾で勉強をしていた。
桃子は今日も仕事で都心から電車で帰ってきたところであった。
そこにゆすらからメールが入る。
いくら会うのは控えると言っても二人はお互いのストレスのはけ口となっている行動をやめるつもりはなかった。
今日は先にゆすらがカフェについた。
そこに一足遅れて桃子が入店する。
テーブルにはすでにゆすらの注文したものが届いていた。
席に着き註文したところで
「吾って今はりんごが好きなのかな?」
「それはないだろ。」
桃子が頬を膨らませながら
「だって急にあんなに仲良くなっちゃったんだよ? 何かあるよ…」
「未だに一途でいられるお前が羨ましいよ…」
ゆすらは店内から外を見渡す。
「みんな蜜柑が好きだったのよ……。お姫様みたいでみんなにちやほやされてて、果鈴も王子様みたいだった。」
運ばれてきた飲み物に口をつける。
「そうだな。あのぐらいの歳の子からしたら蜜柑は特別だった。でも今は違うはずだ。俺たちも十分大人に近づいた。昔起きたことと向き合う必要がある。」
「意味わかんない。」
桃子が切り捨てる。
「あたしが言いたいのはあんたも吾も蜜柑が好きだったことには代わりない。りんごは果鈴が好きであたしは吾が好きだった。」
だった。
その部分だけやたら協調して言っているようだった。
「でもそれはほとんど蜜柑の誘導だったと思うよ。思わせぶりな態度をとられてそれに本気になっていた。あのぐらいの歳の子供って自我の芽生えからそれを誘導されることで意図していないことを意識しがちらしい。小学生の初恋が多い時期でもある。」
「ゆすらもりんごから本でも借りたの?」
と聞かれる。
ゆすらは肩をすくめながら
「俺、小学校を転校しただろ? 事件のこともあって少し情緒不安定に見えたらしい。保健医にカウンセリングを進められて言われたんだ。」
そこから俺の推測で言った。
と続ける。
桃子は考える。
もし双子がいなかったら自分の初恋は実っていたかもしれない。
でもこうしてゆすらと話すと言うことすらしなかっただろう。
もちろんりんごとも、自分とは明らかに合わない人間たちだから、でもその中心に双子かいたから均衡が保たれていたのだろう。
だが双子が居たから馬の合わない吾とゆすらは出会ってしまった。
今の吾だったらまだしも幼かったやんちゃな吾と正義感の強いゆすらは調和を取れなかった。
二人とも蜜柑のためにお互いに我慢していた。
桃子と吾は偶然同じクラスにならない限り出会うことはなかった。
親同士が親友であったりんごとゆすらのようにはならなかっただろう。
「あたし達の関係って曖昧よね。」
「仕方ないさ。」
ゆすらは携帯を見て時間を確認する。
「そろそろいかないと」
「塾? よくやるわね。」
ゆすらがケーキを一口で頬張り流し込むように飲み物を飲み干すのを見て桃子も釣られて飲みきり立ち上がる。
「塾にも行かずに俺に並ぶ成績を出す人間が近くにいるからな。」
机に代金を置いてゆすらは急ぎ足で桃子を置いて店を出ていった。
桃子の会計を済ませて店を出た。
そこでシャッターの音が聞えた。
「誰⁈」
物陰に声をかけると走り去る足だけが見えた。
桃子は事務所に連絡を取る。
りんごはリビングでノートや教科書、プリントを広げて宿題をやっていた。
夏期講習の授業内容とは別で各科目宿題が出ている。
夏期講習でも宿題は毎日出る。
ペンを置き、キッチンに飲み物を取りに行こうとして立ち上がるとインターホンが鳴る。
三時になるかならないか。
この時間に毎日のように荷物が届く。
「はい。」
受話器を取ってこたえると
「今日も配達でーす。」
とリュウがカメラ越しでいう。
「いつも通り玄関の前に置いておいて、判子はいつものところにあるから」
そういって切る。
実はリュウがバイトしているという配送会社は調べてみたところ架空のものであったことがわかった。
リュウが一体誰に雇われているのか解らないがそこから届く小包は異様なものである。
今日もリュウが玄関の門をくぐった音が聞こえるとドアスコープから様子を伺う。
いつも通りに小包を置き、使っていない傘に隠しているシャチハタの印鑑を自分で押してからエレベーターの方向に歩いて行く。
りんごは玄関の時計をじっと見る。
少なからず三分は待ってからドアを開ける。
この三分がいつも長く感じるのだ。
三分後、ゆっくりドアを開けエレベーターが一階にあることを確認する。
そして外廊下から地上を見下ろす
。配達の車はいつもりんごの家の真下の駐車場に止まっているのだ。
そこに車がなければ荷物を持って家に入るがまだ車があった時はもう一度エレベーターを確認。
上がってくる気配がなければもう一度車を見る。
今のところここまでの確認でリュウを助手席に乗せた車はマンションを出ていく。
それを見送りりんごは一息つき小包を持って室内に戻る。
この小包は双子からのメッセージだろう。
始めて届いたときには
『りんごへ』
とだけ書かれた一枚の手紙と昔りんごが蜜柑に始めてプレゼントしたおもちゃのネックレスが一緒に入っていた。
二回目には
『たくさんのプレゼント』
と書かれた紙と果鈴にプレゼントした飛行機のおもちゃが届いた。
三回目は
『ありがとう』
ここまでくればりんごにもわかった。
手紙は一行ずつ書かれていることもそれには蜜柑と果鈴にプレゼントした物が交互に入っていると言うこと、手紙はこう続く
『でも最後のプレゼントをもらう前にさようならしてしまって悲しかったです。みんなが蜜柑達のことを忘れてしまっていることも…… だからもう大事にするのは止めて返すね。いつか蜜柑達が喜ぶ最高のプレゼントを用意してくれたらうれしいな。こんなことするのはりんごだけだよ。りんごは特別だもん』
これが昨日までの手紙を繋げたものである。
そして今日届いた手紙には
『だから迎えに行くね』
りんごは目を見開く。
迎えに行くとはどういうことだろうか?
そもそも蜜柑は何がしたいのだろうか?
みんなのところにも届いているのだろうか?
解らないことが多すぎる。
その時再びインターホンが鳴る。
驚き持っていた手紙がひらひらと床に落ちる。
リュウが戻ってきたのだろうか?
それとも全く関係ない人か…
ドキドキしながら受話器を取る。
「はい。」
このマンションのエントランスにあるインターホンにはカメラが付いている。
だがその動画はなぜか引っ越してきたときからりんごの家に限り何をしても映ることがない。
「りんご、俺、兄さんだけど」
その声のホッとする。
「今開ける。玄関開いてるから」
そういって受話器を置く。
兄、杏はりんごの父違いの兄である。
そのため苗字も花傘という。
りんごは急いで机の上に置いてあった小包をしまう。
ほんの数分で玄関が開く。
「いらっしゃい」
キッチンからアイスコーヒーを載せたトレイを持って玄関で靴を脱ぐ杏に向かってりんごは言った。
「お邪魔します。母さんは相変わらず?」
りんごと杏の父親は違う。
りんごが産まれる前に離婚して再婚しているのだ。
「うん。この前北海道からいろいろ送ってきたわ。何の連絡もなかったから急いで送ってまた飛行機にでも乗ったんじゃない。」
「おじさんは?」
杏は義父のことを父とは呼ばない。
もともと二十歳過ぎてからの再婚。
母親から義父より自分から義父の方が歳は近いのだ。
「今は解らない。それより仕事中じゃないの?」
りんごは話を替える。
聞かれたところで答えられる範囲は極めて狭い。
「吾君いただろ、彼のお父さんが最近前の家の周辺で目撃されているらしい。彼の親も再婚しているみたいだけど知らせるだけ知らせてあげようかと思って」
そういいながら杏はソファーに座りコーヒーを飲む。
「再婚しているの?」
そんな話聞いたことがない。
それも吾の性格が大きく変わってしまった原因の一つなのかもしれないとりんごは思った。
「四、五年前ぐらいに俺の先輩と再婚したんだよ。」
ならば今は万田という苗字ではないんだろうな。
と思いながら苗字なんてどうでもいいことであったと思い出す。
「それで兄さんは何しに来たの? 吾のお父さんの事だけのために電車乗ってきたの?」
杏の車は今修理中だと言うことはほぼ毎日しているメールに書いてあったことのため確かめるように聞きながらグラスに口をつける。
「最近、もう一人町に戻ってきたんだ。行方不明扱いになっていた石田リュウは覚えているだろ?」
その言葉にりんごの手からグラスが滑り落ちそうになる。
「リュウがどうかしたの?」
小包のこともありりんごは詳しく聞きたくなった。
「石田リュウとその父親はあの事件の直後に行方不明になっている。あの事件に何らかの関係があり拉致、もしくは失踪したと思われていたんだが息子のリュウだけがひょっこりこの周辺に戻ってきたんだ。しかも二十代の男と十代の女子高生を連れていたって話だ。」
りんごの顔色がみるみる悪くなっていくのを杏は見逃さなかったが無理やり聞き出すことはせず
「何か聞いたことないか?」
とあくまで知らないことを前提に聞いてくる。
「……解らない。でも、最近ゆすらや吾達の周りに頻繁に現れているみたい。兄さんに頼みたいことがあるの」
りんごは無理なお願いだと言うことを承知で言うも杏は一言で了承する。
杏は帰り際、床に落ちた紙を見つける。
それを拾いりんごに渡そうとするもその手を止める。
小さな字でTと書いてあるのも不自然ながらその内容も気になる。
杏はそれをポケットにしまい込んだ。
大角豆高校の夏期講習はお盆休み以外毎日ある。
午前中は成績低迷者が中心。
そんな彼らは午後には自習室に移り当番の先生が見ている中下校時刻まで帰れない。
成績に変動がない者は昼を挟んだ前後合計四時間ぶっ通しで授業がある。
上位成績者は午後の遅い時間、三時半から軽く授業の復習後にテスト、テスト、テストが待っている。
任意で受ける夏期講習だが勉強地獄である。
勉強熱心な親を持つ生徒が多いため夏期講習を受けない生徒はほとんどいないぐらいだ。
りんごとゆすらは数学が行われる日は一日授業がない。
ほぼ満点を取る二人は授業を断り課題を受け取ることになった。
その分この日は成績低迷者を自習室で見てほしいと頼まれたのだ。
果鈴が講師だと思っていたのだが夏休みに入り家族が入院したとかで学校に来ていないことが解った。
「森野先輩」
りんごは呼ばれて振り返る。
数学で一年生が使っているプリントの問題を考えたのはりんごとゆすらのため適任なのである。
「因数分解から間違っています。九九の計算をもう一度勉強してきてください。」
とゆすらが苦笑いをするようなことをいうりんごだが間違いは指摘した。
答えの出し方は教科書を見ればわかる。
応用問題に苦戦しているようでは進級テストどころか挽回テストすらできないだろう。
それなら相手を挑発させてその気にさせる方が相手のためになる。
りんごに比べたらゆすらの教え方は最初から最後まで優しく教えてくれる。
だがその分テストではいい点に繋がらないのがここに居る自習室の面々の現状なのだ。
解らなくなったらまずりんごに聞く。
そしてどうしても解らなかったら最後の最後でゆすらに聞く。
そんな循環が生まれていた。
「下校時刻です。今日はここまでにして残りは家でやってきてください。」
りんごのその声に時計を確かめながら生徒は机に広がる荷物を片付けだす。
「そうだ。」
りんごはそういうとカバンを持ってゆすらの元へ行く。
「梅宮君、少し時間いい?」
珍しい。
そんな顔でゆすらはりんごを見る。
「ああ、予定はないがどうかしたのか?」
「兄さんに気になること聞いたの。」
ゆすらはりんごの兄が警察官であることを知っている。
そして双子の誘拐事件の捜査班にいることも
教室から一年生が帰ったのを確認してから
「昨日兄さんが来たのだけれど吾のお父さんがあの町に戻って来たみたいなの。」
「その話?」
ゆすらは拍子抜けしたような声を上げる。
「これはついでで言っているのよ。本題はリュウとリュウのお父さんが行方不明扱いだったってこと、しかも二人は双子の事件の重要人物である可能性があるみたい。」
「どういうことだ?」
ゆすらはまだ話の趣旨が解らないままでいた。
「私も警察がどうしてその結論に至ったかは解らないんだけどリュウとリュウのお父さんは事件直後に居なくなったでしょ。警察は双子の事件に何らかの形で石田親子が関わり拉致、もしくは失踪したのではないかって考えているみたい。」
「でも最近リュウは俺たちの周りにいる。」
りんごが口を開こうとするとゆすらの携帯が鳴る。
「ごめん。」
「どうぞ」
電話に出るゆすらを見てりんごも携帯を見る。
そこには一通のメールが届いているというテロップが出ていた。
メールの相手は予想ができていた。
『用意できたから取りに来い。』
という内容。
杏からである。
確認して携帯をしまいりんごは視線を再びゆすらに向ける。
「わかったから、またあとでな。」
そういって電話を切った。
「悪かったな。」
「構わないわ。それでリュウなんだけど二十代の男性と女子高生と一緒にいたらしいの。」
その言葉にゆすらは目を見開く。
「蜜柑は偶然リュウと会ったって言ってたよな?」
「カラオケの時にそう聞いたわ。あの子達とリュウの間でなにかありそうね。」
二人は立ち上がる。
「とにかくこのままじゃ身動きがとりにくい。どうにかしないとな。」
「一先ず事件の資料を今から貰ってくるから、また明日。」
りんごは先に教室を出た。
その足で駅まで行き都心に出る。
警視庁に行くことは慣れている。
杏にお弁当を持っていったり着替えを届けたりと杏にこき使われることばかりだ。
だがそれは本来彼の奥さんの仕事。
その奥さんが妊娠中だったということからりんごが変わりに運んでいることが中学までは多かった。
「りんごちゃん、花傘警部のところ?」
顔見知るの婦人警官が声をかけてくる。
「はい。友人の父親が目撃されたという話を聞いて詳しく聞こうと思って」
適当に嘘をつく。
「そう、夏とはいえ日が暮れだしたから早く帰るのよ。」
婦人警官はそういうと行ってしまった。
りんごは慣れた足で杏のいる部屋を目指す。
「こんにちは」
ドアを開けて声をかけると何とも脱力した大人達が居た。
「ああ…りんごちゃん……。警部なら喫煙スペースだよ……。」
とよわよわと言われる。
「ありがとうございます。」
とはいえ見慣れているためりんごの対応は冷たい。
喫煙スペースはこの部屋から近い。
そのため杏は禁煙しても誘惑に負けてしまうことを度々繰り返している。
「禁煙もう折れたの?」
ガラスで仕切られたスペースの壁を叩いてから言うと杏はタバコの火を消して外にでてきた。
「夏期講習終わったのか?」
「今日は教える側だったからね。それより資料は?」
杏が歩き出すのについて行く。
先ほどの部屋に戻り杏の机と思われる紙の束が山住になっているところに杏が座る。
そして空に近い音を立てて机に引きだしを開ける。
「これだ。」
封筒を渡される。
りんごは中身を確認してから
「ありがとう。近いうちに返すから」
そういって部屋を出ようと歩き出すと
「何かわかったか?」
と杏が聞く。
「解ったら教える。」
りんごはドアを閉めた。
翌日。
りんごの部屋ではコピー機がせっせと印刷する音がリビングにも届いていた。
「これ、本当に俺が見ていいのかよ?」
「そのために借りてきて今コピーしているんじゃない。でも誰にも見せちゃだめよ。吾はタイミングよかったわ。」
丁度本を返しに来た吾に昨日杏から受け取った双子の誘拐事件の資料を見せていた。
「そういえば兄さんが貴方のお父さんが町に戻って来たって言っていたわ。それに貴方のところの再婚していたのね。」
吾は驚いた顔を見せつつすぐにもとの顔に戻す。
「蜜柑達の事件の後少しして父さんのやってた店がつぶれたんだ。借金もあった。だから離婚届けだけ残していなくなっちゃったんだ。母さんはなんとなくでそうなること解ってたみたい。捜索してくれていろいろと相談にも、俺の事も気にかけてくれた刑事さんと再婚したんだ。でも、妹が産まれてからはあの家は居にくいところになった。」
りんごにもその気持ちは解る。
両親がそれぞれ愛人と好きに暮らしていることを杏は知っている。
二人がりんごを放置するようになってから何度も杏は一緒に暮らそうと言ってきたが彼はもう結婚していた。
その時にはもう一人目の子供も産まれていた。
そんな家にお邪魔するわけにはいかないと断ったのだ。
杏はすごく心配そうだったが別々に暮らしていることで今は三人目の子供が奥さんのお腹の中に居る。
りんごが居てはそうはならなかっただろう。
「何年もたてばいろいろある物ね。」
そして今日もまたインターホンが鳴った。
「また荷物?」
「この時間に毎日来るのよ。リュウが運んでくる架空の配達会社で蜜柑からの荷物をね。」
りんごはいつも通りリュウが車に乗って帰るのを待ってから小包を開ける。
『みんなにお別れしておいてね。 蜜柑』
と書かれた手紙。
だが今日はそれ以外は入っていなかった。
「どういうことだ?」
吾に聞かれりんごは今まで荷物を吾に見せた。
「あれ?」
りんごは昨日の手紙がないことに気が付く。
「昨日の手紙は?」
「それが見当たらなくて…どこやったっけ?」
昨日のことを思い出すがどこで無くしたのか思い出せないため
「まあ、覚えているからいいけど」
「なんて書いて行ったの?」
吾は手紙を並べながら聞く。
「迎えに来るとかなんとか」
吾は手を止める。
「迎えに来るからみんなにお別れしろって、まるでりんごを殺しに来るみたいな内容じゃないか?」
「まさか…」
蜜柑はそんな子じゃない。
りんごはそう思いたかった。
その時吾は手紙の端に薄っすらアルファベットが書かれているのに気が付く。
書いてあるものと書いていないものがあるがf・G・i・o・s・u・yの七文字。
規則性見当たらない。
続いていたり飛んでいたりもする。
これがなにを現すのか。
それにもしかしたら見当たらない昨日の手紙にも文字があるかもしれない。
「ねえ、これ借りて行っていい?」
「良いけど、何に使うの?」
りんごに聞かれて吾は何て言おうか迷うも
「なんか暗号かもしれないから」
と言ってカバンにしまう。
「それよりそろそろ出ないと間に合わないんじゃない?」
吾に言われりんごは時計を見る。
三時を過ぎたところである。
五分前に出れば間に合うがゆすらが迎えに来ることもあるためそろそろ出るべき時間ではある。
コピーをとった紙をファイルに入れカバンに二部入れる。
家を出て吾とエレベーターに乗るもなぜか二階が押されている。
「俺二階で降りて階段でいくから」
「なんで?」
「下にいるかもしれないじゃん。俺、今からこれ見ながら現場行ってみるよ。」
資料を見せられたのと同時にドアが開き出ていってしまった。
りんごは首を傾げながらドアが閉まるのを見ていた。
ほんの数秒で一階に着く。
そしてエントランスに出ると
「森野」
と呼ばれる。
もちろんそれはゆすらである。
「いつもいなくていいのに」
「一人より二人の方が何かあった時に対応できるだろ? ほら、いくぞ。」
りんごは思う。
この優しさは嬉しい。
でも心の奥で引っかかる物がある。
何故桃子と合うのをやめないのだろうか?
自分が吾と会っていたことを知ると不機嫌な顔をしたくせにと……。
そんなことを考えていると時間というものは簡単に過ぎていく。
「これ、渡しておくわ。桃子の分も」
「会ってること知ってたんだ。」
ばつの悪い顔をするゆすらに
「吾には渡しておいたから」
といって先に教室を出た。
りんごは早歩きで廊下を進む。
下駄箱で靴に履き替え小走りで校門に向かう。
この学校の生徒にはよくあることだ。
授業が押して塾に遅れる、と言いながら学校出る生徒は少なくない。
だが今日は運がいいのか悪いのか、
生徒が一人もいない中校門をくぐる。
だがその瞬間急に誰かに腕を引かれた。
「きゃっ!」
と声を上げるの口を塞がれる。
視界が暗くなる。すると徐々に意識が遠のいて行った。