メイド長と執事
屋敷に招かれ、応接室に通されたパトリックが、やはり顔なじみのメイド長がいれた、紅茶を飲む。
「エリンダさんも元気そうでなによりだね」
パトリックは、金髪の老女に声をかけた。メイド長のエリンダである。
「パトリック様は、ご立派になられて」
「まあ、成り行きでこうなったけど、やれる事を頑張るさ」
「旦那様が嬉しそうに話しておられましたよ」
と、会話していると、コンコンと、ノックがし、
エリンダさんが、ドアを開けると、カナーン家執事のポールが入室してくる。
入れ替わりにエリンダが、部屋から退がる。
「パトリック様、お久しゅうございます」
白髪で細身の老人が、頭を下げる。
黒のスーツ姿がバッチリ決まった、正に出来る執事。
「ポールさん、久しぶり。元気そうだね。」
「いやいや、かなり体力が落ちましてな。最近は、デコース様との稽古でも、負けが増えつつ有るんですよ」
と、青い眼を細くして話す。
いやいや、この年で、あの人と稽古して勝ててるだけ、バケモンだろ。
と思いつつ、
「またまた、そんなこと言って、こないだ式典の時に、デコース兄から聞いたよ? 両手剣、新調したらしいじゃない。まだまだヤル気充分でしょ? デコース兄なんか、[ポールには、よほど体調良く無いと勝てん]って、ボヤいてたよ?」
「デコース様も精進されてますから、気を抜くとやられますからな」
と、笑顔をみせる。
「ああ、懐かしくて話し込んでしまいました。旦那様たちが、食堂でお待ちしております」
「分かりました、向かいましょう」
勝手知ったるカナーン家、屋敷の間取りも覚えているので、迷う事はないが、ポールの後に続いて歩く。
ポールがとあるドアの前に立ち止まり、コンコンとノックをし、
「スネークス子爵様をお連れ致しました」
と、中に声をかけると、
「お通ししてくれ」
と、中から声がする。
そのやりとりに、パトリックは内心、
(子爵様って、ププッ。お通ししてくれって、ププッ)
と、笑いを噛み殺していた。




