開戦
王国軍が王都より出発する。
多くの馬が、馬車が。それに続く歩兵が。
その中にウェイン率いる、リグスビー中隊も勿論いる。
ウェインは、何がなんだか解らないものの、命令に従い動く。
上に従うのが軍だ。
数日を要した西方への道のりは順調に進んで、明日にはウエスティン領に入るだろう。
そう思っていた。
一本の矢が飛んでくるまでは。
「敵襲! 敵襲!」
慌ただしく動き出す兵達。
増援部隊の長であるサイモン中将は、
「やはりウエスティン家は裏切っていたのか。半信半疑であったが」
と、ここにきてまだ信じていなかった自分に、喝を入れなおす。
ウエスティン家が裏切っていなければ、ここまで帝国が攻め入って来ているはずがないのだ。
たとえ、領兵が少なくても、防衛するだけの戦力位は残しているはずなのだから。
サイモン中将は、次々に命令を出し、ウエスティン領軍と交戦する。
敵は目測で千程。
ウエスティン領軍の旗以外に、王国貴族の旗も見えた。
そして、帝国の旗も。
「命令通りか。王国の恥晒しめがっ!」
サイモン中将が、憎々しげに吐き捨てた。
ウエスティン家の屋敷に、ウエスティン領軍の伝令が報告に来る。
「報告! 我が領の東のサハラ草原にて、王国軍と開戦、現在優勢であります」
「ご苦労! 下がって良し」
来ると分かっていた為、急造ではあるが、砦を築き待ち構えていたのだ。優勢に戦えるのは当たり前なのだ。
「ここで追い返すのでは、王都に攻め入るのに邪魔だからな、殲滅しておかないとな」
脂ぎったおっさんが言う。
この脂ぎったテカテカ顔のバーコードハゲデブおっさんこそが、ウエスティン家の
当主であるのだが。
「本当に大丈夫なんでしょうね? 失敗すれば我らも困るのですが?」
と言ったのは、その場にいた細身の男。
茶色の長髪で、身長はパトリックより少し高いか?
「黙れ! 借金をなくしてやると言ったら、2つ返事で協力すると言ったのは、リグスビー男爵だろう!」
怒鳴り声に首をすぼめるマイク・フォン・リグスビー男爵と、それを不安そうに見る3人の男達。
言わずと知れた、ハーター子爵とカーリー、エージェー男爵達
「うちの兵も出てる、勝てるさ」
と言ったのは、20歳くらいの細身の男、ウエスティン家と帝国を繋げた、今回の首謀者、帝国の第三皇子、ルドルフ・ファン・ザビーン。
「それならよろしいのです、我らはもう後には引けないので」
「勝てばちゃんと帝国貴族にしてやる。心配するな」
ニヤリと笑う金髪青眼のルドルフ。




