悪巧み
ケセロースキーがさった後、
「魔法はどの程度の範囲まで効くのだ?」
ベンドリックが聞くと、
「王城の周り数百メートルなら、嫉妬深い人ならば効きます。日暮れ前に魔法を展開しておきましたので、王太子派の奴らも既にかかっているかもしれません。すべて私にお任せを」
と、執事のアーノルドが返す。
「欲深そうなスネークスに力を与えておけば、そのうち王家を乗っ取って、新たなメンタル王国を作ってくれると思ったのに、あまりにも王に従順で、拍子抜けしたわい。王に色々言って奴に有利になるようにしてやったのに、あの恩知らずめ! アーノルド、お前の魔法で奴がこちらに転がれば良いのだがな。メンタル王国は、優しくなり過ぎた。いや、メンタル王家がかな? 戦に明け暮れた昔が懐かしい。現王家を潰し、強いメンタル王国の復活を、いや大陸の覇者を望んだ先代の王と私の野望のためには、王家が変わらねばならん。スネークスがこちらに来なければ、アンドレッティ公爵家や他の王位継承権を持つ家を潰し、侯爵家で1番王家の血が濃いウチが王家となり、メンタル王国ベンドリック王朝の始まりの年にして、息子に帝国を押し除けさせ、メンタル王国が大陸の覇者となるのだ! あの翼竜は厄介だが、城のバリスタの掃射でなんとか落とせよう!」
そう言ったベンドリックの瞳に、淀んだ濁りが見えた。
一方、王城の浴室で、身体を清めるマクレーンの背中を流す侍女。
マクレーンの手が、侍女の肌を撫でている。
「殿下、今日もですか?」
侍女が尻を撫でられながら、拒否もせずに言う。
「私には妻1人では足りないのだ。妻が身篭ったら第2王妃として迎えてやるから安心しろ、シータ」
と、尻を撫で続けながらマクレーン第3王子が言うと、
「私が先に身篭ったらどうするのです?」
と、侍女のシータが悪い笑顔で、マクレーンに聞く。
「その時はシータ、お前が第1王妃だ」
シータの顔が見えないマクレーンは、前を向いたままシータに答えた。
「嬉しい!」
シータがマクレーンの背中に抱きつく。
そんな感じで、いちゃついてるシータとマクレーン第3王子。
あのやり取りの後、ここまで状況を把握出来てないとは、呆れるしかない。
魔法のせいだと言い訳出来るかも知れないが、言い訳出来る相手がいるのかどうか。
そうして、ことに及ぶマクレーン第3王子と侍女のシータを、広い浴室の太い柱の影から、隠れて見ていた黒い瞳。
「あーあ、マクレーンの奴やりたい放題だな。しかし、呆れてものも言えん。この状況で何が第1王妃か。女の方も相当頭悪いな。せいぜい楽しんでおけ。コッチはとりあえず城内を引っ掻きまわしとくか」
その場を立ち去り、脱衣所の扉に落書きを残して去るパトリック。
[シータは、ベンドリック宰相とも寝てるぞ?]
と、扉にナイフでしっかりと彫っていった。
その後、ベンドリックの部屋のドアの隙間から、
[シータはマクレーンと一緒に風呂入って、楽しそうにシテたぞ?]
と書いた手紙を滑り込ませる。
ケセロースキーの部屋にも手紙を。
[ベンドリックの娘はやつの執事、アーノルドの手つきだぞ? いいのか?]
と、書かれていた。
その後、女性の部屋に男性の下着を、その逆もして回り、食べ物は床にぶちまけて、ついでに廊下を汚水まみれにし、3軍の兵士を見つけては、背後から殴り飛ばして倒れ込む兵士を見下ろし、
「よう、俺と敵対するとはいい度胸だな。死にたいのか?」
と、脅していく。
震える兵士に、
「死にたく無ければ戦闘に突入した時に、寝返れ!いいな!」
そう言い残して去っていく。
気配を消しているとはいえ、やりたい放題のパトリック。