慌てる兵士
ジェイジェイは廊下を走る。
兵士達の詰所を目指して。
ドアを開けて開口一番に発した言葉は、
「みんな逃げろっ! 死神が来たぞ!」
であった。
「「「「え? マジで?」」」」
その場にいた兵士の中で、パトリックを知る者達の言葉が揃った。
ガナッシュの屋敷の兵士達は、噂は聞いていても実感がわかないので、キョトンとした表情である。
ジェイジェイは、そんなガナッシュの屋敷の兵士など相手にせずに、
「ああ、2軍か8軍に投降するならば、見逃してくれるってよ! お前らも、日頃の訓練で身に染みて解ってるだろうけど、死神と戦うなど、神に対して針1本で挑むようなもんだ! 俺は死にたく無いから、投降するぞ! 死にたい奴だけ屋敷を警備してろ! 他のやつにも伝えろ! 時間は15分貰った! 走ってきたけど、1分以上は過ぎている! あと13分程度しかないぞ! 助けたい奴がいるやつは、すぐ伝えて逃げろ!」
と、言うと、
「貴様っ! 逃亡するつもりかっ!」
と、ガナッシュの屋敷の兵士が、言いながら掴みかかってきたのだが、
「やかましいっ! お前らは死神の恐ろしさを知らんのだ! 邪魔するなっ!」
と言いながら、掴みかかってきた兵士を、渾身の力で殴り付けて、無力化したジェイジェイ。
床に倒れた兵士の腹部に、トドメとばかりに蹴りを入れ、ほかのガナッシュの兵士に睨みをきかせてから、
「逃げるなら、コイツみたいに歯向かう奴を、皆で無力化してから逃げるんだぞ! 邪魔されてはたまらん! いいな! 俺は外の奴らにも言ってから逃げる! じゃあ先に行くぞ!」
そう言って、ジェイジェイはその部屋を走って出て行く。
外に居る兵士の下へ、走って行ったのだろう。
残された部屋にいた兵士達は、
「俺は投降するぞ! 何が策はあるだよ! アッサリ侵入されてるじゃねーか!」
と、悪態をついたり、
「いやだ〜! 今、同じ屋敷の中に居るだけでも嫌だ!」
と、頭を抱えたりしていた。
「おれ、ここの侍女と結婚の約束したんだけど、どうしよ?」
と、女とよろしくやってた奴が言うと、
「連れて逃げりゃいいだろうが!」
と、隣の者が、そいつの頭を殴った。
「おい、そんな話してる場合か? 早くしないと死神に殺されるぞ! 今すぐ動けっ!」
その声と同時に、部屋の兵士達は走り出した。
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ジェイジェイが部屋から出たあと、屋敷内が静かに、だが確実に騒然としている中、パトリックは寝ている侍女の肩を揺すって起こすと、寝ぼけ眼でパトリックを見た侍女に、
「助けに来た」
と、告げる。
「え? 誰?」
と、侍女が尋ねる。
「パトリック・フォン・スネークス。王太子派の貴族だ」
そう言うと、
「スネークス辺境伯閣下でらっしゃいますか。失礼致しました」
と、慌ててその場に立ち上がった侍女が、頭を下げた。