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甘くない果実  作者: くるねこ
2/16

1-2再会に呼ばれて別れる

 再びの春が来る。

だがそれは春にはまだ早い夏の夜に来る寒気をもたらすものがあった。


 二、三年生しかいない始業式。

明日入学式があり一年生が入ってくる。


「今年から新任の立花果鈴先生が数学に入られます。去年一年A組を担当されていた先生の移動のため来られました。そのまま引き継ぎで二年A組を担当してもらいます。ホームルーム委員は後で先生を迎えに行くように」


りんごの顔が血の気が引いたように白くなる。


それはゆすらも同じこと、立花果鈴、彼が生きているはずがない。


それどころか自分たちより年上になるわけがない。


二人は考えるも答えが出るわけがない。


 結局始業式後に二人で職員室の前で立ち止まっていた。


「同性同名だ。きっと……」

「でもあそこまでそっくりな分けないでしょ!」


気が動転しているのかりんごが珍しく大きな声を出す。


「りんごもゆすらも何してんだ。俺を迎えに来たんだろ?」


まるで双子の父親にも似たその声に二人の肩が跳ねる。


「久しぶりだな。元気だったか?」


そういいながら肩に手を置かれる。


「蜜柑が事故ってから俺は親戚の家で暮らすようになったから七年ぶりになるんだな。」


いったい何の話をしているのだろうか? 


りんごもゆすらも理解できないまま放心状態だったがそれも局員室のドアが開いて現実に戻される。


「立花先生、二人の事を知っているんですか?」


「妹の同級生なんです。なので小さい時のこの子達とはよく遊んでいたんですよ。」


と平然と言われる。


「そうだったんですか。ほら二人とも時間が迫っている。早く教室に立花先生を案内しろ。」


「はい……」


小さく返事をして歩き出すゆすら、それについて行くりんご。

その後ろを歩く果鈴。


 「どうなってんだ?」

「私に聞かないで、」


小声で話しながら溜息を吐く。


「しばらく様子を見たほうがよさそうね。」

「そうだな。」


それをにやけながら見ている果鈴。






 同じころ桃子と吾の通う馬鈴高校に転校生が来ていた。


「事故の後遺症からリハビリでやっと日常生活に戻ることができたばかりだ。みんな手を貸してあげるように、」


担任のその言葉に驚く桃子と吾。


「立花蜜柑です。よろしくお願いします。」


といって笑顔をむける彼女。


「立花の席は桜井の隣りな。」


担任にそういわれ蜜柑はルンルンで席に着き


「桃子と隣りなんてラッキー! 後ろ向いたら吾もいるし、良かった。」


そういわれたところで返す言葉が出ない。


何故蜜柑が生きているのか。


事故とはなんなのか。


二人には解らないことがたくさんあった。


「始業式は各自で移動しろ。遅れるなよ。」


担任がそういって教室を出るそぶりを見せるとクラスメイトが蜜柑の席の近くまで行く。


「もう、学校来るなら教えてよ。」


「びっくりさせようと思って、入院中お見舞いとかノートの写しありがとうね。」

「体もう平気なの?」

「うん。激しい運動にはついて行けないけど日常生活程度なら問題ないよ。」


そんな話をしている蜜柑を凝視していた桃子だが急に吾に手を引かれる。


 そして廊下へ出され歩きながら


「どうなってんだよ?」

「あたしだってわかんないわよ!」


立ち止まり掴まれている腕から手を振りほどく。


「暴れるとかつらが脱げるぞ」


桃子はそういわれ黒いロングのかつらを掴む。


「そんなことより何でいるのよ? あの子は……」


「死んだはず…… 生きていたとして果鈴はどうした? それより事故ってなんだ? 入院中にクラスのやつらは見舞いに行ったって言ってよな、でもあいつらって高校入ってから知ったやつらだろ?」


吾は混乱しながら思っていることをどんどん口に出していく。


「落ち着きなさいよ! あの様子だとあたしたちだけがあの子は死んだと思っていたってことよね? でもあの子達は事故じゃなくて誘拐されて殺された… 記憶していることと現実が違う。」


二人は睨みあうように向き合ったまましばらく沈黙が流れると


 「二人ともこんなところにいたんだ。早くしないと始業式始まるよ。」


蜜柑が現れてしまった。


「あ、うん。今から行くところ…」


桃子は蜜柑の元まで小走りで行き階段を下りていく。


 桃子は吾に会う前から蜜柑を中心に動いていた。


それは友人としてというより使用人、


パシリのようだった。


蜜柑の命令に桃子がそむいたところなんて吾は見たことがなかった。


それはりんごも似たようなもので双子のために動くことを生きがいのようにしていた。


 始業式後、配布物があっただけですぐに解散となった。


「ねえ」


蜜柑が振り返り声をかけてきた。


「三人でどっか行かない?」


そう提案されるも


「桜井とは喧嘩中なんだ。二人で行って来いよ。」


吾は立ち上がり一番に教室を出た。


「喧嘩しちゃったの?」

「う、うん。さっきね。ごめん蜜柑、あたしも用事あるんだ。」


桃子も立ち上がり教室を出ていった。


「なにそれ」


二人には届かないものの蜜柑は不機嫌な声を漏らす。


「あんな二人なんてほっといてあたしたちと出かけようよ!」


蜜柑が暇になることは許されない。






 りんごとゆすらは果鈴と三人教室に残っていた。

今日行われた数学のクラス分けテストの採点をしていたのだ。


「二人に手伝ってもらって助かったよ。」

「私たちが用意したテストですからこのぐらいすぐ終わります。」


りんごがいつも通り視線を上げることなく手を動かしながらいう。


「他人行儀だな。昔みたいに話してくれていいんだよ。」

「教師としてそれはどうかと思いますよ。」


ゆすらも言うとにこやかに


「ゆすらは相変わらずだな。」


と言ったっきり話さなくなった。


 採点が終わり解散することになった。

外はほんのり茜色である。


「ありがとう。二人とも気を付けて帰るんだよ。」


果鈴が消えるのを待ちゆすらが口を開く。


「辻褄が合わない。」

「もし合っていたとして彼の年齢がおかしすぎるわ。」


校内では誰に聞かれるか解らないため校門を出てから話が再開される。


「じゃあ根本的なところから、双子の誘拐事件があったのかどうか」


携帯をだして検索をかける。『馬鈴双子誘拐殺人事件』検索にかかったのは一件。


「事件はちゃんとあったみたい。当時の記事も乗ってる。」


りんごが携帯をゆすらに見せながらいう。




 七年前の夏、友人と遊んだ帰りに誘拐された双子の立花果鈴と蜜柑。


事件は何の要求も無く数日後、近所の住民により双子の自宅からそう離れていない林の中で絞殺体として発見。


さらわれてすぐに殺害されたと思われる。


首の手形以外外傷はほとんどなく暴行目的の誘拐ではないと推測された。


事件は伸展をみせていない。




 二人は駅まで来ていた。


「本屋か?」

「うん。予約してたのが届いたって聞いたから、果鈴のことはもう少し情報が必要ね。」

「そうだな。あいつには気を付けろよ。」


そういってゆすらは駅へ、りんごは本屋の方向に歩き出す。


 駅前の大きな本屋。

りんごは自動ドアを抜け一番に目に入ったのは


「吾?」


立ち読みをしている吾であった。


「え……りんごか?」


驚いた顔をしながら確認される。


「久しぶり、でもなんで本屋? 本なんて嫌いだったんじゃないの?」


そう昔の吾は活発な男の子であった。

本なんて嫌いで宿題の読書感想文を写して怒られながらへらへらしているような子供であった。


「今は毎日読んでるよ。その方が落ち着く、自分だけの世界にいるみたいで、そっちは相変わらずみたいだけどな。」


その時吾の持っている本が目に入った。


「『幽霊の実体化』そんなものにも興味あるの?」


吾は本を閉じてりんごを見ながら


「聞いてほしい話があるんだ……」


そういって歩き出すためりんごはそれについて行き本屋の奥にある読書スペースに入る。


 「話って?」


りんごも話したいことがあった。


「幽霊っているのかな?」


吾は机に肘を付きながらりんごを見ることなく聞く。


「いないとは断言できないけどいるとも言い難いところね。」


りんごはカバンを机に置く。


「蜜柑は七年前に死んだんだよな? 事故とかで入院してたんじゃなくって」


その話にりんごは吾を見た。


「私の学校に果鈴が現れた。でも私たちより年上の教師として、蜜柑も?」

「いや…! あいつは生徒だ。事故に合ってしばらく入院してて、ついこの前退院したって、なぜかクラスのやつらが蜜柑を知ってた。」

「こっちは教師だからそういうことはなかったけど果鈴が言うには私達は妹の同級生で小さい時によく面倒を見ていたみたいなことを言ってたわ。立ち位置的には年齢はずれているけど兄さんみたいなものね。」


りんごの兄はよくみんなの面倒を見てくれていた。

当時の恋人であり今の奥さんである彼女もそうだった。


「俺、ついにおかしくなったのかと思った……」


机に項垂れるように倒れ込む吾。

りんごがノートに何かを書いて破る。


「これ、何かあったら連絡頂戴。」


そういって立ちあがり本屋を出ていった。






 その頃ゆすらはメールで桃子と待ち合わせをしていた。


『いつものカフェにいる』


すぐにそう返ってきた。


 駅に着きカフェに急ぎ足で入ると


「こっち!」


と声をかけられる。

そこには変装したままの桃子がいた。

席に着くや否や


「そっちにも出たんだ。」

「ってことはそっちには蜜柑が来たのか?」

「意味わかんないことばっかりだよ…」


桃子はゆすらに吾がりんごにしたように説明する。

ゆすらもまた今日の事を桃子に伝えた。


 「しかも見てよ。」


桃子が携帯の画面をゆすらに見せる。


「あたし登録した覚えないのに蜜柑と果鈴の番号入ってるんだよね。」


そこでゆすらも確認する。


「俺のにも入ってる。どうなってんだ?」


二人は頭を抱える。


 その時桃子の携帯が鳴った。

ディスプレイには同じ高校の友人。


「ちょっとごめん。」


そういって電話に出る。


「なに? あたし今取り込み中なんだけど」


彼氏? と友人に言われ


「違う。でも大事な話してるからかけ直して」


というと、じゃあメール入れとくから明日開けといてね。

と言って切られた。


 その携帯を睨んでいるとメールが届いたことを知らせる音。


「嘘!」


桃子はメールを見るなり声を上げる。

そのため店内の視線が一瞬集まる。


「どうした?」


ゆすらが気になり聞くと


「明日蜜柑の退院祝いするって、それに呼ばれた…」


桃子は項垂れるように机に額をくっ付ける。


「それ、俺も行っていいか?」


ゆすらの思いもよらない発言に桃子は驚いて起き上がる。


「別にいいけどなんで?」

「会ってみたいだけだ。七年たった蜜柑に」


そういて窓の外に視線をむける。






 退院祝いの連絡は吾にも届いていた。

そこで先ほどもらった電話番号に掛ける。


「はい」

「あ、吾です。」

「もう何かあったの?」


電話の向こうでは何かを炒めるような音がしていた。


「悪い、料理中か?」

「片手でできるから構わないわよ。で、何があったの?」


吾は一息ついてから


「明日蜜柑の退院祝いをするらしい。」

「そう。それで?」


あっさり返され吾は


「それで? って、それだけだよ。お前も行くか?」

「それは遠巻きに来てほしいってこと? 桃子と喧嘩でもしているの?」

「何でわかったんだよ⁈」


電話の向こうで溜息が聞える。


「逆に聞きたいわ。吾はなんで桃子と喧嘩すると私を仲介人に選ぶわけ?」

「そうだっけ?」


無意識だったのだろう。

吾にとってタイプの違う蜜柑と桃子とりんごの三人のうち何かあった時には自然とりんごに頼れば何でも解決してくれると心で思い込んでいたのだろう。


「まあ、桃子相手で蜜柑は選べない。ゆすらを頼るのは当時のあなたのプライドが許さない。リュウをあなたは見下していた。」

「見下してなんか……!」

「いたでしょ? リュウは自分がいなくちゃ何もできない子だって思ってたでしょ?」


吾は黙る。


「待て、俺は桃子と同じ学校なんて一言も言ってないぞ?」


大事なことを聞き逃していたことに気付く。


「ゆすらから聞いた。明日の時間メールで頂戴。そろそろお肉が焦げる。」

「ああ、わかった。またな。」


そういって電話を切る。


 「ゆすらと桃子が……」


吾はベッドに横になり本を取り出した。






 翌日学校でりんごが本を読んでいるとそこにゆすらが近づいてくる。


「話がある。」

「昨日吾に本屋で会ったの。」


皆まで言わなくてもゆすらにはりんごが言いたいことが解った。


「じゃあ、今日の事も聞いているんだな。」

「ええ、吾に一緒に来てほしいって言われたから行くつもりよ。貴方は?」

「俺も行く。桃子に頼んでいくことにした。」


それだけ話席に戻った。


 そして早くも放課後が来る。


「俺は桃子と行くけどどうするんだ?」

「吾と待ち合わせてる。私が引っ越してからできたカラオケなんですって」


先に教室を出るりんご。

少し時間を空けてゆすらも教室を出た。


 二組は待ち合わせ場所で合流する。

そして駅近くのカラオケに先に入ったのはもちろんりんごと吾。


「りんご! なんで? 来てくれたの?」


興奮気味に蜜柑はりんごに近づき抱きついた。

だが、その感覚はりんごにはあまりに曖昧なものであった。


「久しぶりね。果鈴とは学校では会うんだけどね。」

「そっか、果鈴の学校に通ってんたんだ。毎日忙しいみたいでそういう話全然してくれないんだよね。でも今日はあたしのために来てくれるんだよ。」


と楽しそうに話す蜜柑に


「そう、良かったわね。」


りんごはあしらい近くの開いた席に座る。


 隣りに座った吾は


「どう思う?」

「当時のあの子をそのまま大きくした感じね。今思えばこういう性格だったのね。」


話をしているとドアがノックされる。


「ドリンクお持ちしました。」


店員は入ってくるもその人物は


「あれ? 吾君にりんごちゃん?」


石田(いしだ)リュウ。


彼も双子が誘拐されたその日に会っていた友人の一人。

事件後は父親と姿を消してしまったため所在は今まで不明であった。


「昨日偶然会ったからここのカラオケでやることにしたんだ。」


と蜜柑が言った。


「なんだ。呼んだメンバーに二人も居たんだ。じゃあ、桃子ちゃんとゆすら君も?」


蜜柑はニコニコする。


「ええ、もうすぐ来るわ。」


それを見てりんごが答える。


「バイト早く終わるといいね。」


ニコニコとしながら蜜柑は言った。

リュウの後ろで動く影


「嘘? なんでリュウがいるの?」


桃子が驚きに声を上げる。


「おお! 久しぶりだな。ゆすら君も」

「そうだな」


二人が中に入る。

視線はすぐに蜜柑ではなくりんごに向く。


「りんご?」

「久しぶり。吾に頼まれ来たんだけどまた喧嘩したの?」


桃子はりんごのその言葉が気に障ったのか


「あんたには関係ないでしょ? 変わらないのね。そんなに果鈴に良い子に思われたかったの?」


それにりんごも


「果鈴? 今ここに居ない人が関係あるの? いつまでたっても言いなりのおバカさんなのね。」

「はあ? 何言ってんの言いなりだったのはあんたも同じじゃない。」

「私は嫌なことは嫌って言ったわ。あなたは蜜柑のためなら自分がやった事じゃなくてもあのこのために嘘をつくような召使。私とは違うわ。」


桃子が持っていたカバンを床に叩きつける。


「なんであんたはいっつもそうやって自分が正しいって言いきっていい子ちゃんぶるのよ! そうやって吾に頼られることがそんなに誇らしいわけ? 蜜柑や果鈴に大事に思われていることがそんなにすごいわけ?」


桃子はカラオケの個室から走って出ていってしまった。


「どうしよう…」


蜜柑が心配気に声を漏らす。


「蜜柑に大事にされているあの子をひがんでいるのよ。蜜柑がそんな顔しないで」


馬鈴の生徒がそういって不安気な蜜柑を慰める。


「そうだよ。蜜柑は何も悪くないよ。桃子も年頃だってこと」


ゆすらは蜜柑にいう。

それをりんごは見ていた。


 そこに果鈴が入ってくる。


「ごめん遅れて… ってこの空気は?」


不安に目を潤ませる蜜柑にそれをなだめるゆすら、黙る吾に不機嫌なりんご。


 しばらくしても桃子が返ってくることはなく。

彼女抜きでカラオケを楽しむ友人たちをりんごはただ見ていた。


 リュウはバイトが終わらないのか何度かドリンクや食べ物を運んでくるも毎回


「なんか次の人来てくれなくてさ。」


や、


「もうちょっと待ってて!」


とか言っていたが結局退室時間となり果鈴のおごりで解散となった。

会計をするときにはリュウの姿はなかった。


「桃子のカバンは俺が届けるよ。」


ゆすらがそういうため皆も任せてしまう。


 りんごは一人電車に乗りに行こうとすると


「送るよ。こんな時間に一人で歩かせられない。」

「ご心配なく。家は学校の目の前ですから」

「俺が送りたいんだ。」


果鈴に無理やり送ってもらうことになってしまった。

その後ろ姿をゆすらと吾は見ていた。








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