3年
家紋
それは、家を表す紋章。
王家は、鷲をモチーフにしている。
武家貴族は剣や槍が多い。
あとは、強い動物。
領地の特産品的な家紋もある。
代表的なのは麦の穂だ。
旧リグスビー家も、麦の穂をイメージした家紋であった。
ただし、強いからと言って、魔物を家紋にするのは、タブーである。
いくら強いからと言って、竜を家紋にするわけにはいかないのだ。
これは王国の決まりであり、他国には、竜を家紋にする家も多い。
王家にとって魔物は討伐すべき対象であるからして、討伐すべき対象を家紋にするわけにはいかないのだ。
パトリックは、この家紋の申請を忘れていた。
では、執務の時はどうしていたのか?
家紋の押印が必要な書類は、王家に提出する書類に限られる。
他はサインだけで良い。
王家に提出する書類とは、だいたい税関係である。
パトリックは、まだ税を払っていない。
初年度は、免税されていたからだ。
初年度の利益で、これからの領地経営の予定を立てる。
最初は金が掛かるのが想定されるので、免除だが、来年からは、キッチリ払わなければならない。
まあ、税のほうは、酒の利益があるので、問題無さそうではあるが。
さて、王が決めたという家紋の印が、役所から届いた。
短剣に2匹の蛇が絡み付いていた。
「まあ、スネークスだしなぁ」
しっかり複数形だった。
この印、実は魔道具であり、けっこう高価である。
人が持つ魔力により、印が押される。絶対消えないインクみたいなものである。偽造防止の為であり、他のインクだと、水や油を垂らすと、滲んで行くが、魔力のインクは、滲まない。
それに合わせて、王家より王家とスネークス家の家紋入りの短剣も届いた。
貴族当主の証である。
最近のパトリックは、月の半分は8軍、残りは領地という生活をしている。
だいたいの領地当主の軍人は、この勤務システムである。
伯爵になってしまったパトリックは、けっこう忙しい。
決裁の書類に目を通してサインする。
不可なら、不可の印を押す。
また、領地を視察したり、酒蔵にあるウイスキーやブランデーの熟成具合の確認、新たに仕込んだ日本酒、現地名はイネッシュ(梅酒に似た名前があったなぁと、名付けた。)とした、酒の確認。
旧ハーター領で、新たに芋の栽培も推奨しだした。サツマイモである。
この男、イモ焼酎も作る気だ。
王都に戻れば、8軍の訓練と、自身の訓練、たまに1〜3軍の訓練にも駆り出される。
先日など、近衛騎士団すら、パトリックの訓練の洗礼を受けた。
トローラ伯父からも、死神と呼ばれ、少し落ち込んだ。
そうそう、8軍名物、ランニングだが、グレードアップした。
今までは軍服でランニングだったが、今は第1装備、つまり戦争装備でのランニングになった。
パトリックは、不可侵条約が切れた時、帝国は即宣戦布告すると思っている。
それを見越しての訓練だ。
鎧を着け、武器を装備すると、重いわ走りにくいわで、かなり辛い。
まあ、部下からの非難の目が、声が、少しウザかったが無視した。
まあ、ウイスキーを振舞ったら、ころっと態度が変わったのだが、それは置いておこう。
そして、王都のパトリックの屋敷に、度々おとずれる女性が出現した。
まあ、王に言われたときは、さすがに、
「マジで⁉︎」
と、王に言ってしまい、慌てて土下座して謝罪したのだが。
パトリック、18歳、軍に入って3年。
伯爵や中佐よりも驚く事になった。
パトリック婚約。
相手は言わずとも、読者で有れば判るだろう。




