ジェイジェイ2
「スネークス中将閣下っ!」
ヨハンの身体が廊下に横たわった事で、その背後に立っていたパトリックの存在を確認したジェイジェイが、眼を見開いて叫んだ。
パトリックの右手には、愛用の刀が握られている。
「よう、ジェイジェイ。声がデカいぞ。ウィリアム王太子に付くなら、今すぐこのドアの鍵を開けろ。3秒だけ待つ!」
パトリックの少しドスの効いた声に、慌てて倒れているヨハンのポケットから鍵を取り出し、ドアの鍵穴に差し込んで回したジェイジェイ。
「利口な選択をしたな」
そう言って、パトリックが刀を左腰の鞘に収めて、ドアノブを掴み、回してドアを押し開けた。
狭く質素なその部屋に居たのは、5歳ほどの男の子と、世話係の侍女。
小さなテーブルの上にあるロウソクの灯りが、部屋をぼんやりと照らす。
男の子は粗末で小さなベッドで寝ており、侍女はベッドの隣にある椅子に座り、ベッドのほうに倒れながら寝ていた。
「あの侍女はガナッシュの使用人か?」
パトリックがジェイジェイに尋ねると、
「いえ、ギブス家からついてきた侍女です」
と、ジェイジェイが答える。
2人の声は大きくはないが、小さくもない。
だが、その声に侍女も男の子も反応して起きる気配は無かった。
「ならば2人とも連れて行かねばな」
そう言って2人を見ながら、思案しだすパトリック。
「ジェイジェイ、ガナッシュを裏切りそうなヤツ、他にも居るか?」
と、ジェイジェイの顔を見てパトリックが聞くと、
「大半は嫌々従ってるかと」
と、真剣な顔でパトリックを見つめて、静かに答えるジェイジェイ。
「ふむ、ならばそいつら連れて脱出しろ! この屋敷を破壊する!」
と、パトリックが言うと、
「え? そこの2人はどうするので?」
と、疑問を口にするジェイジェイに、
「空に逃す!」
と言ったパトリック。
「逃げるのに、どれほど時間を頂けますか?」
ジェイジェイが尋ねると、
「どれだけ欲しい?」
と、希望を聞いたパトリック。
「20分! いえせめて15分!」
と、言い直したジェイジェイ。
「よし、とりあえず15分は待つ。が、感づかれたら待てないぞ? 上手く皆を連れて逃げろよ。2人を乗せるために、上空のプーを呼ぶから、プーが降りてきたらタイムリミットだ。逃げる先は2軍か8軍、白旗上げて投降しろ。」
と、ジェイジェイを見つめて、パトリックが指示すると、
「はっ!」
と、敬礼してからジェイジェイが、慌てて部屋のドアから走り去る。
「急げよ」
と、パトリックは静かに、ジェイジェイの出て行ったドアに向けて言葉をかけたが、その声ははたしてジェイジェイに聞こえたのだろうか。