ニック
ニックは、闇蛇隊の隠れ家にたどり着くと、そこで飼育されている馬に跨る。
向かうは王都の南。
「とりあえずディクソン領かな? お館様が居るとすれば、ディクソン領かカナーン領だろうし、今はディクソン領のほうが、可能性高いだろうしな」
そう呟いて、馬の腹を両足で蹴った。
馬がスッと駆け出し、王都の門を抜けた。
スネークス領軍が携行する物と同じ携行食を、馬の上で齧り水筒の水を飲み、馬の休憩以外は、寝ずに街道をひた走るニック。
2日後、ニックがディクソン領に到着する。
ディクソン侯爵家の屋敷を訪ね、
「スネークス辺境伯家の闇蛇隊所属、ニックです。お館様はこちらに滞在中でしょうか?」
と、門番に聞くと、
「辺境伯閣下は、今は不在でございます。ヴァンペルト男爵殿なら滞在中ですので、お取り次ぎいたそうか?」
と、言われたニックは、
「お願い致します」
と、頭を下げた。
「少しここでお待ちを」
そう言って門番が屋敷の中に消え、暫くしてヴァンペルトを連れて出て来た。
「お、ニックじゃないか。ご苦労さん。お館様は今いないが、ここで待つか?」
ヴァンペルトの言葉に、
「お館様は、どちらの方角に立たれました?」
と、ニックが聞くと、
「正直分からん。プー様の背に乗って飛んで行かれたからな」
「それはいつの話でしょうか?」
「一昨日だな」
「ではここで待たせて貰ってよろしいでしょうか? 合図の矢を適時放てば、近くを飛行中なら、プー様が気がついてくれるはずですし」
「ああ、あの聞こえない鏑矢な」
「はい、我ら人族やエルフにも聞こえぬ音ですが、竜種なら聞こえるという鏑矢です」
「動き回るより早そうだし、それで良いだろう。馬を預けて少し休め。顔色が悪すぎるぞニック。寝てないだろう?」
「いえ、お館様にモルダー様からの連絡をお伝えするまでは、寝るわけにはいきませんから!」
「ならば飯くらいは食え」
「かろりーびすけっとは、栄養はあるみたいですが、味がイマイチなので、飯は有り難いです」
「かろりーびすけっと、喉渇くんだよなぁ」
ヴァンペルトが嫌そうに呟いた。
その後、1時間毎に、ニックは上空に向け鏑矢を放つ。
四度目の鏑矢を放った20分後、空気を切り裂くような音と共に、漆黒の翼竜がディクソン侯爵の屋敷に戻ってきた。
♦︎♢♦︎♢
「なるほど、東のキュリアル男爵家か」
パトリックがニックの報告を聞き、そう呟く。
「はい、ギブス侯爵様の話ですし、孫の命がかかっているので、嘘はないかとは思いますが、確認作業はしていません。先ずご報告をとの事です」
ニックがそう伝えると、
「とりあえずあの人の人柄を信じるとして、先にアリシア第3王妃を救い出して、その足でギブス法務長官の孫って流れだな、プーでひとっ飛びといくか」
そう言って、パトリックは再びプーの背に飛び乗る。
「ニックはここで待機! とりあえず寝ろ! いいな!」
パトリックの言葉に、
「はっ!」
と、答えたニックであった。