ウィリアムとマクレーン
その後、戦が始まる前に、王城からコソコソ逃げ出す兵士達に、それを捕縛するウィリアム派の兵士達。
正気に戻ったのと、兵士の数が減ったのを見て、観念して投降するベンドリックやケセロースキーなどの貴族。
そして最後に城から出て来たマクレーン。
「兄上」
「マクレーン」
対峙する2人の王子。
「此度の件、色々調べてみました。おそらくアーノルドというダークエルフの魔法によって誘導されたのでしょう。そやつの遺体から割れた魔力結晶を見つけました。しかし、心の中に思っていない事を、行動に移す事はできぬという噂、皆の心の底にある嫉妬の心を、コントロールされたようです。よって責任が無い訳では無いのは、自分でも自覚しております。責任を取って自害してもよいのですが、それではこれからのメンタル王国の運営に、支障が出るやもしれません。騒動を解決したのは、おそらくスネークス。力無き王に仕える者はおりませんし、ここは1つ、正々堂々と剣で勝負といきませぬか?」
「マクレーン、死ぬ気か? 私の剣の腕は知っているだろう?」
「技なら王国で随一! 知ってますよ。ですが、優しいゆえに人を切った事がない。ならばチャンスは有るかと」
「私はパトリックと約束したのだ。マクレーンの首は私が取るとな、今回ばかりは優しさを捨てたのだ」
「ならば見せてもらいましょう。兄上の覚悟を! いざ!」
「いいだろう! こいっ!」
そうして皆が見てる前で、1対1の勝負が始まった。
走り寄るマクレーンをじっくり見据えたウィリアム。
両手剣を振り下ろすマクレーンを、ギリギリで右に回避して、自身の左足でマクレーンの剣を待つ手を蹴り飛ばす。
マクレーンが痛みでわずかに息を漏らした。
「甘いぞ、マクレーン! その腕では私には勝てんぞ?」
「兄上こそ甘いのでは? 蹴りではなく剣で斬りつければ、勝敗は決したはず。やはり人は斬れませぬか?」
「次は斬る!」
「斬れますかね?」
「斬れるさ。パトリックに誓ったのだ」
剣を構えてウィリアムが叫んだ。
マクレーンが再び走り寄り、ウィリアムの腹を目掛けて横から剣を振った。
ウィリアムはその剣を大きく一歩踏み出して、掻い潜るようにして回避。その体勢のまま前に出ているマクレーンの右膝目掛け、剣を振り込む。
ザンッと音がしたかと思うと、マクレーンの右膝から下が、宙を舞う。
「ウガッ」
と、苦痛に声をあげると、そのままうつ伏せで地面に激突し、勢いよく転がっていきようやく仰向けになって止まった。
地に倒れたままマクレーンは、
「グッ、やはり兄上には勝てませんでしたか。しかし、アイツのせいで私の人生、めちゃくちゃになったなぁ。初仕事の予定だった、スタイン男爵家をヤツが潰してしまい、私の初仕事は、ショボイ脱税の取り締まり。第3王子だから、そのうち爵位を貰って領地運営かと思っていたら、ヘンリー兄が謀反で処刑され居なくなって、王位継承権が第2位になって、もしもの時のために独立して領地運営の話も立ち消え。とりあえず宮廷貴族の伯爵にと言われたが、そんなの納得できない! アイツの殺気を浴びたせいで、夜もぐっすり眠れず、間近で人の殺気を浴びるのが怖くて、戦などで先陣きるなどとても無理になるし、やりたかった事はことごとく潰されて、このまま王の予備として生きていくくらいなら、いっその事、王になったほうがマシだと思った。そこにベンドリックの甘言。チャンスかと思って王を目指したのだが、この有り様。何が悪かったのかなあ。自分の人生を良くしたかっただけなのだがな。全てアイツせいだ! アイツさえ居なければ、こんな事にはなっていないのだ! あの疫病神め!」
マクレーンが、ここ数年の事を振り返る。
「私を毒殺でもすればよかったのだよ」
ウィリアムがマクレーンに言うと、
「毒殺は苦しいでしょう? 半分とはいえ血の繋がったウィリアム兄上の、苦しむ姿は見たく無かった。小さい頃は可愛がって貰いましたしね。あの頃は楽しかった」
「あの頃は皆、仲が良かったからな」
「いつからだろう、3人の仲がおかしくなったのは」
「ヘンリーが10才くらいの時だな。アイツの背後にレイブン家がチラついた頃からだな」
「ああ、あの頃ですか。ヘンリー兄は、成長も早かったし風格も有りましたからね。派閥なんて私にはあの時関係無かったのに、周りが許してくれなくなりました。あの時父上が、さっさとウィリアム兄上に王位を譲っていてくれたらなぁ……今更か。さて兄上、そろそろ、私にトドメを。失血で意識が、朦朧と、してきました。出来れば、苦しまないで済むように、首を飛ばして欲しい。出来るで、しょう? 兄上の剣の腕は、超一流、なのですから」
「技があるだけの、人を切った事が無かった心弱き王子だったがな。さらば弟よ。出来れば次に生まれ変わったときに、また兄弟になれることを祈る!」
そう言ってウィリアムの剣が振り上げられる。
「今度は、仲の良い、平民の、兄弟が良いなぁ」
途切れ途切れに言葉を発するマクレーンの瞳から、一筋の涙が流れた時、振り下ろされたウィリアムの剣により、マクレーンの首が音も無く胴体から離れた。
マクレーンの頭部を、俯いたまま見つめるウィリアムの瞳からも、滴が溢れる。
数秒たった後、顔を上げたウィリアムは、
「謀反を起こしたマクレーン・メンタル第3王子、このウィリアム・メンタルが討ち取った!」
剣を天に突き上げ、ウィリアムが大声で叫んだ。
その声に、王太子派の貴族や兵士達が、
『おおおおっ!』
と、ウィリアムを称える声をあげた。