6-2願っている間は終わらない
今日がゆすらの誕生日と言うことは以外にも知れわたっているようで放課後にはカバンの口が閉められないほどのプレゼントをもらっていた。
「家寄って紙袋上げようか? 今日はこのまま塾なんでしょ?」
「なんだったら一晩預かってくれないか、塾に持って行くのが何となく嫌だ。」
「自慢みたいだものね。バレンタインでもないのに山盛りのプレゼントって」
下駄箱にまで手紙やプレゼントは溢れている。
それを見ずにカバンの上に乗せ靴に履き替え歩きだすと
「あの!」
女子生徒が声をかけてくる。
見覚えがないことから先輩だろうと推測される。
「ちょっとお話良いですか?」
後輩にも敬語を使うあたりはこの学校に多い金持ちの家の娘なのだろうか。
「荷物持って先行ってるわ。」
りんごはゆすらの手からカバンを取り歩きだす。
ゆすらはそんなりんごに溜息を漏らしつつ
「で、何の用ですか?」
解っていながら聞く。
「今の生徒は彼女ですか?」
と女子生徒は慎重に聞いてきた。
「まだ違う。でもいつかはそうするつもりです。そういう話なら悪いけどお断りさせてもらいます。」
ゆすらはりんごを追って歩き出そうとすると
「あ、これだけでも!」
と女子生徒は持っていた紙袋を渡して小走りに校舎に入って行った。
それを見送ってから今度はゆすらが走ってりんごを追いかける。
りんごは一人の時に癖なのか早歩きで行ってしまう。
そのためゆすらは走って追いかけるのだ。
りんごの家まであと数メートル。
そんなところでゆすらは追いついた。
「予想より進んでたな。」
「気のせいよ。」
りんごはゆすらの手にプレゼントがあることに気が付く。
「オーケーしたの?」
そういう話からプレゼントを受け取ったのならいい返事をしたのではないか、そう思って聞くも
「いや、断ったよ。そしたら押し付けられた。」
りんごの考えを呼んだかのようにゆすらは答えるのでりんごは無視して歩き出す。
マンションに入り自分の部屋まですたすたとゆすらを置いて行きかねない足取りで進むも最終的に家のドアは開けて待っている。
「紙袋はこれでいいかしら?」
大き目の物を寝室から持ってくる。
「ああ、大丈夫そうだ。」
「食べ物とかない?」
カバンから移しながらラベルを見る。
市販の焼き菓子ならまだしもチョコレートや手作りの物は冷蔵庫や今日中に食べたほうがいい。
「バレンタインじゃないんだからそこまで…あった。」
複数の人間に囲まれるように受け取っていたゆすらはまじまじともらった物を確認する時間はなかった。
「チョコは袋に入れないで、これ、手作りっぽいから持って帰って」
カバンからやっと色鮮やかな箱や袋がなくなったところでいくつかカバンに戻される。
「それじゃあ明日の放課後にここ寄ってから行くから」
「解ってる。それよりもうすぐ行かないと急行に乗れないわよ。」
急行で一駅と言っても、その間には八駅ほどある。
準急も各駅もこの八つすべてに停まってしまう。
塾は馬鈴駅の近くのため塾が遅かったりなかったりするときは急行でなくてもいいが明日塾を休むゆすらは早い時間から二日分の講習を受けるのだ。
「よろしく。」
そう言って帰って行った。
りんごはドアが閉まるのを見送り紙袋に入れていない包みを持ってキッチンへ、紙袋は玄関に置きっぱなしである。
冷蔵庫にチョコレートを入れて自分はコーヒーのスイッチを入れて着替えに行く。
「よくゆすらがチョコレート好きだって知ってたわよね。」
とりんごは思うも理由はりんごの行動にある。
教室でなにかとよくお菓子を持ってきていたりんごにチョコレート菓子の時に必ずゆすらがもらいに行くか、りんごが上げに行くかしているのをクラスの女子はよく見ていた。
そんなことをしているという話は女子同士の会話から広がっていきこうしてプレゼントとなっているのだ。
そのほかりんごとゆすらの会話に聞き耳を立てている生徒は多く。
ゆすらの欲しい物のリサーチはよくされているのだ。
ゆすらが男子と話した内容もりんごの話と引き換えに入手している生徒も多い。
桃子は吾とケーキ屋に着ていた。
「あの二人の誕生日ケーキっていつもチョコだったわよね。」
「二人とも好きだからな。あとチーズケーキとか」
「洋菓子も好きだしね。」
とガラスケースを覗きながら話をしていると
「あの、女優の桜井桃子さんですよね?」
笑顔で店員が聞いてくる。
「はい。そうですよ。」
桃子が営業スマイルを振りまくと店員はさらに笑顔が増す。
「あたし大ファンなんです! サービスしますよ。」
と店員はいうもののどう見ても桃子たちと同い年ぐらいのアルバイトに見える。
「良いんですか? 勝手にそんなことしちゃって」
「平気です。ここあたしの家なんで」
と興奮気味に言う。
「ありがとうございます。実は明日友達の誕生会するんですけど今からでも間に合うか心配だったんですよね。」
ここに来る道中ケーキの注文するのが遅いのではないかと吾と話していたところであった。
最悪普通のケーキにローソクや名前などのを買って自分たちで書こうとまで話していたぐらいだ。
「大丈夫ですよ。ケーキ自体は受け取り日の朝から順備して予定時間頃に良い状態でお渡しできるように調節しているので」
「ならよかった。このチョコレートケーキに誕生日おめでとうって入れてもらって、こっちの生チョコケーキとチーズケーキを一緒に受け取りに来ます。」
桃子が註文するのをきいて
「そんなに食えないだろ。」
と吾がいう。
「でも杏さんの奥さんとか子供とかあとりんごと仲良くしている警察の人も顔を出すって杏さん言ってたからこれぐらい有っても平気じゃない。二人ならペロッと行っちゃいそうだし」
桃子は予約表を書きながらいう。
「確かに…」
吾も考えてみればりんごもゆすらもコーヒー片手にケーキ三つなんて余裕で平らげるようなタイプの人間だと言うことを思い出す。
「ほかにご注文は?」
店員に聞かれ桃子は店内を見渡す。
「シュークリームとプリンを五つずつとマドレーヌの二四個入りを一つ。」
また大量に註文する。
「かしこまりました。サービスでパイスティックお着けしますね。」
と店員はメモに書いて行く。
「ありがとうございます。明日のこの時間に取りに来ます。」
「かしこまりました。お誕生日の方のお名前をお願いします。」
「りんごとゆすらです。二人とも平仮名で」
桃子が吾抜きで話を進めるため吾は別の店員に
「シュークリームとアップルパイお願いします。」
と注文する。
「妹ちゃんに?」
桃子は横を向いて聞く。
「妹と母さんに」
保冷剤の数を聞かれ一時間持てばいいと答え受け取る。
桃子も予約が済んだため二人で店を出た。
「蜜柑と三人なら持てるわよね?」
「そういうこと考えて頼めよな。無理だったらどうせ駅で二人とも合流するんだから持ってもらえばいいだろ。」
「それもそうね。」
誕生日の人間に持たせては悪いという考えはない。
桃子と吾はその足で桃子の家ではなく吾の家に向かった。
何せケーキがあるためだ。
「ただいま」
「お邪魔します。」
二人の声を聴き軽い足音とスリッパの音が聞こえる。
吾の家は再婚に伴い町内でだが引っ越していた。
「お帰りお兄ちゃん! …だあれ?」
と万里が首を傾げながら言う。
「楓ちゃんのお姉ちゃんの桃子ちゃんよ。」
とスリッパの足音を立てていた吾の母親が出てきた。
「こんにちは万里ちゃん。おばさんもお久しぶりです。」
「そうね。すっかり有名になっちゃって、この前は大変だったわね。」
吾の父親や吾本人から誘拐事件のことを聞いたのだろう。
それに女優の桜井桃子がさらわれた。
死体を発見した。
と連日ニュースで流れたぐらいだ。
知らない人の方が少ない。
「これ、帰りにケーキ屋寄ったついでにお土産」
吾がそういいながら万里にケーキの箱を渡す。
「ななめにしちゃだめよ!」
と万里を見ながら吾の母親は心配気に言うも
「ある程度は問題ないよ。シュークリームとアップルパイだから、母さん好きでしょ」
靴を脱ぎあがる。
「二人で行ったの? デート帰り?」
とにやにやしながら聞かれ
「違う! 明日のケーキの予約、変なこと言わないでよな。」
そういいながら吾は階段を上がっていくためそれに桃子がついて行く。
「お茶とお菓子取りに来なさい。」
「わかった」
と返事をし、階段を上がってすぐの部屋に入る。
「おお、本ばっかりね。」
りんごの家ほどではないが四角い部屋の二面の壁は本がびっしり並んでいる。
「ねえねえ、エロ本とか下手にベッドの下とか布団の隙間に隠してるの?」
桃子は興味本位で覗くもそこにはダンボールいっぱいに文庫が入っていた。
「つまらない。」
重たい箱を引き出してはすぐに元の位置に戻した。
「クラスの男子と同じ行動取るなよ。」
そういいながら吾は部屋を出て階段を下りて行った。
桃子は取り残された部屋で辺りを見渡す。
小さいころは店舗兼自宅である平屋で自分の部屋など持っていなかった吾。
そんな彼の念願の一人部屋は本だらけの圧迫感のある空間であった。
「あれ?」
桃子はふと机の下の本棚に目を向ける。
そこには桃子がよく買う雑誌が並んでいた。
「何で吾の部屋に女性ファッション誌?」
しかもよく見ればその奥にはさらに何かのファイルがある。
「なにこれ?」
そう思って身を乗り出し手を伸ばすと
「何やってんだよ!」
と背後から声がする。
桃子はその声に驚き
「痛っ!」
机に裏に頭を打った。
その頭をさすりながら一旦出ると吾はそそくさと机に椅子を閉まってその前に座る。
「何隠してるのよ?」
「お前には関係ないだろ。」
一切視線を合わせよとしない吾を穴が開くのではないかと言うぐらいジッと見る桃子。
「関係あるわよ。その雑誌あたしが出てるやつじゃない。吾って本ヲタクのほかにアイドルヲタクだったの?」
と引き気味に桃子が聞くと
「違う! なんでそうなるんだよ。これは母さんが集めてるもので置くところがないのと時間がないからって俺の部屋に置かれてるだけ、別に好きで桃子のページをファイルしてるわけじゃ……」
そこまで言って吾は青い顔をする。
「あたしのページ? そういえばおばさん昔からよくやってたわね。」
桃子の視界にふとDVDのケースが入る。
おそらく先ほど机の裏に頭を打った衝撃でどこかからか出てきた物だろう。
「これは?」
と手に取ると
「わーー!」
とあわてる声を無視して桃子はケースを取る。
「限定版…」
それは桃子の写真集の限定版の中でも抽選で百名にしか受け取れないプレミア物。
「何で持ってるの?」
そもそも限定版ですら一千部しか用意されておらず予約数がオーバーしてしまった。
その中から本に挟んであるはがきを応募することで十分の一の確率で手に入れられる物。
それがここにあることに驚く。
「別にいいだろ! 予約するの恥ずかしかったんだからな!」
と逆キレする吾を見る。
そして溜息をつきながら
「まあ、持っててくれるのは嬉しいけど恥ずかしいからあんまり見ないでよね。」
そういいながらジュースに口をつける。
「怒らないのかよ?」
「別に、どっちかっていうと少しうれしいかも」
桃子は携帯をいじり出す。
吾はよく意味がわからないと言う顔をするもそれが桃子に伝わることはない。
自分のことになると鈍感なのだ。
みんな。
翌日。
りんごは登校するや否やゆすらの机の上の荷物に笑うしかなかった。
「昨日上げられなかった女子生徒が置いて行ったみたい。最近二人とも早く帰るでしょ。」
と苺が言ってきた。
「おはよう。だからってアレはひどくないかしら?」
机の上には昨日見たカラフルなラッピングの箱とは比べものにならないぐらい派手なものがいくつか載っている。
もちろんシンプルな包みもある。
「先生もこっそり便乗して朝早くに置いて行ったの見たって野球部のマネージャーが言ってた。」
「そういう苺も上げたの?」
りんごに聞かれきょとんと言う顔をする。
「何言ってるの? あたしは二人を見守り隊のメンバーよ。」
何だそれは?
と聞きたいところではあるが風の噂でそんなものがあると聞いたことがある。
もちろんゆすらもそのことを知っているようで依然、
「女子は本当か嘘か解らないような噂するのが好きだよな。それに比べてりんごも桃子のそういうのになびかないから楽だよ。」
と言っていた。
「明日はりんごの誕生日よね。何か欲しい物ある?」
「ここ最近そう聞かれること多いんだけどこれといってほしいものってないのよね。」
「ならお菓子買ってきてあげる。チョコが好きなんでしょ?」
「本当、よくみんな知っているわよね。」
そんな話をしているとゆすらが登校するなり机を見てカバンを落とした。
「紙袋ならあるわよ。」
とりんごが声をかけると片手をあげてカバンを拾った。
ゆすらは席に近づき椅子に一先ずカバンを置いた。
そして男子生徒と少し話をしてから
「用意周到だな。」
とりんごの席へ行く。
「予想よりも多いけどね。」
カバンから畳まれた紙袋を取り出し渡す。
「明日も用意しておくべきだろうな。」
「自意識過剰よ。」
「俺のじゃなくてお前のだよ。」
袋を広げながらそう言って席に戻って行った。
そこから放課後まで昨日渡しそびれた女子生徒が数人休み時間に出入りしていた。
帰りのホームルームが終り挨拶も終わっているためばらばらと部活や帰宅する生徒がいる中
「三十分ぐらい待ってもらっても平気?」
と果鈴が聞いてくる。
「待ち合わせまで一時間近くあるから構わないわよ。」
そう言ってりんごは本を取り出し、ゆすらは塾の講習に使っている問題集を出す。
教室の生徒は今日は早く帰らないんだ。
と思いながら二人を見ていた。
三十分を過ぎた頃果鈴は帰る荷物をそろえて教室に来た。
「おまたせ。」
その様子を驚いた顔で見る生徒は多かった。
その頃桃子と吾は蜜柑を連れてケーキ屋で大量のケーキを受け取り駅に向かっていた。
「他の荷物は?」
「マネージャーに頼んで車で買ってきてもらってる。杏さんに伝えてあるから先に運んでくれてると思うよ。」
と話している間に駅に着く。
待ち合わせよりも十五分ほど早いもののホームの待合室にりんごとゆすら、果鈴の三人の姿があった。
「そうだ。果鈴に持たせればいいんだった。」
桃子は自分と蜜柑の持つ物の一部を果鈴に渡す。
ケーキは一つにつき一つの袋に入れられているため三つに別れ、シュークリームとパイスティックの入った袋とマドレーヌの箱の入った袋、プリンも箱に入っているため袋が別なのだ。
そのため三人で両手に一つずつ袋を持ち斜めにならないよう慎重になっていた。
「六人いるんだから一つずつ持てはすむだろ。こんなに何買ったんだ?」
「二人が好きなケーキ。」
りんごとゆすらは袋を見た。
こんなに⁈
と言いたげに
「ほら、行くよ!」
と丁度良く着た急行に乗る。
警視庁の前にはりんごのよく知る刑事が居て
「待ってたよ!」
と六人を案内する。
通されたのは会議室と書いてあったが開けてみると一斉にクラッカーの音がした。
「お誕生日おめでとう!」
と野太い声が中心だが言われるとうれしい。
「ありがとうございます。」
ゆすらや桃子も事件のこともあり面識のある刑事ばかりであった。