新居
兵舎に戻ったパトリックの部屋に、来客が来た。
兵舎には、管理人が居る。
管理人はその名のとおり、管理する人達である。食事や掃除、規律の管理が主な仕事だ。
主に戦死した兵の妻や子供が、働いている。
たまに兵舎の中に、民間人を連れ込む兵が居るので、抜き打ち検査をしていた。
今日は、パトリックの部屋の検査であった。
もちろん事前通知は無い。
てか、パトリックはそんな制度があるのを、今知った。
そして、部屋に入った管理人は、とあるものを見て、
「ギィヤアアァァァァァ!!!!」
と、叫んだ!
視線の先に有ったとあるもの。
蛇だ。
「はい! すいませんでした」
かれこれ1時間くらい、正座で説教を喰らっているパトリック。
兵舎でペットは禁止らしい。
で、最後に言われたのが、
「今すぐ出ていけ!」
パトリックは、寝る場所を失った。
「あーーー、どうすっかなぁー」
背中に大きなリュックを背負い、首に大きな蛇を巻きつけた男が、王都を歩く。
まあ、目立つ事目立つ事。
宿に泊まろうとしたら、全て断られた。
原因は言わずと知れた首に居る蛇。
いや、首に居るというのは如何なものか?
読者の方は、アナコンダという蛇をご存知だろうか?
体長8メートルを超える蛇。それと同じくらいデカイ蛇だ。
アナコンダには毒は無いが、パトリックの首どころか、全身にまとわりつく、その蛇は、青みがかった緑色で、三角形の頭を持つ。
三角形の頭の蛇は、だいたい毒蛇である。
自然との距離の近いこの世界、三角形の頭の蛇には近づくなと言われて育つのが当たり前。
そりゃ宿も取れない。
パトリックは、不動産屋に行くことにした。
即入居できる物件は無かった。
その日、パトリックは、訓練場で、野宿した。
後日、紹介されて購入した屋敷にたどり着く。
「ここか」
目の前には、豪邸があった。
「デカいなぁ」
パトリックは、不動産屋に出した注文を振り返る。
なるべく早く入居できる物件で、デカイ部屋がある屋敷。料金は、金貨100枚まで!
パトリックは、褒賞で、まあまあ稼いでいた。
とりあえず渡された鍵で門を開け、敷地に入る。
荒れ果てているが、庭は広い。いや、広すぎる。
屋敷の玄関にたどり着き、鍵を開けて入ると、ホールの広さと、正面の豪華な階段が目に付く。
「なんでここが金貨100枚?」
疑問に思うパトリックだが、視界の先に黒く動くものを確認する。
実はこの物件、あのハーター子爵家の王都での屋敷であった。
例の反乱で、家が取り潰しとなり、王家に召し上げられた物件だったのだが、王家とて、使わぬ屋敷の管理など、金の無駄である。
すぐに王都の不動産屋に払い下げられた。
不動産屋は、屋敷の掃除に冒険者を雇い、草刈りや掃除をさせようとしたのだが、ここで問題発生。
屋敷に、いつのまにか、ネズミが住み着いたのだ。
ネズミ?そんなもん追い出せば良いと思うであろう。
しかし、ただのネズミではない。
れっきとした魔物のネズミだ。
ギガラットという魔物。
体長50センチから1メートルの魔物で、繁殖力が旺盛で、すばしっこく、知能も高いため、冒険者には嫌われている。肉は臭く、毛皮は脆く、使い道がない上に、ゴブリンより強い。
スピードを活かした体当たりで、攻撃してくるのだ。
それが、およそ200匹。
しかも、数匹でも仕留め損なったら、瞬く間に繁殖する。
ネズミの出る屋敷など、売れる訳がない。
不動産屋は早く手放したかった。
物件を見ずに買ったパトリックもパトリックである。
が、
「ぴーちゃん、食べていいよ」
ぴーちゃんとは、蛇の名前らしい。
ネーミングセンス、ゼロである。
蛇のどこがぴーちゃんなのか、小一時間問い質したい。
ぴーちゃんと呼ばれた蛇は、まるで人語が分かるのか、すぐに目の前のギガラットに飛びかかった。




