死神スネークスの翼竜
「死神スネークスの翼竜を、倒せると思っているのですか?」
ソフィア第2王女が、マクレーン第3王子の顔を睨みながら言うと、
「たかがワイバーンのデカイ奴程度だろう! バリスタで蜂の巣にしてやる! スネークスの腕前は上の下程度、なんとでもなる!」
と、口元を緩めるマクレーン第3王子。
「マクレーン、あなたは翼竜の強さを知らないのですか?」
少し目を見開いて、マクレーン第3王子に尋ねるソフィア第2王女。
「あんな絵本のお伽話を信じているとか、姉上の頭は相当なお花畑ですな!」
ソフィア第2王女の顔を、馬鹿にした表情で見下ろすマクレーンに、
「信じてないのですか?」
と、ソフィア第2王女は、少し呆れた表情をする。
「翼竜1匹で大陸を荒れ野原にするとか、あり得ません! 姉上は世間の常識には疎いようですな。たかが竜の1匹や2匹で、この広い大地は荒れ野原にはなりません! せいぜい村1つ程度ですよ!」
そう言って部屋を出たマクレーン。
「世間を知らなくても、伝承とは真実を伝えるものなのは知ってます。バカな弟」
ソフィア第2王女が、小さな声で呟いた。
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王都の一軒の酒場。
客は一人としておらず、今の王都の混乱さを物語っている。
酒など、飲みに出れる状況ではないのだ。
モルダーが入り口の扉を背に、カウンターに雑巾がけをしていると、
ガチャ、カランカラン
と、ドアの開く音と、ドアの上に取り付けてある鐘の音がほぼ同時に鳴る。
「いらっしゃいませ」
モルダーが声をかけて振り返ると、
「マスター、いや、モルダー、取引がしたい」
と、声をかけてくる男性。モルダーの素性を知っているようだ。
「取引? ふむ、とりあえず席にお掛けください。お話しをお聞きしましょう」
そう言って、カウンターの中に入り、グラスにウイスキーを注ぎ、氷を浮かべてカウンターに置いたモルダー。
「孫を助けてくれるなら、アリシア第3王妃の行方を教える」
そう言った男に、
「えっと、今はギブス侯爵閣下とお呼びしましょうか。お孫さんを助けるとは? それに何故我らが、アリシア第3王妃を捜していると知りました?」
モルダーが少し目を細める。
「孫がマクレーン殿下に、人質として連れ去られた。アリシア第3王妃の件は、これでも侯爵だ。法務長官でもあるし、それなりに耳は広いし、探りを入れてくる者の言葉から、推測するぐらいの頭はあるさ」
ギブス侯爵が、力なく笑ってモルダーに言うのだった。