武器屋に行こう
「金貨5枚?」
兵舎に戻ってからの、褒賞式で受け取った袋の中身を見て、思わず声が出た。
この世界の通貨は、金貨、銀貨、銅貨。
金貨1枚は、銀貨100枚
銀貨1枚は、銅貨100枚
銅貨1枚、日本円にして100円と思って貰えれば、参考になるでしょう。
実際には、大銀貨という銀貨10枚分の貨幣と、大銅貨という、銅貨10枚分の貨幣、小銅貨という、銅貨4分の1の価値の貨幣がある。小銅貨は約25円というわけだ。それより安い品物は、25円分まとめ売りが基本だ。
銀貨1枚、一万円、金貨1枚100万円である。
それが5枚!
500万円!
思わず小躍りしてしまった。
「よう! 金、何に使うよ?」
(出たなイケメン!)と、思いながら、
「お! 金貨3枚も貰ったウェイン君ではないですか」
「うるせい、5枚貰ったパトリック曹長さまよ!」
ニシシと2人で笑い合う。
「武器屋に行こうぜ!」
と、ウェインを誘う。
この王国の軍隊に入れたなら、軍備は一応最低限の支給品がある。
二等兵(平民の新兵はここからスタート)は、槍1本。一等兵は、槍と片手剣である。
だが、支給品は新品ではない。
そして軍曹(貴族家の新兵はここからスタート)では、槍と両手剣であるが、使い回しの中古品だ。
なかには壊れる寸前の物もある。実際、パトリックは今回が初の実戦だったのだが、槍は最初の一撃目で折れていた。
なので、両手剣で戦う羽目になって、オークの棍棒の距離で戦闘したため、後頭部に攻撃を受けたわけだ。
「棍棒で殴られたくないもんな」
ウェインが笑いながら了承する。
「槍って、結構するんだな」
パトリックの武器屋での感想である。
この世界、戦闘の主武器は槍である事が多い。
魔物相手にある程度距離を保ちながら攻撃出来る利点が、最大の理由だ。
人間相手であっても、槍対剣だと力量が同じなら、槍の方が有利である。
安い物は、銀貨50枚ぐらいからあるのだが、その横に金貨1枚の槍が並べてあると、素人目にも、その違いが分かるぐらいなのだ。
命を預ける武器は金より大事だ。
武器の良し悪しは、人によって異なるだろう。
斬れ味重視か、丈夫さ重視か、はたまた取り回しや重量にこだわる人もいる。たまに見た目重視とか言う戯けた奴も居るが。
「ウェインはどうする?」
「俺は重さが適度にあって、丈夫な奴がいいかな」
そう言うと、店員が、
「それならコレだな。にいちゃんガタイも良いし、このくらい重いほうが、ダメージ与えられるぜ?」
と言って出してきた槍。
オール鉄製の槍であった。
「重そう」
思わず俺が言うと、店員が、
「中は空洞になってて、それほど重くは無いよ」と言う。
なるほど、パイプ状になっているのか。
ウェインが手に取り、軽く振っている。
「値段は?」
気に入ったらしい。
「金貨2枚」
「高すぎる。金貨1枚と、銀貨50枚!」
「ダメダメ、それかなり良い鉄使って、良い職人が作ったんだから。1枚と75枚!」
「そこをなんとか! 1枚と65枚!」
「これで限界、1枚と70枚!」
「しゃあねえ、じゃそれで!」
170万円か。
「で、にいちゃんはどれにする?」
「俺は軽めで斬れ味重視で!」
「となると、コレか、コレだな」
店の主人が奥から二本の槍を出してきた。
「こっちは柄が少し短めで、その分軽いし、取り回しも楽だし斬れ味は抜群。で、こっちは普通の長さで、穂先が少し小さくて持った時に軽く感じる。斬れ味は抜群。」
左手の中指で、一重瞼の黒い眼の横をトントンと叩く。考える時の癖であるが、こうすると落ち着いて考えられるのだ。
(短いより長い方が後頭部殴られないよね?)
そう結論をだし、
「穂先短いほうで! でも、お高いんでしょう?」
と、店主に聞いてみる。
「なんとその槍、今回特別サービス、金貨1枚ポッキリ!」
「「おおっー!」」
「買った!」
「まいどありっ!」
2人が帰った後、店の女将が、
「あんた、なんであの槍、金貨1枚で売ったの?もう少し取れたんじゃないの?」
と、店主の旦那に聞く。
「なんか、ついノリで?」
「バカ亭主!」
店内から怒号が響いたとかビンタの音がしたとか…
知らない方が良い事もある。