2-1喧嘩と犯人捜し
喧嘩と犯人捜し
果鈴と蜜柑がいることが当たり前と感じられるようになってきたのは夏休み前の事、だがそれはりんご達に限っての事、そのほかのクラスメイト、教師には二人がいるのがすでに当たり前なのだ。
一学期の間教師の果鈴に生徒として、クラスのホームルーム委員として話す機会の多かったりんごとゆすらだがそれ以上の会話をすることはなかった。
蜜柑ともカラオケで会って以来二人は会うことも会うつもりもなかった。
桃子は蜜柑とも吾とも話すことなく仕事と学校、家を往復するだけ、クラスの友人だった人達ともかかわるのを避けてきていた。
その愚痴を電話やメール、会ってゆすらに聞いてもらうことが唯一の発散となっていた。
吾はと言うと蜜柑とは程よく付き合い自分の時間を優先させていた。
りんごとは本屋で偶然会うぐらいだろう。
そんな四人に一学期の修業式直後にメールが届く。
「森野」
「そっちにも着たみたいね。」
メールの内容は
『この後二人の学校に行くから待っててね。』
とあった。
馬鈴に比べ大角豆は終業式と言えど授業がある。
そしてりんごとゆすらは果鈴から放課後残って採点を手伝うように言われている。
「どっちみちこっちには逃げ場がないわよ。」
「向こうの方が先に終わるからな。」
再びメールの受信を知らされる。
「桃子からだ。」
「私にも吾から来た。蜜柑に無理やり連れてこさせられているみたいね。」
「桃子なんて文面に愚痴しか載ってないぞ。」
そういいながらゆすらは画面をりんごに見せる。
「勝手に見せると彼女怒るわよ。」
「気付かないさ。お前に会いたくないから何とかしろってさ」
肩動かし呆れたようにゆすらはいう。
「私だって会いたくないわよ。桃子にも、蜜柑にも…」
そういうと机から本を取り出し読み始めるりんごをしばらく眺めてから
「そういう本読んでんの先生にばれないようにな。」
といってから席に戻って行った。
午前の授業後に終業式がありそれが終れば配布物が教室で配られる。
担任である果鈴からの注意事項などの話の後にやっと解散になった。
だが、この後も残るりんごとゆすら。
「これの採点お願い。それよりメール来た?」
果鈴に言われりんごとゆすらは目を合わせてから
「来ました。」
と答える。
「蜜柑がまた変なこと言い出してごめんね。」
とは言っているが大角豆の今日の日程を教えたのは果鈴だろう。
そして二人が残ることも
「あの日の事蜜柑がまだ気にしていたから先生も協力したんでしょ? なら謝る必要ないですよ。」
良いように解釈したように話す。
「そういってもらえると助かるよ。」
「でも先生、今日はこれが終ったら俺たち用事があるんで」
ゆすらの言うことに疑問を持ちつつも
「先生もよく知っているでしょ、私たちの親が仲いいこと」
適当に嘘をつくとそれにお互い合わせていく。
「買い物と食事に付き合うことになってるんです。」
そういうと果鈴はにこやかに
「そうだったのか。じゃあ早く終わらせよう。」
そういって採点する作業を進める。
それからしばらくベンと紙がこすれ合う音と窓の外から部活をする生徒の声が聞えるだけになっていたが誰かの携帯が鳴る。
それにすぐ気付いたのは果鈴。
自分のポケットからなっていたからだ。
「学校についたみたい。」
果鈴が立ち上がりながら言った。
ゆすらが時計を確認する。
「何時からだっけ?」
とりんごに聞いてくるためりんごは携帯を取り出し適当に操作してから
「三時ぐらいにはついてないといけないからそろそろ出ないとダメね。」
適当に言う。
「そう、まあ、採点もほとんど終わっているし二人とも帰る支度してな。連れてくるよ。」
といって教室を出ていった果鈴を見送る。
筆箱をカバンにしまえば支度なんて終わる。
「十分後にメールが届くようにセットしておくからそれまでに終わらせて帰りましょう。念のため駅まで私も行くわ。」
「わかった。」
時間指定メールをセットしてポケットに入れると教室に四人が入ってくる。
「久しぶり!」
と元気な様子の蜜柑に比べ桃子と吾は不機嫌な顔をしていた。
「私たちこの後用事があるの、要件は早めに済ませてもらえるかしら」
りんごがそういうと一瞬蜜柑も不機嫌な顔をする。
「二人で出かけるの?」
首を傾げながら聞かれる。
「二人というか、あと母さんたちでね。」
その話に蜜柑よりも桃子が反応する。
ゆすらの母親はともかくりんごの母親は本人も知らないところにいると聞いているからだ。
つまりそれが嘘だと言うことが解る。
「そうなんだ。じゃあね、遠巻きにしないでまっすぐいうよ。桃子とりんごにね、仲直りしてほしいの。あたしの大事な友達が喧嘩したまんまってあたしすごく嫌なんだ。」
そういってりんごと桃子の手を掴み、握手するように前に出す。
「そういうこと……そうね…。あの時は言い過ぎたわ。カッとなって思ってもないことまで口走ってしまって、貴方を傷つけてしまったわ。ごめんなさい。」
りんごが明らかに作り笑いをしていることは女優をしている桃子にはすぐわかるだがこの状況をすぐ終わらせるためには
「あたしも悪かったわ。ごめん。」
そういって手を握る。
だがその目はりんごを睨んでいる。
その二人の様子を冷や冷やしながら見ているゆすらと吾。
「これからはお互い関わり合うことを減らしていくべきのようね。」
「そうみたい。ゆすらや吾ともお互い距離をとりましょう。そうすれば誤解し合うことも無くなるだろうから」
その時丁度ゆすらの携帯が鳴る。
「母さんたちからだ。桃子、吾、おばさん達と偶然会ったから一緒に行かないかって言ってるんだけど」
吾は驚き困った顔をするも
「あたし達も行くって言っといて」
「じゃあもう出ないと間に合わないかも」
そういってりんごはカバンを持つ。
「みんな言っちゃうの?」
寂しそうに声を上げる蜜柑。
「親に呼ばれちゃさすがに行かないと、じゃあな。」
吾が空気を読んで蜜柑に伝える。
四人並んで急ぎ足で駅まで無言で歩く。
「どこ行くつもり?」
桃子が一番に口を開きゆすらに聞く。
「このまま遠回りして森野の家に戻ろう。裏口から入れば学校側から見えないだろ?」
りんごは呆れた顔をしながら
「ならこっち、後少しスーパー寄ってもいいかしら?」
「構わない。」
りんごとゆすらが歩き出すとそれについて行く吾と少し間を開けて歩き出す桃子。
スーパーには人が少なくそこに四人も高校生が入ると目立つ。
「あら、りんごちゃん。お友達と一緒なんて珍しいわね。」
店員のおばさんが話しかけてくる。
この人は管理人の奥さんだ。
「今日終業式だったのでこの後家に行ってみんなでご飯食べようかと思って」
「そうなの。あ、また管理人室に荷物届いてたわよ。クール便。」
「クール便? 後で取りに行きます。」
そういって別れた。
「誰あれ?」
吾に聞かれる。
「管理人さんの奥さん。よく荷物預かってもらうから仲がいいの。でもクール便って何かしら?」
特に頼んだ記憶はない。
「おばさんかおじさんからじゃないの?」
ゆすらに言われ記憶をたどるも何か送ってくるという連絡はもらっていない。
「帰れば解ることでしょ? あたし達蜜柑に引っ張られてきたから何も食べてないのご馳走してくれるなら早く決めていきましょう。」
桃子が惣菜を見ながら言う。
「簡単だからパスタでいい?」
近くにあった大盛りわかめサラダを見つける。
「なんでもいい。」
桃子の答えを聞いてから籠に食材を入れていく。
「なんのパスタ?」
吾に聞かれる。
「冷製パスタ。パスタはあるから材料だけ買って帰りましょう。」
カゴにトマトやキュウリなどの野菜も入れ、鮮魚売り場でタコの足を選ぶ。
りんごの記憶ではみんな好き嫌いはあまりない。
会計を済ませ、スーパーを出る。
周りに双子がいないことを四人は慎重に確認してからバスに乗り込んだ。
逆方向のバスのため双子に会うことはないと考えた。
そうした結果無事にりんごのマンションの裏口までたどり着いた。
「こんにちは管理人さん。」
管理人室の窓を開け声をかける。
「お帰り、お母さんから荷物着ているよ。」
そういうと大きな冷凍庫からりんご宛の荷物を出してくる。
何故かこのマンションの人にはよくクール便の荷物が届く。
そのため管理人室にはそれを補完するための冷蔵庫があるのだ。
「ありがとうございます。」
荷物を受け取り待っている三人の元に戻りりんごの部屋まで移動する。
「何が届いたんだ?」
ゆすらに聞かれ電票を見ると当たり前だが食品と記載されている。そして送り元は北海道。
「珍しく国内から送ってきたみたい。北海道だからチーズとかじゃないかしら」
エレベーターがチンッという音を出して止まったことを知らせる。
門を開け、鍵を出してドアを開ける。
皆を先に入れてからりんごはドアを閉めた。
「適当に座っててすぐできるから」
キッチンの横に荷物を置くとエプロンをしながらりんごがいう。
「コーヒーもらう。」
ゆすらもキッチンに入る。
「冷えているのが冷蔵庫にあるわ。」
流し台の下から鍋を出しながら答える。
「随分とこの家の勝手を知っているみたいだけどそんなによく来てるの?」
桃子がキッチンの二人を観ないで聞く。
「課題やテストを作るのにここを使わしてもらってんだ。」
グラスに注がれたコーヒーを持ってゆすらが二人のもとに戻る。
「テストを作るのか?」
吾がゆすらに聞く。
「俺も森野も成績優秀生徒ってことで一学年分の課題を作らされたり成績低迷者用の挽回テストを作ったりするのに使われるんだよ。特に果鈴にな。」
「良いように使われてるのね。」
桃子が言うとそれに吾が
「お前だって仕事や家のことがなかったら似たようなもんだっただろうが」
「それはあんたでしょ? 自分に都合のいい時ばっかり蜜柑にしっぽ振ってる。そんなに好きならあの時できなかった告白すればいいじゃない。」
桃子は若干自棄になったように言った。
「それはお前も一緒だろ」
ゆすらに言われ桃子は黙ってしまう。
キッチンからテンポよく包丁がまな板に当たる音が会話の消えたリビングに届く。
それから十数分。
りんごがただアイスコーヒーを無言で飲んでいる三人のもとに料理を運ぶ。
「空気の悪い食事ね。」
机に料理を置いて一人いただきます。
と言って食べ始めれば皆もそれに続く。
それでも無言なのは変わらずフォークが皿に当たる音だけが自棄に大きく聞こえた。
吾は考え事をしながらもくもくと口に物を運んでいた。
適当に噛んで飲み込む、喉につっかえるようだったら水で流し込んでいた。
皆が半分ほど食べたことにはほぼ完食してしまった。
消化に悪いだろうがそんなこと気にしている余裕もない。
「あのさ…」
静かな空間に吾は話出したためりんご達の手は一時的に止まるも食べながら話を聞く。
「あいつらがいきなり現れてからずっと思ってたんだけど俺等に何かしてほしいからそれぞれに別れて接触してきたんじゃないのかな?」
と深刻そうな顔で言うも
「そんなこと俺たちも考えた。だがそのしてほしいこととか未練だとかそういうことが特に思い当たらないだろ?」
ゆすらに言われて黙る。
「思い当たることならあるじゃない。あの日、なぜ蜜柑が遊び場に現れたのか、果鈴がみんなを集めて何を話そうとしたのか、誰が双子を殺したのか。そのほかにもいくつかあるけど大きなことはそのぐらいでしょ?」
そういうとりんごは水を飲んだ。
「そもそも二人が現実的に目の前にいること自体おかしいのよ。しかも記憶まで書き換えられたように蜜柑に都合のいいようになっている。何かしてほしいって言うよりあの子達は私たちに復讐でもしたいんじゃないの?」
りんごは桃子にちらっと見られたため続けた。
「……そうかもな。果鈴はともかく蜜柑はそんな感じする。」
ゆすらが食べながらいう。
「じゃあ、やっぱり犯人捜しかな?」
吾が聞くと桃子が溜息を吐く。
「何でそうなるのよ? 別に復讐も犯人を捜してほしいのかとかも決まってないじゃない。」
「確かにそうよ。私達が何か行動を起こすのであればもう少し慎重に行った方がいいわ。二人の機嫌を損ねるようなことは極力避けないと」
りんごがそういうとインターホンが鳴る。
「何かしら?」
りんごは受話器を取り耳に当てる。
すぐに返事をすると受話器を戻す。
「郵便?」
いつもの事のためゆすらが確かめるように聞く。
「知らない配達会社だったけどそうなんじゃない。」
「郵便多いのか?」
吾が聞く。
「私が本を頼んで、母さんが旅行先から、父さんが転勤先からいろいろ送ってくるのよ。」
そういっていると玄関のインターホンが鳴る。
「はあい。」
りんごが玄関を開けるとそこには
「おっ、やっぱりりんごちゃんの家だったんだ。」
リュウがいた。
「リュウ、貴方この前カラオケでバイトしてなかった?」
電票にサインしながらいう。
「今は配達会社でバイト中。今日はこれで終わりだけどね。」
電票を受け取ったリュウはすぐに帰って行った。
りんごは荷物を持ってリビングに戻る。
「また本?」
と聞かれるも今日は配送の予定はない。
返事をしないで電票を見る。
「なんだろう? 書類って書いてある。」
カウンターに適当に置いて座っていたところに戻りフォークを持つ。
「夏休み中二人と合うことは控えましょう。私達夏期講習で数学だけは受けないようにしたし、そっちも蜜柑には気を付けてね。」
「言われなくても」
桃子が完食する。
「あのさ、本借りてもいい?」
吾が少しそわそわしたように聞く。
以前雪崩がいつ起きてもおかしくないぐらい本が山住だという話をしていたことがあった。
「良いわよ。ほとんど読んだものだから好きなだけ借りていきなさい。返すのはいつでもいいから」
そういうと吾は本のある部屋に消えていく。
「昔っから本を手放さなかったわよね。」
桃子がいう。
「貴方達といる以外は暇だったのよ。学校も家も…」
ゆすらが食べ終わったのを見て食器を持ってりんごはキッチンに向かう。
戻ってきたところで
「そういえばさっきの配達、リュウが届けに来たのよね。バイト変えたのかしら?」
「リュウが?」
ゆすらが聞き返す。
「どうかしたの?」
りんごが聞く。
「最近塾の前の工事現場でも見かける。いくつも掛け持ちしているのか?」
「それならあたしも見たわよ。テレビ局に清掃員として出入りしてるみたい。」
三人は黙る。
何故そんなにリュウが自分達の近くにいるのだろうか。
監視してされているとまでは言えないが可笑しな話である。
「どうした?」
吾が数冊の本を持って戻ってくる。
「吾最近リュウ見た?」
りんごが聞く。
「リュウ? あ、見たよ。本屋で店員していた。」
それを聞くとりんごとも接点になることが出てくる。
「それって大角豆の駅の本屋?」
「え? そうだよ。りんご会ったことない?」
今のところりんごは会う機会はなかった。
もともとネットで本は購入することが多い。
「リュウにも注意が必要かもしれないわね。」
吾は何の話か解らず話を戻して説明する。