死神?
「あれじゃダメだな」
パトリックは先日の野外活動を振り返り、独り言を呟く。
夜の木の上は、隠れるのにも、攻撃するのにも有効だ。そこに気が付かないのは問題だ。
昼の方は、獣の巣穴に潜って、入り口を中から塞いだだけだ。
ちゃんと見てれば不自然さに、気が付いたはずだ。
寝不足による集中力の低下が、認識力を低減させたのだろう。
8軍の任務を遂行するためには、敵に察知されないように隠れたり、場合によっては逃げたりしなければならない。
一晩の徹夜くらいで、あの状態では、命に関わる事があるかもしれない。
「とりあえず訓練と、重要性の認識確認かな」
訓練所を歩くパトリックに、声がかかる。
「よう! パット! 久しぶり!」
「お、ウェインじゃないか。相当中将に鍛えられてるらしいな。噂で聞いたぞ!」
少し前まで、部下であった男だが、婚約したリア充野郎である。
「いや、それを言うなら、お前んとこの隊員が、愚痴ってたぞ。森の中で夜中まで訓練してるらしいじゃないか! オークとか出たらどうすんだ? 夜中じゃ太刀打ちできんぞ?」
夜の森での戦闘は、自殺行為であるので、この意見は正しい。
が、
「お前、俺らは夜の森を抜けて、敵の後方を撹乱するのが任務の時もあるんだぞ?
訓練で出来ないことが、実戦で出来ると思うか?」
「いやまあ、そうだけどさ。お前を探す訓練だろ? 見つけられる訳ないじゃん!」
「そんな事ないだろ? 動いてないんだぞ? 俺は!」
「動いてないから、見つけられないんだよっ! 足音もしねえお前を、見つけられるかっ!」
「なんか酷くね?」
「お前、隊員達に何て呼ばれてるか、知ってるか?」
「ん? みんな少佐って呼ぶけど?」
「それは目の前にいるからだ! 陰では《死神》って、呼ばれてるからなっ! 訓練で死の世界に連れて行かれそうだって、もっぱら噂だぞ?」
「なに? やつら、あれで死の世界とか、まだまだ甘い。今日から、本当の地獄を見せてやる」
ニヤリと笑ったパトリックに、ウェインが、
「マジで?」
呆れた声をあげる。




