真名
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パトリックが独立を宣言し、スネークス王国を建国した年の秋。
作物の収穫も終わり、スネークス王国民達は冬に備える。
まあ、スネークス王国は北以外は温暖な気候であるが。
「準備は整った」
と言う、スネークス王城の広間に居る、黒髪に黒い瞳を持つ男。
「兵も集めた……」
続けて発した言葉は、これから戦に突入すると告げる。
だが、少し言葉が弱々しい。
砦には大量の食糧に武器を運び入れ、準備万端である。大型の馬車に大きな馬も多数手に入れてある。
兵士の強化と配置も既に終わり、明日の夜明けより王城を出て第1砦に入る予定であった。
ザビーン帝国の食糧不足は、この年の収穫では解消出来なかったと、情報も入ってきている。
先の戦で、占領した土地の畑を荒らしてしまったため、不作だったのだ。
この冬が明けた時の食糧確保のために、攻めてくるのは、ほぼ間違いない。
それに先手を打つべく、先に用意していたのだ。この大陸には宣戦布告などという風習は無い。
そのため砦などで監視しているのだから。
ザビーン帝国が戦の用意が終わって、攻めてくるのを待つ必要などない。
のだが、
「なのに何故、今なんだ……」
ギャ?
キャギュン?
と鳴く2匹の翼竜。
「いや、良いんだよ。プーとペーの愛の結晶だ! キチンと温めて可愛い子を、私に見せてくれよ」
と、パトリックが2匹に言うと、
ギャ!
ギュッ!
と、嬉しそうに2匹が鳴いた。
そう、スネークス王城の広間にあるプーとペーの共同寝床には、大きな卵が2つ!
ペーが卵を産んだのだ。いっこうにペーに対して発情しないプーに、痺れを切らしたペーが襲っていたと、パトリックは使役獣係のガルスから報告は受けていた。
「プーとペーに乗って、敵の砦を先制攻撃しようと思ってたのに、2匹で卵を1つずつ温めるから無理か。ポー達は城の防衛で堀の中だし、そもそも水の外では動きが遅いしなぁ。体は硬いから矢などは刺さらないけど、どうするかなぁ?」
と、パトリックが独り言をいうと、パトリックの右肩を何かがポンポンと叩く。
「ん?」
と言って振り返ると、ぴーちゃんの大きな顔が。
ニヤリと笑ってるように見えるのは錯覚だろうか?
「え? 俺の血?」
ぴーちゃんがパトリックに何か言ったのだろう。
パトリックが聞き返すと、頷くぴーちゃん。
「別に良いけど、喉が乾いたなら水持ってくるよ?」
パトリックがそう言うと、首を振るぴーちゃん。
「ん? 違うの? 進化に必要? ぴーちゃん進化するの⁉︎」
そう言いながら左腰の刀を抜いて、左手小指をスッと刃に滑らせ、傷から滴る血液。
口を開けてぴーちゃんがそれを飲む。
「もういいの?」
口を閉じたぴーちゃんを見ながら、パトリックはポーションを飲む。パトリックの指の傷がスッと消える。
ぴーちゃんはパトリックを見つめる。
「え? 真名を呼べ? 本当の名前を?」
パトリックが聞き返すと、ぴーちゃんが激しく首を縦に振る。
「ピクロスティアー」
パトリックがそう言った刹那、呼ばれた真名に呼応するかの如く、激しく光り出したぴーちゃん。
数分後、光が収束しその場に居たのは、虹色の光沢を放つ黒真珠のような鱗を持つ、一匹の巨大な蛇。
紅い瞳に、頭部から前方に伸びる2本の角。
その姿は常陸国風土記に登場する、夜刀神のようであった!