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王都に続々と集まり、王城を取り囲む地方の領軍の兵士達。
主な家をあげると、南のディクソン侯爵領軍に始まり、カナーン子爵領軍、キュベス臨時少将率いる南方面軍。
北は、アボット辺境伯率いるアボット領軍。ここには山岳地方出身の兵士も多数いる。
東は、ワイリー子爵領軍など。
西はもちろんスネークス辺境伯領軍。それにワイリー男爵領軍や、ヴァンペルト男爵領軍やコナー子爵領軍。
大兵力を持つ家だけで無く、いわゆる王太子派の領地貴族は、例外を除きほぼ出兵していた。
例外の出兵していない領は何故王都に来ていないかというと、戦闘に巻き込まれないように、貴族の婦女子達の避難先になった領地だ。
そこの領地は勿論、他の家から兵士が応援に集まっている。
対する第3王子派は、王城内にて籠城の構えである。
本来、籠城とは援軍をアテにする戦法であり、プラム王国からの援軍を、パトリックに潰された今となっては、愚策でしかないが、それはまだ伝わっていない。
取り囲まれた城の窓から、王太子派の軍を見つめるマクレーン第3王子。
「ふん! アリのように群がりやがって」
マクレーン第3王子がそう言った時、上空を滑空するように、音もなく飛ぶ漆黒の翼竜。
「今すぐ城門を開け! 降伏しろ! 命だけは助けてやるぞマクレーン!」
プーの背中から大声で叫ぶパトリック。
それを、王城を取り囲む貴族や兵士達が、静かに見つめ聞いている。
「やかましい! 全部お前のせいだっ!」
プーの背に乗るパトリックにむかって、大声で叫ぶマクレーン第3王子。
「なんで俺のせいなんだよ!」
と、すかさずパトリックが返すと、
「お前が貴族になってから、この国はロクな事がない! 兄は謀反起こすわ、貴族は反乱するわ、私が手柄を立てるはずだった、禁忌を犯していたスタイン家を勝手に潰すわ、全部お前が悪いんだ!」
とマクレーン第3王子が、ツバを飛ばしながら怒鳴る!
「反乱は俺のせいじゃねーだろうが! だいたいヘンリーの反乱の時に、命を助けてやったってえのに、えらい言い草だな、このガキ!」
「誰がガキだ! あの時、この身に感じた恐怖のせいで、未だに夜中にトイレに1人でいけなくなったんだぞ! お前のせいだ!」
「俺はあの時、お前に何もしてねぇだろうが!」
「あんな殺気を近くで浴びれば、誰だってそうなるわ!」
「お前以外なってないだろうが!」
「侍女のシータや、アンジェリカも、夜にトイレ行けないって言ってたわいっ!」
「お前は男だろうがっ!」
「男も女も関係あるかっ!」
「ソナは1人で行けるぞ!」
「お前に嫁ぐような頭のおかしい妹と一緒にするな!」
「てめぇ、ソナの悪口言うんじゃねぇよ! 殺すぞ! だいたい頭おかしいのは、ヘンリーの時にその場に居たのに、また反乱を起こすお前のほうだ!」
「私は正常だ! ベンドリックやガナッシュ、ケセロースキーだって、私に協力してくれている! ベンドリックも言っていた! スネークスは、死神などでは無く、この国に滅びをもたらす悪魔だとな! お前に関わって、人生台無しにされた者達が、一体何百人居ると思っているんだ! お前さえ居なければ、反乱などしなかった家はたくさんあるのだ! 兄に味方する者達よ! よく考えてみろ! コイツと関わったばかりに反乱した貴族の家、いくつか思い浮かぶだろう? 酒を餌に商人を抱き込み、領地から商人を居なくさせて飢えた領地がいくつあるのか! ドワーフが消えた領地もあるだろう! 消えたドワーフは全てコイツの領地に居るんだぞ! この疫病神め!」
ツラツラと長台詞を言うマクレーン第3王子だったが、この言葉に一定数の者が納得してしまうのだった。
「やかましい! 自分のところで造った酒をどこに売ろうが、俺の勝手だろうが! とりあえず一晩時間やるから、ベンドリックや家臣と相談しとけ! さっさと降伏しろ! いいな!」
そう言ってパトリックが去ると、
「あいつのせいでグッスリ眠れた事がない。降伏などするものか!」
そう吐き捨てたマクレーン。