首脳陣
さて、今現在のスネークス王国はというと、軍の再編と武器の確保に走り回っている。
武器のほうはドワーフ達が、酒目当てで以前から多数がスネークス領に移住していたのだ。
普段の夜は、酒を飲んで騒いでるドワーフ達が、夜も仕事をして現在フル回転で製造中である。
何故か?
「貴族用のブランデー、飲んでみたくないか? 期日までに必要数揃えてくれたら、関わったドワーフ1人につき、ブランデー1瓶、報酬とは別でプレゼントするぞ?」
パトリックが使った殺し文句である。
普通では無理な量の注文だったが、ドワーフ達はそれを聞いてイチコロであった。
そのため武器の確保に目処がたったのだが、食糧確保のため、わずかに酒の製造量が減っている。
保存食になる麦や米を使った酒が減っているが、国民達には他の安いワインや酒で誤魔化している。
特にドワーフには、絶対に気付かれてはならないのだ。
酒の切れ目が縁の切れ目とは、ドワーフの諺で1番有名な諺なのだ。
旧スネークス本館、現スネークス王国王城では、現在首脳陣を集めて会議中である。
「ミルコ宰相、軍備の増強具合は?」
と、パトリックがミルコに訊ねる。
「はっ! ドワーフや職人達の頑張りのおかげで、現在予定の8割ほどです。あと1か月ほどで揃うかと」
と、ミルコ宰相が答える。
そう、ミルコはスネークス王国宰相に任命されたのだ。現在の爵位は侯爵である。
「よし、順調だな。エルビス大将! 国軍の鍛錬具合は?」
「は! スネークス王国兵は問題ございません! 現在、アボット侯爵領兵や、第1砦兵(元西の砦の、西方面軍)ワイリー伯爵、ヴァンペルト伯爵領兵達(ワイリーとヴァンペルトは伯爵に任じられている)の訓練をリスモ少将、トニング少将の指示で強化しております。他の家の領兵はコナー伯爵領兵以外は、全くついてこれませんので、治安維持部隊として割り切りました」
と、大将に任命されたエルビス伯爵(家名をエルビスにした)が答える。
「まあ、仕方ないな。それで良い。ワイリー中将! 第1砦の設備強化の進行具合は?」
「は! 現在、西と北の砦を繋ぐ柵を設置中ですが、おそらく間に合いません」
「まあ、そうだろうな、他は順調か?」
「はい、隠し砦も、ほぼ完成です」
「よし! ヴァンペルト中将、北の第2砦(山岳地方にメンタル王国が設置工事をしていた新砦)の状況は?」
「柵に関しては西と同様です。他はほぼ完成であります! 抜けた北方面軍兵士の後釜に、山岳地方出身者を入れて、現在アボット殿主導で訓練中です」
「よし、北からの柵は諦める。西からの柵を手伝え。クスナッツ少将、我が城の防衛強化の進行状況は?」
「はい! 現在城壁の補修、改善中ですが、順調です」
と、王城警備隊の指揮官である、クスナッツ少将(クスナッツを家名にし、爵位は子爵)が答えた。
「アイン少将、ザビーン帝国の動きとメンタル王国等の動きは?」
「は、まずメンタル王国から。メンタル王国内の貴族の再編と、兵士の募集で、てんやわんやです。カナーン侯爵の元に、数名の人族の魔法使いを集め、メンタル王国魔法部隊を結成し、訓練中です。まあ、デコース殿を入れて3人ですが」
と、答えたアイン少将(こちらも、爵位は子爵で、アインを家名にした)。
「ほう、2人も見つけたのか!」
「はい、いずれもドのつくような田舎の今年30歳になりたての男と、見つかるのは同じ条件ですので、人族が魔法使いの能力が発現するのは、30歳なのかも知れません。我が国もその辺を念頭に探れば見つかる可能性があり、現在調査中です。そしてメンタル王都のスネークス邸ですが、スネークス王国大使館として活用していて、そこを拠点に麦と酒をメンタル王国に輸出しております。先日、その大使館でプラム王国大使と会談いたしました。我が国の事をすんなり承認し、友好条約の締結を求めています。出来れば対等な条約をと言ってますが、それは蹴って陛下の舎弟国家扱いで良いかと。それとザビーン帝国の方ですが、ここ数年の慢性的な食糧不足と、先の西の小国との戦により、兵士も国力も減っています。攻め時かと!」
「わかった! では皆は最後まで気を抜かぬよう頼む!」
パトリックがその場に居る者達の顔を見て言うと、
『御意!』
と、声が揃う。
「私はプラムに飛んで、対等な条約とか偉そうな事言ったアイツをシメてくる!」
パトリックの眼の奥が怪しく光る。