ジェイジェイ
2つ有る月が出ていない、真っ暗な夜の空を飛ぶ漆黒の翼竜。
その翼竜は、闇夜に溶け込み誰にも発見される事なく、ガナッシュ侯爵の王都の屋敷の上を、音も無く旋回していた。
ガナッシュ侯爵の王都の屋敷は、広い敷地に豪華な造り。広く豪華な庭には、綺麗な花が植えられている。
その庭の花ビラを揺らしながら、ふわりと降りて来る翼竜は着地すらせず、すぐに上空に舞い上がった。
パトリックをその背から降ろして。
「さてと、どこから侵入するかな」
そう言いながらパトリックが歩き出す。
庭から屋敷に向かい、屋敷の周りをウロウロしながら、ようやく見つけた勝手口に、パトリックは1本の針金を取り出し、先をかるく折り曲げて鍵穴に挿入する。
カチャカチャと針金を動かして数分。
カチャンと小気味良い音がすると、パトリックがドアノブを回す。
ガチャっと音を立てて、勝手口のドアが開いた。人の気配が無い事を確認し、
「監禁されてるとしたら、一階ではないよな? 二階だろうな」
独り言を言いながら階段を捜す。
石造りの階段を上がり、真っ暗な廊下を見つめるパトリック。
パトリックの瞳に映る、壁の向こう側の人の体温。魔道具となった蛇の腕輪のおかげである。
廊下にある小さな蝋燭の灯りで、とあるドアの前に立つ2人の男の顔を確認したパトリック。
「3軍のジェイジェイと、ヨハンかよ。殺すのは訳ないが、さてどうするかな」
と、小さく呟いて歩き出すパトリック。
「なあヨハン?」
と、ジェイジェイが声をかける。
「なんだよジェイジェイ」
と、ヨハンが返す。
「俺たち、これで良いのかなぁ?」
「良いも悪いも、ガナッシュ中将に逆らう訳にはいかないだろ?」
「そうだけどさ。できる事なら、ウィリアム王太子殿下に付きたかったなぁ。平民の俺にゃあ、長子が継ぐのが良いように思えるんだよなぁ」
と言ったジェイジェイに、
「俺はマクレーン殿下に従って、天下取って貰えれば、出世出来るって賭けにのるぜ! あのままだといいとこ少尉で退任だ。大尉になってどこかの貴族様から騎士爵貰いてぇ!」
と、ヨハンが自分の野心を口にする。
「スネークス中将閣下に勝てるのか?」
「そりゃ死神は怖いが、マクレーン殿下やガナッシュ中将だって策が有るからやってんだろ? ならチャンスあるぜ!」
とヨハンが言ったのだが、その時、
「チャンスは無いがな!」
と、聞き覚えのある声が。
「「え?」」
ジェイジェイとヨハンの声が揃った時、
「ウッ」
と、ヨハンの声がすると同時に、ヨハンの首がポロリと廊下に落ち、首から大量の血液をぶち撒けて体が頽れた。