ロウソク
パトリックは、砦内を荷車を引きながら歩く。
小麦の袋をのせて。
物資の保管場所、兵の詰所、水場などを確認しながら。
時折、兵に小麦はどこに運べばいいのかと、初めて来た商人を装いながら。
食料保管庫を確認し、小麦をそこの担当の兵に渡し、代金を受け取る。
荷車を近くの物陰に隠し、自分も隠れる。
日が沈み、人通りがわずかに減る。
砦の中は、見回りの兵が巡回してはいる。
が、気が緩んでいるのか、警戒心は薄いようだ。
巡回兵は雑談しながら通り過ぎる。
「王国軍は砦の裏門で固まってるとよ」
「まあ、流石に砦に特攻しては来ないだろうなぁ。昨日着いたから、今頃投石機でも組み立ててんじゃないのか?」
「なら、明日の朝から戦闘開始か?」
「だろうなぁ。門や塀の上はヤバそうだなぁ。俺らは夜回り後は、伝令の予定だし、まだマシだなぁ」
(ふむ、軍は到着済みと。後は食料を焼いて門をどうにかしないとなぁ)
夜更けに食料庫に忍び込むパトリック。
小麦を運び込んだ際に、鍵がない事は確認済み。
担当官が2人いたのも確認していた。
夜も2人なのかは分からなかったが、扉の前に人影はなし。
中にいるのだろう。
そっと扉を開ける。
ギィィと僅かな音を立てる。
食料担当官が、その音に気がつき、扉の方を見ると、僅かに月明かりに映る黒い人影を確認した。
「誰だ!」
咎める声に、もう1人の担当官が、腰の剣を抜く。
ロウソクの灯りを持って、扉に近づく2人。
剣を構えた男が、気配を探りながら辺りを見渡すが、倉庫の中は真っ暗。
ロウソクの灯りなど、数メートルしか照らさない。
柱の影から、スッと何かが動いたと思ったときには、剣を構えていた男の首から、赤い液体が飛び散っていた。
「ウゲェェェ‼︎」
呻き声が響く倉庫内で、もう1人が、ロウソクを落とし、慌てて剣を抜く。
ロウソクは消えずに燃えているが、灯りは足元のみを照らし、さらに視界は悪くなる。
カランと兵の後ろで音がし、兵が振り返ると、落としたロウソクの近くに、剣が落ちていた。
「剣? ちっ! しまった」
剣が投げられただけと、すぐに理解した兵は、慌てて周囲を見渡した。
先程喉を斬られた同僚は、既に息絶えたのか、微動だにしない。
同僚の死から目を背けるように、体の向きを変えた兵。
それが良くなかった。
兵は、背中に熱い衝撃を感じ、持っていた剣を反射的に振り回した。




