開戦
スネークスの砦に食糧が運び込まれたという報告が、ザビーン城にもたらされてから数日後、帝国の東の砦に国境付近に配置されていた、国境警備の兵士が馬で数人現れ、砦に向かって大声で叫んだ。
「スネークス王国軍が国境を越えましたっ! かなりの大部隊ですっ!」
それを聞いた、砦の門の警備に就いていた兵士が、
「なにっ! あの砦にそんな大部隊が入った報告など、受けてないぞ⁉︎」
と言うと、
「でも事実です!」
と、馬上の兵が言う。
「ええぃ、それで国境警備隊はどうしたっ?」
「国境警備隊は撃破され散り散りに撤退。我らは上官の命令で、馬を走らせ報告に来ました!」
「むむ、おいそこのお前、とりあえず上官に報告してこい! お前は鐘を鳴らせ! 戦闘配置だ!」
と、別の兵に報告に行くように命令し、異変を知らせる鐘が砦に鳴り響く。
「おいお前ら! 門を閉めるから早く中に入れ!」
と、兵士が報告に来た国境警備隊の兵士に言うと、
「それと草原に居た部隊には、状況を説明済みであります!」
と、追加の報告をした国境警備隊。
「指揮官はなんと言っていた?」
「数日は時間を稼いでみせると。その間に帝都に応援要請をと!」
「なるほど! とりあえず中に入って、もう一度同じ報告を司令部に頼む!」
「心得ました!」
そう言い馬を砦の内部へと進めた、国境警備隊。
司令部は国境警備隊の報告を聞き、帝都に報告することを決定した。
そうして、数頭の馬に乗った兵士達が、慌ただしく帝都に向けて出発するのだった。
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ザビーン帝国国境警備隊を、ぴーちゃん抜きで撃破したスネークス王国の兵士達は、そのまま西に向かう。
ザビーン帝国がスネークス王国と、メンタル王国との戦を想定し、兵士を集結させていたのだが、その場所を匂いで感知しているピクロスティアーこと、ぴーちゃんが一気に突っ走る。いや、走ってはいないか。
「ぴーちゃん、後ろ付いて来てないって!」
パトリックが自身の足元に向かって叫ぶ。
「さっき何もしてないから体力が有り余ってるのよ! 大丈夫! 私に任せなさい! 主はランス構えて殺気全開でお願い! その方がカッコいいから!」
ぴーちゃんがそう言い返す。
ぴーちゃんにそう言われて、パトリックは様式美としてプーに乗る時に持つために、ソーナリスに作って貰った趣味全開のランスを、構えるのだった。
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「なんだアレは⁉︎」
それは草原に集結していた、ザビーン帝国の兵士達の総意だったに違いない。
先ほどもたらされた報告で、スネークス王国軍が国境を越え攻めて来たことを知り、慌てて戦闘準備を終え待ち構えていた。
だが、最初に見えたのはスネークスの兵士では無く、巨大な蛇のような魔物。
虹色に輝く黒真珠のような体に、ルビーの様な紅い瞳。頭部から前方に向かって伸びる二本の黒い角。
そしてその魔物の頭部、ちょうど二本の角の間に、髑髏の鎧を着けた者が居る。
その者が放つ殺気は、闘争心を砕くほどであるが、その殺気を感じる者がどれほど居ただろう。
その者が振るランスが、魔物に行き先を指示しているように見えた。
「国境をスネークスの兵が越えて、国境警備隊が負けた報告は受けた。だが、あんな魔物が居るとは聞いていない」
蛇の魔物を見た指揮官が、誰に言うともなく呟いた。
魔物を見た瞬間に逃走する兵士達。
逃げ遅れた兵士を体で弾き飛ばしながら、前進する巨大な蛇の魔物に、進む先をランスで示す赤い異形の鎧を装着した者。
ザビーン軍の指揮官が、逃げる兵士を怒鳴って止めようとしていたが、群集心理に捉われた者達を止めるのは、かなりの無理があった。
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「主! たぶんアイツが指揮官!」
ぴーちゃんが二股に分かれた舌を器用に向けて言った。
「だな! 行ってくる! ぴーちゃん、うちの兵に被害が出ないように、上手くやれよ!」
ぴーちゃんの頭部から飛び降りたパトリックが、そう言って一直線に指揮官に向かって走り込む。
「もちろん! 任せておいて!」
パトリックの背に向かってそう言ったぴーちゃんは、そのまま敵兵を蹂躙していく。
パトリックが自分の頭部から消えたため、好き放題できるぴーちゃんは、口から黒いモヤのようなものを吐く。
それは自身の毒を細かい霧状にしたもので、空気と混ざることにより、毒性は薄められるものの、視神経に作用し、数時間目が見えない状態となる。
目の見えない兵士達が闇雲に槍を振り回すが、ぴーちゃんにとって槍など、綿棒で撫でられるようなものであった。
ブンッ
と振られた尻尾に、運悪く当たった者が空を飛んでいき、地面に激突して命を終える。
少し後で到着したスネークス王国軍達が見た光景は、空から落ちて呻く兵と、ぴーちゃんに押しつぶされて、内臓をぶちまけた死体、それに視力が回復せずに、ひたすら槍を振り回している兵達だった。
「あんな死に方嫌だなぁ」
とあるスネークス王国兵が、内臓をぶちまけて息絶えた敵を見て、ポツリと言葉を漏らした。




