1-1再会に呼ばれて別れる
以前更新したものを大きく編集するため再投稿した物です。
同じような物を見た気がするような場合、本当に同じ物の可能性があります。
古い物は全話編集・投稿後、しばらくしたら消去予定ですのでよろしくお願いします。
再会に呼ばれて別れる
六年前の夏、森野りんごの目の前で数少ない友人であった立花果鈴と蜜柑の双子はさらわれた。
理由は解らない。
身代金でもなければ暴行目的でもなく、その死体は綺麗な状態で唯一首に痣を残して横たわっていたらしい。
りんごは二人がさらわれる瞬間を目撃していたらしい。
でもその記憶は丸々なくなっていた。
目が覚めたら病院で道に倒れていたと聞かされた。
頭には大きなこぶと小さな傷があり頭を打ち記憶が一部分欠落してしまったのではないだろうかと言われた。
事件後、隣同士だったりんごと双子の家の関係は最悪なものとなった。
りんごが目撃していたのにその記憶がない。
もし覚えていたら二人は助かったかもしれない。
双子の母親は狂ったように毎日りんごの家に怒鳴り込んできた。
それによりりんごたち家族は引っ越すことになった。
りんごは友人をすべて失ったのだ。
有名な進学校に入学できたりんごはその入学式で再会したくない人物と合うことになってしまった。
梅宮ゆすら。
りんごの母親の親友の子供で物心つく前からの幼馴染と言える人物。
だが、彼の家はとても教育熱心な両親であった。
小学校にすら私立のお受験をさせようとしていたが本人が嫌がったことで公立の学校に共に通っていた。
小学校に入ったところで同じクラスとなったゆすらと双子を合わせるのは自然な流れだと思う。
りんごにとっては三人とも同じぐらい大事な友人であった。
でもあの事件によりゆすらは親に無理やり転校させられてしまったため親同士も合うことがなくなってしまった。
そんなゆすらが新入生代表のあいさつをしているのを眺めていた。
ただ茫然と眺めていたのだがそれもすぐに終わる。
「新入生代表一年A組梅宮ゆすら」
そういってお辞儀をすると舞台から降りて行った。
彼はA組と言った。
教室では席が離れすぎていて気付かなかったようだがどうやらりんごは彼と同じクラスのようで溜息が出る。
何だったら目立たずそこそこの成績でばれないように卒業してしまいたかった。
入学式が終りクラスごとに教室に戻る。
もちろんゆすらも一緒ではあるが五十音順に並んでいることもあり『う』と『も』は遠く気付かれていないようだった。
教室につき担任により配布物が配られると
「それじゃあ自己紹介でもしてもらおうか。名前と住んでいるところとか、趣味とか、そういうのでいいから」
と適当なことをいう教師。
その指示で出席番号一番の生徒から始まった。
りんごの隠れるような生活計画が終ってしまった。
「えっと、入学式でも言いましたが梅宮ゆすらです。住んでいるのは急行で一駅のところで趣味はパズルゲームです。」
椅子が教室の床を擦る音がした。
座ったのだろう。
りんごはそれを見ることなく声だけを聞いていた。
このクラスは三十五人でゆすらは三番目、りんごは三十二番目。間の二十八人の生徒が終ってしまうとりんごの番が来てしまう。
「じゃあ、次、森野」
呼ばれたところで立ち上がる。
当たり前だが視線が集まる。
「森野りんごです。ふざけた名前なので憶えやすいと思います。趣味は読書。以上です。」
早口で言うとポカーンという擬音が似合いそうなぐらい沈黙があった。
その空気を消し去ったのは
「昔から変わってないな。」
と笑いながらいうゆすらの声であった。
その声に彼を睨むと目が合い拝むように適当に謝られた。
ゆすらが原因なのだろう。
自己紹介の後りんごは教師にホームルーム委員を負かされてしまった。
しかもゆすらと一緒にやることになっていた。
そのほかの委員会を決めて行く際中一切ゆすらとは話さなかった。
彼の進行、挙手制で決め、かぶったらジャンケン。
その結果をりんごが黒板と手元の大学ノートに書いて行く。
全委員会が決まったところで担任に声をかけると
「早かったな。それじゃあ十五分ぐらい余裕あるから休憩してろ。時間になったら呼びに来る。筆記用具を持って携帯は置いて廊下に並べよ。」
と言って教室を出ていった。
みんな何があるのか解らないが担任の姿が見えなくなったところで席を立ち近くの席の人間と話始めた。
りんごは黒板のものをノートに書き終え消そうとすると取ろうとした黒板消しを取られた。
「髪、ずいぶん伸びたんだな。」
唐突に言われる。
ゆすらは黒板から視線を向けることなく言った。
「切るのが面倒だったのよ。そういう貴方こそ昔は私より小さかったじゃない。変わっていないところなんてないのよ。」
もう一つある黒板消しでゆすらが消しているところの反対側から消していく。
「りんごは変わってないさ。メガネを掛けようと髪が伸びようと身長を抜かそうとその根本は変わってないと思うよ。」
笑顔を向ける彼ではあるがりんごは無愛想な顔のまま
「梅宮君は随分と素直な子に育ったのね。」
そういって席に戻る。
席に着き筆記用具を出して携帯をポケットからカバンに移していると
「森野さん」
と隣の席の生徒、確か畑野苺。
「なんですか畑野さん?」
「森野さんのことりんごちゃんって呼んでいい?」
どこぞのマスコットみたいな呼び方は勘弁願いたいので
「呼び捨てにして」
と返すと
「じゃあ、あたしも苺でいいよ。」
終始無表情のりんごとは違い彼女はニコニコとしていた。
「それでさ、梅宮君とは知り合いなの?」
おそらく本題はこっちなのだろう。
ニコニコしていた目がキラっと光る。
「親同士の仲が良かったから小さい時はよく遊んでたぐらいだよ。もう六年も前の話だけど」
「六年も? その割には親しいよね。付き合ってたりしたの?」
彼女は何が言いたいのだろうか?
「ただの幼馴染。それに私その時好きな子したし」
そう、好きだった。
始めて他人を好きだと思った。
でもそれは今思えばただのない物ねだりだったんだと思う。
「そっか、じゃあフリーかどうか知らないんだ。」
つまり彼女はゆすらに彼女がいるのか。
それがりんごなのかを確かめたいがために話しかけてきたのだろう。
「多分フリーだと思うよ。そういうの疎いから」
りんごは筆記用具を持って立ち上がる。
そこに丁度担任が入ってきて支持を出す。
廊下にならび行く先は視聴覚室。
そこで学年集会があるらしい。
視聴覚室には一学年全クラス四組が入った。
そして学年主任だという教師が話始める。
「明日から授業も始まるが始めの一週間は午後に身体測定やオリエンテーションが入る。ここは進学校である。バイトは禁止、もちろん未成年であるお前等は酒もたばこも禁止、友達を作ったり恋愛に現を抜かしたりするのは個人の自由だがそれにより成績が下がると言うことの無いように各自肝に銘じておけ」
そんな話がその後一時間ほど続き休憩が挟まれることになった。
その時
「森野!」
と担任に呼ばれる。
「はい」
そう返事を返して前へ行くと紙を一枚渡される。
「これをホワイトボードに書いてくれ」
どうやらこれから何かテストでもあるようで座席を一つずつ開けて座るための席順が書かれていた。
それを黒板変わりのホワイトボードに書いて行く。
休憩が終るころには余裕でかき終わり次の仕事を頼まれてしまった。
ゆすらにやらせればいいものをなぜりんご一人に任せるのだろうか。
他のクラスにもホームルーム委員は居るはずだ。
そんなことを考えながらテストの解答用紙を配っていく。
テストは簡単なものらしくムービーで流れる問題の答えを解答欄に書いて行くらしい。
説明している教師を横目にりんごは配り終え席に戻る。
座席の移動後机に取り付けられたライトが点き手元だけが照らされるとこの部屋の電気が切られた。
そして映像が始まった。
テストは全教科三問ずつ流れた。
だが一問一問が短く数学や理科の計算が追い付かずにいた。
それを早く解き終わった問題の時に次の問題が出題される間に解いてしまう。
だが、それでも追い付かず終了の合図でペンを置くも二問解けずに提出して教室に戻った。
「解答のついた問題を配るから各自で復習しておくように」
帰りのホームルームで言われる。
帰りのあいさつをゆすらが行い解散となる。
りんごは一番に教室を出るも
「りんご!」
と呼ばれ睨む。
ゆすらが呼んだからだ。
「なんですか梅宮君。」
そう聞くとゆすらは溜息を吐き
「話でもしながら一緒に帰らないか?」
ゆすらはりんごの横まで来てそういうも
「私の家ここから徒歩五分なの。話なんてしている時間はないから」
りんごは早歩きでその場を去った。
ここまで言えば話しかけてくる事なんて減るだろう。
下駄箱で靴を履きかえ校門を出て駅の方向にまっすぐ進むも駅まで行くことなくマンションに入る。
鍵を使って自動ドアを開け中に入ると
「お帰り、小包届いているよ。」
と管理人に言われる。
ここには宅配ボックスは一様ある。
だがサイズが合わなかったり重すぎたりクール便だったりすると管理人室で保管してくれるのだ。
「ありがとうございます。台車取ってきます。」
今日届く荷物はネットで買った古本。
一円から本が売られているので便利である。
りんごはエレベーターに乗り十五階へ、そして八号室の門を開ける。
そこにある台車を持ってまたエレベーターに乗る。
管理人室に行き重たいダンボールを受け取り家に入ったのは午後一時を回ったところであった。
無言で家に上がる。
この家にはりんごしか住んでいない。
決して両親他界しているわけではない。
だが二人ともお金だけ送り付け好き勝手生きているだけである。
父は今、南の方にいるらしい。
転勤で日本各地を転々としながら愛人と生活している。
母も愛人と数年前に世界旅行に行ってくると言ったっきり帰って来ない。
このマンションはその母の愛人が一括で買った新築マンション。
エアメールで引っ越すように指示された。
住み始めて三カ月ではあるが度々管理人室に荷物が置かれているため管理人とは自然と話すようになった。
この3LDKに一人暮らしのため寝室以外の残りの二部屋は本が山住みになっている。
本の名前と作者をリストにしていないとおそらく同じ本を買っても解らないかもしれない。
ダンボールを押しながら廊下を進みその本の置いてある部屋の前で止まる。
「暑い……」
こんな小さな運動でも疲れるのは運動不足のせいだろう。
廊下に運んだ荷物を放置して一先ず着替えをすることにした。
真新しい制服をベッドに放り出し、持っている服の大半を占めるワンピースを着てから髪を束ね廊下に戻る。
本を片付けると言う名の床に置いていく行動をしながらまだ食べていない昼食をどうしようか考えるが面倒臭くなり作るのは止めた。
その代り明日からのお弁当の具を買いに行かなくてはと思いついでで本屋に寄ろうと立ち上がり支度を始める。
そのころゆすらは電車に揺られていた。
急行に乗ればよかったのに目の前には各駅停車の電車があったため帰りだからいいかと乗り込んだ。
その車内には中刷り広告がぶら下がっている。
それはただの広告。
まして女性向けの物でゆすらには関係ない物なのだが広告に大きく映る写真のなかには
「桃子も有名になったもんだな。」
双子がいなければ出会っていたとしてもあんなに親しくなるようなことはなかっただろう人物、桜井桃子。
子役から女優へとステップアップした彼女は現在学業優先にすると言って仕事制限を始めたというニュースが世間を騒がしたのはつい最近の話。
彼女も今日は入学式だったのだろう。
数分電車に揺られ最寄り駅で降りる。
ゆすらの今日の予定はこのまま塾へ行くことなのだが塾の開校時間まで余裕がある。
辺りを見渡し駅内にあるカフェへ入る。
平日の昼間とはいえ入学式後の親子、特に女性客が多かった。
その中につい先ほど車内で見た人物がいることに気付く。
「桃子?」
つい名前が口に出てしまうとその名前の本人は顔を上げ名前を呼んだ人物を視界に入れる。
「ゆすら?」
ゆすらは桃子の席に近づく
「今日は懐かしいやつらによく合うな。」
「懐かしいやつら?」
桃子は荷物を置いていた椅子を開けるのでゆすらはそこに座る。
「りんごと同じ学校になった。向こうには避けられているがな。」
「ストーカーみたいなことでもしたの?」
桃子はりんごと違いゆすらと壁なく話を続ける。
そこにウェーターが来たためゆすらはコーヒーとケーキを頼む。
「あたしすぐそこの馬鈴に通うことにしたんだけどあたしの方も運悪く吾と同じ学校になっちゃった。中学は違ったんだけどね。」
そういいながら紅茶を飲む桃子。
万田吾も六年前まで共に双子と遊んでいた仲間であった。
「それはそうと芸能活動を制限するってニュースやってたけど何かあったのか?」
ゆすらが聞くと溜息を吐きながら頬杖をつく桃子。
「中学のほとんどを仕事に使っていたら成績がやばくてね。さすがに高校は留年や退学があるから勉強頑張らないとって思ってね。ゆすらはどこの学校?」
「急行一駅の大角豆高校。そこで今日は代表のあいさつをした。」
桃子は明らかに嫌な顔をした。
「それ嫌味でしょ。トップ入学の嫌味でしょ。その脳みそ半分よこしなさいよ。」
そんな話をしているとコーヒーとケーキが運ばれてくる。
「それでここで何してたんだ?」
「ああ、マネージャーと待ち合わせ。年間行事の予定表配られたから、あんたはどうせ塾までの時間つぶしでしょ?」
「よくわかったな。この時間をつぶすのにりんごを誘ったら『私の家ここから徒歩五分なの。話なんてしている時間はないから』って断られた。」
桃子がジトッとした目でゆすらを見る。
「本当、変ってないわね。」
カフェのドアが開く音がする。
「おまたせ、あらお友達?」
桃子に話かける人物。彼女のマネージャーだろう。
「ほら、小学生の時に何度か見たことあるでしょ?」
そんな話をしている横でゆすらは頼んだものを持って
「じゃあ俺は席替えるよ。またな。」
と移動する。だが
「あ、待って、これ」
そういいながら走り書きのメモを渡される。
「さすがに携帯持ってるでしょ?」
それは電話番号とアドレスだった。
「塾が終ったらメールする。」
そういって店の奥の席に移る。
日常はあっと言う間に過ぎていく。
「森野、プリント知らない?」
「書き終わってたからチェックして提出しておいた。それより文化祭の会計係の子に連絡して、金額があってない。」
二人教室に残り十月の終わりにりんごの誕生日とかぶるようにあった文化祭の会計処理のチェックや二年での選択授業の希望から人数調整をしたものをプリントにまとめたりしていた。
「そういえば飯田達が森野に彼氏いないのか聞いてきたんだがいないで合ってたか?」
「私も前に苺、この前は橋野さん達にあなたに恋人がいるのか聞かれたわ。答えなんてお互い解っていることじゃない。」
そういいながら手を止めることなく話すりんご。
りんごたちが六年間という長い間一切の関わりを断ち切ったのはみんながみんな、双子が好きだったからだろう。
そして双子を中心にみんな接点を持っていたようなもの。
下校の時間を知らせるチャイムが鳴る。
「帰ろう。」
そういって立ちあがるゆすらについて立ち上がるりんご。
荷物をまとめ教室の鍵を閉め職員室に届けに行く。
そこで
「悪いんだが近いうちに成績の悪いやつらのテストをするんだがその問題作ってくれないか?」
と職員室のドアを開けたところで立っていた数学教師に言われた。
「二人とも学年で一位二位を争うぐらいだからな。」
そういって先日の小テスト答案用紙を渡される。
帰り道、駅までの道のりの途中で立ち止まって話をしていた。
「教師が生徒にテストを作れって言うのまでは良いがかってに前のテストを渡していいのか?」
「仕方ないんじゃない。そういう学校なんだから」
二人は今、来年の一年生向けの夏季講習の問題作りも複数の教師から頼まれていた。
「私の家でやりましょう。今日は塾ないんでしょ?」
じゃなかったらこんな時間までいつも残っていない。
そんなことを言いたげな顔でりんごが言うと
「始めてじゃないか、俺をこの家に上げるの?」
そういいながらマンションに入る。
「散らかっているのは気にしないでね。」
その後ほぼ無言で家に入った。
「おばさんたちは?」
「知らない。」
それだけ答えリビングに荷物を置く。
「コーヒーでいい?」
キッチンに行きながらゆすらに聞くと
「お構いなく」
そう答えられる。
りんごはコーヒーメーカーに引いてあるマメを入れ電源を入れる。
しばらくすればちょっとずつコーヒーが抽出されていく。
数学の教科書やノート、参考書などを見ながらテストを作ること数時間。
時計は九時を指していた。
「家に連絡しなくて平気なの?」
「勉強してたって言えば何も言われないからな。でもさすがに電車だし帰るか。」
そういって帰るゆすらを見送りりんごはカップを片付けた。
ゆすらとりんごの関係は特に変わることなく親しい友人、幼馴染に戻った。
再会初期のツンケンした態度のりんごは今も時々見られるが睨む、拒否すると言うことは無くなり溜息をつきながらゆすらについて来ていた。
ゆすらは駅に着くと今日も一人の人物を見つけた。
「今日も待ち合わせか?」
「そういうあんたは随分と遅いお帰りですこと」
少し寒そうにしながら桃子が言った。
「森野と数学のテスト作ってたら遅くなったんだ。今から仕事なのか?」
「逆よ。終わってお母さんの迎え待ってるところ。この通り変装なしなものでね。」
桃子は再会した時は広告に載っていた彼女本人だったのだが何回か会ううちに学校では変装していることが解った。
「そんなことよりこんな時間まで女と二人っきりってどういう神経してんのよ。いくら相手がりんごでもおかしいでしょ?」
「お互いそういう関係には一生ならない確証かあるからな。それにムードがなさすぎる。」
目の前に一台の車が停まる。
「それじゃあな。」
そういってゆすらは桃子から離れる。
自転車を取りに行きまだ車が停まっているのを見ると桃子はゆすらの見知らぬ男と話していた。
「おばさんの新しい恋人か…」
自転車に乗りその場を去る。